スキルと魔法の同時行使
皆様、お久しぶりです。不定期で申し訳ありません<m(__)m>
今月の終わりからテストが始まりますけど、月に三回の更新を目標にしたいと思います。第2回ライト文芸新人賞 MFブックス部門 一次選考通過を祝して、今回は四回を目標にします。
キリヤの放った暴風波は想像よりも遥かに弱い威力でしか発動出来なかった。ハプドヴァースが使った時以上の威力を込めてあったのに関わらずだ。キリヤの体感では数倍の魔力を消費していると思われる。オクゾールによって放たれる石礫の量は依然として大量である。それを完璧に避ける事は難しい。よって、飛来してくる石礫を風流操作を用いて軌道を逸らす。その間にキリヤは考える。思考を止めずに考える。
(何故、威力が出ないんだ……)
キリヤの思考中にも石の雨は止まないどころか、徐々に威力が高まる始末だ。その為にキリヤも徐々に出力を高めなくては石礫の嵐に身を晒されてしまう。
「どうしたぁぁ!! 逃げる次は防御だけか? 小蠅だと思ったが、チキンだったか!!」
大声で捲くし立てるオクゾールだが、妙な違和感を感じずにはいられなかった。不明な事が多すぎるのだ。殺した筈のハプトヴァ―スが生きていた。それも、魔力まで回復しているときた。何より、先ほどまでに戦っていた小娘の姿が消えたことにも理解が追いつかない。もしや、近くに隠れているのかもしれないとも考えたが、その様子は見られなかった。オクゾールは意外にも脳筋ではなかった。オークにしては冷静に状況判断が出来るだけの頭脳も持っている。その為にも迂闊に攻め込む真似はせずに、ジワジワと様子を伺う。
(……何がダメなんだ。考えろ、考えるんだ。普通に戦えば、あんな奴を仕留める事は容易いだろう……だが、それではハプトヴァ―スの無念は晴らせれない)
キリヤはハプトヴァ―スの無念を晴らす為に彼の能力だけでオクゾールを倒そうと考えていた。しかし、今の状態では決定打には届かない。圧倒的に火力不足であった。せめて、ハプトヴァ―スが使っていた程の威力を出せれば、打つ手はある。しかし、キリヤが発動すると、同じ魔法でも出力がまるっきり違う。しかも、理由が不明なのだ。莫大な魔力を込めて威力を底上げする事は可能だ。しかし、届かない。根本的な解決には繋がらない。
キリヤは暴風波を詠唱を少し変えて放つが、先程と同じ様に防がれる。詠唱がダメだという可能性を考慮しての行動だったが、意味はなかった。再三に渡り、キリヤは暴風波を放つ。
オクゾールも黙って攻撃を防ぐだけではなく、攻撃を当然の事だが行っている。だが、互いの攻撃力は相手の防御力を超える事が出来ない。その為にイタチごっこの状態が続く。オクゾールは現在、土魔法で岩の鎧を身に纏っている。その防御力は非常に高い。
キリヤはその後も試行錯誤を繰り返すが、結果は芳しくない。
「風よ、我の求める軌道を描け 《ウィンドサークル》
この魔法は風の中級魔法として知られ、壁系とは違い攻撃を防ぐのではなく、軌道をずらす魔法である。今までは風流操作で防御し、風魔法で攻撃と言うスタンスを取っていたキリヤだが、攻守を切り替える事にする。キリヤは街で魔法に関する書物を読み、この魔法の存在を知っていた。勿論、使用した事はなかった。それを一度で成功させれたのも能力を所持していたからだろう。この魔法で石礫を風流操作の時と同じようにして軌道を逸らし、攻撃を受けないようにする。
防御を風魔法に任せ、風流操作での攻撃に移る。風の刃、空気の塊、竜巻……等の風流操作で使えそうな攻撃を放つが、暴風波と同様にオクゾールの防御を破るのが極めて困難だった。
キリヤの攻撃は通じないが、相手の攻撃は徐々に威力を増し続ける。その為、キリヤの風魔法での防御が破られるのは時間の問題だ。キリヤは風魔法を使ったのが初めてなのに対して相手は長い年月を掛けて熟知している。経験の差がある。能力を所持しているから使える事は使える……が、使いこなせていない。その差が少しずつ顕れてくる。莫大な魔力を保持しているキリヤからしたら大量に魔力を込める事は造作もない。しかし、徐々に魔力を込めるなんて工程は真似出来ない。一長一短で出来るものではない。
「チッ、煩わしい」
風魔法の防御が徐々に破られ始め、キリヤは仕方なく、風流操作でも防御に入る。攻撃の雨に晒されていると、思考が纏まらないと思ったからだ。特に考えは無かった。しかし、それが新たな発見につながった。無意識に『風魔法』と『風流操作』を同時に発動させた事で、今までにないぐらいに魔法の質が向上したのをキリヤは感じられた。
(まさか、風流操作を行使して風魔法を発動すれば……)
この考えは完全な閃きだった。確証もないが、キリヤは決意する。そして、行動に移った。
この時のキリヤは落ち着いていた。腫物が落ちたかのように清々しい表情をしていた。先程までの様な焦りはない。ただ、純粋に思った事を試したいと考えていた。そして、集中する。
先ずは、自身の周囲に展開していある風を意識する。その気流を乱さない様に細心の注意を払い、気流の向きを変更する。その間にも絶え間なく、敵の攻撃は降り注いでいるが、全て気流によって弾かれる。あるいは、軌道が逸らされている。
「風よ、我の敵を蹴散らせ 《暴風波》 」
今まではキリヤを中心とした螺旋を描いていた軌道がオクゾールに向けて一直線の軌道に変わる。その風は渦を形成しオクゾールに襲い掛かる。直径が3メートルと小型だが、その分だけ威力も凝縮された風の渦が一直線にオクゾールの胴体に迫る。オクゾールも「やばい」と直感で感じて咄嗟に防御魔法を唱え、両腕をクロスさせて暴風波を受けるべく防御態勢に移るが――――――結果は、オクゾールは仰向けに倒れ込んだ。
地面に倒れ込んだオクゾールを観察してみると、どれほどのダメージを受けているかが、よく理解出来た。両腕は前腕の部分から消失し、胸部辺りにはザックリと大穴が完成している。ダメージの所為か巨大化も解け、元の大きさに戻っていたが、辛うじて意識は残っている。それでも、戦闘を続行できる力も残っておらず、放置していてもすぐに息絶えるレベルである。
キリヤはオクゾールの側に歩み寄る。姿はハプトヴァ―スのままである。
「まだ、息があるのか。驚いた」
この言葉はキリヤの本心であった。キリヤの想像以上の威力の暴風波を直に喰らったので、既に絶命していると思い込んでいたのだ。
「―――――これでも……長だから、な。儂の……ゴッホ、ッゴホ。敗けじゃ」
満足に話す事も出来ないオクゾール。彼の体内の臓器―――循環器系は既にボロボロであった。暴風波が彼の身体を貫く時に彼の身体の中も無数に斬り付けていた事が原因だった。その為、吐血を頻繁に起こす。
「オクドーよ……儂も、すぐ……逝く、ぞ」
オクゾールは前腕部分のない右腕を天に向けてに上げる。キリヤは今の台詞と行動を見て、考える。
(オクドーって俺が眠らせた奴だよな? ……生きてるだろ?)
キリヤはハプトヴァースが挑発の為に言った嘘を知らない。
「オクドーは生きてるぞ。多分、今も眠っているだけだ」
その言葉を聞いたオクゾールはキョトンと顔を顰める。
「お前が……殺した、んだろう」
「俺は殺していない」
キリヤは真面目に応える。息子を想っての行動に対しては、外道が相手でも無下には出来なかった。
「……ほん、と、うか?」
最後の力を振り絞り訊ねるオクゾールにキリヤは「本当だ」と応える。
「なら……息子たちは、見逃して……ほ、しい。頼、む」
「俺は手を出さないが、他の奴等はしらんぞ」
キリヤの言葉に満足したのか、オクゾールは息絶えた。
息絶えたオクゾールをキリヤは喰らったが、能力はあまり増えなかった。被った能力や統合されたものが多かった。『巨大化』は『身体変換』に統合されるし、『蛮勇』や『猪突猛進』は『闇夜之暗殺者』に統合された。身体強化系は全て、ここに分類されるのだろうか。
ステータス
能力
通常/『剛力』,『遠吠え』,『鎌鼬』,『蜘蛛の糸』,『罠師』,『飛翔』,『鑑定』,『盾術』,『アラーム』,『裁縫』,『暗算』,『杖術』,『槍術』,『話術』,『斧術』(new)
稀少/『風流操作』,『聖気』,『神聖術』,『鎌の担い手』,『水魔法』,『光魔法』,『火魔法』,『土魔法』,『自然治癒率UP』(new),『風圧操作』(new)
固有/『能力進化』,『癒しの光』,『天賦の才・智』,『身体変換』,『猛毒魔法』,『天使武器』,『疾風』(new)
伝説/『神眼』,『闇夜之暗殺者』,『捕食者』
現在は、キリヤボノロア大森林に存在する三大勢力中の二つのボスを捕食する事に成功した。ゴブリンとコボルトは眼中になかった。
「後は……鬼だけか、正直に言えば、ハーピィもオークも予想より強かったから鬼は油断できないな」
キリヤは悩んでいた。ハーピィとオークにボスである二人が死んだ事を伝えるべきか。少し悩んで、伝えることに決めた。それからキリヤはハーピィとオークを探すべく移動を開始した。




