命懸けの鬼ごっこ。そして、大蛇との死闘
次回から一日一話ずつ更新の予定です。
読んでくださってる方はこれからも宜しくお願いします。
キリヤの目の前には、魔物と思われる死体がある。故に取れる行動も限られる。その選択肢は……
・喰らう
・逃げる
キリヤは迷わず『逃げる』を選択する。能力の『飛行』を使い、その場を飛び立った。
(別に逃げたんじゃないんだからねッ!...ゴブリンなんて大した能力も持って ないだろうから喰らう必要がないだけだからな)
キリヤは誰に言い訳ををしているのかすら、分からない。それでも、少しでも遠くに逃げたい気分に陥っていた。
最初からゴブリンを喰うとか難易度が高すぎる。先ずは見た目が普通そうなのから喰っていき、グロの耐性を付ける方が得策と考える。
まずは、蝶ぐらいかと思う。蟷螂らしいく。
この身体に転生してから半刻ほどの時間が経過するが、空腹を覚える事はない。蟷螂って空腹を感じるのかも分からない。
謎だ。どうすれば、いいのだろうか? その答えは今、考えても意味の無いものだと思い、思考を放棄する。
キリヤが森の中を飛んでいると、何かが近づいてくるのが分かった。
何故だか理解出来ないが、本能の様なものが囁いてくる。ただ一言だけ、逃げろと。
その直後に後方から何かが凄い速さでこっちに向かってきているような気がする。キリヤはとりあえず、飛行しながら後ろを振り返ってみる。
(何か居た! 鳥みたいなのが。もしかして、俺の事を食べようとしてたりな?……ハハハハ。そんな事あるわけないか)
全長20センチくらい。上面が黒く下面は白、額と喉が赤い。翼が細長く、尾も長くて先が二またに分かれている。前世の記憶から推察すると、ツバメだ。実際は違う鳥カモしれないが、そんな鳥とキリヤは目が合う。しかも、バッチリと。
目が合った直後にツバメは口を開き、更に速度を上昇させる。思いのほか、動きが速い。
(喰われる! 逃げないと。喰われて死ぬとか、絶対嫌だぁぁぁ!!)
キリヤは飛行の速度を上げて、急に旋回する。これで、撒けると考えていたが、現実は甘くない。
(どうだ? このまま木陰に隠れて、やり過ごそう)
だが、ツバメみたいな鳥も綺麗な旋回を決めて、キリヤの後方にまで追いついてくる。
(ヤバい! もうダメだ!)
そう思った時には、左腕が奴の口で捕えられた。口で咥えたままでも高速の飛行速度は落とさない。
(痛い、痛い! バカ、離せよ。腕が千切れるぅぅぅ)
痛みと熱を感じるが、腕は取れてない。だが、絶体絶命には変わらない。このまま巣までお持ち帰りされるかは判断が出来ないが、喰われる事だけは確定されてた。
――――そんなのは絶対に嫌だぁぁ!!
キリヤは自由の利く右腕でツバメみたいな鳥の顔をダメ元で切りつける。その時に奇跡が起こった。”スッパーーン”という擬音が付きそうな程に鳥の顔がキレイに切り裂かれた。
そのままキリヤと一緒に地面に真っ逆さまだ。
え!? キリヤも驚きの表情が隠せない。蟷螂の表情何て分からないが。
何故、二倍もの体格の鳥の顔を蟷螂の鎌で斬れるんだろうか? キリヤは考察した。地面に落ちながらである。答えもすぐに思い浮かぶ。『切り裂く者』の影響だと。
すぐさま『飛行』を使い地面に激突する前に鳥の身体に鎌を突き立てて地面に降り立つ。あと少し遅ければ、ツバメの方が肉塊に変わっていただろう。
そこで、キリヤの命懸けの鬼ごっこは幕を閉じた。
何で鳥の身体に鎌を突き立てて、地面に激突するのを防いだかって?
―――決まってんだろ、こいつを喰う為だ。喰われかけたんだ、逆に喰ってやるしかないだろ。だから、落ちるのを防いだのだ。地面に激突したら、肉塊になるだろうしな。鳥なら日本人の食生活に慣れ切ったキリヤでもギリギリ食えると考えたからだ。
(どうやって、食べようか。焼くか? 蟷螂だから無理だし、そのまま喰うしかないのか)
キリヤは諦めて鳥の身体に噛みついた。自分の二倍の大きさの鳥にだ。味は感じられないし、思ったほどの嫌悪感は感じない。
すると、何か得体の知れないものが身体の中に入ってくるのを感じる。
『飛行』を使うときに感じる妙な感じだ。多分、魔力だろう。
《能力『俊敏』を取得しました》
キリヤの脳に直接、声が聞こえる。
(おっ! また不思議な声が頭の中に響いたな)
『俊敏』か読んで字の如くの能力だな。能力の取得のすぐ後にそれは訪れた。
自分の身体を見てみると、変化があった。全長10センチぐらいっだのが、20センチぐらいに変化していた。
そして、翼があった。前からあったって?
―――それは翅だよ。鳥の翼だよ!
固有能力の『弱肉強食』の力かな? 力の一部を自分のものに出来るって身体の方も出来るだな。
能力だけだと思っていた。
(これを使えば、人型になれるな。人を喰う気にはなれないけど)
新たな発見もあったが、キリヤがこの森で命がけのサバイバル生活を始める事に変わりはなかった。
それから、時が流れる。命懸けの鬼ごっこから二週間が過ぎた頃。
この二週間は色々な事をキリヤは体験していた。簡単に言うと。
―――魔物や虫や動物を狩って喰らってました。
最近、気づいたのだが、喰わなくても魂を吸う感じで能力は奪えたのだ。
死んで間もない相手にしか使えないみたいだが。凄く便利である。
それと、自分は空腹を感じないらしい。てか、魔物だから当然なのかもしれないが。
もちろん、人間は喰っていない。まだ見かけた事すらないし。
この二週間のサバイバルでキリヤは強くなれた。多くの虫、動物、魔物を喰らったお蔭である。結果的に言うと、いろいろと能力が増えてある。
ステータス
名前/霧咲霧夜(仮)
種族/??? 《ユニークモンスター》
能力
通常/『隠密』,『気配察知』,『不意打ち』,『飛行』,『俊敏』,『擬態』,『剛力』,『忍び足』,『遠吠え』,『麻痺耐性』,『毒耐性』,『熱察知』,『幻覚耐性』,『魔力隠蔽』
稀少/『喰らう者』,『切り裂く者』,『麻痺を操る者』,『毒を操る者』
固有/『弱肉強食』,『能力進化』
新しく取得した能力の説明をしておこう。
『擬態』……周りの景色に溶け込み、認識しずらくする。
『剛力』……力を上げる。
『忍び足』……足音を消せる。
『遠吠え』……使わないゴミ能力だろう。
『麻痺耐性』……麻痺に耐性ができる。
『毒耐性』……毒に耐性ができる。
『熱察知』……周囲の温度が分かる。
『幻覚耐性』……幻覚に耐性ができる。
『魔力隠蔽』……魔力を隠せる。
『麻痺を操る者』……麻痺毒を精製できる。
『毒を操る者』……毒を精製できる。
そういえば、どんな奴から奪ったか説明してないな。
『擬態』はカメレオンみたいなのを喰らったら取得した。
『剛力』はゴリラみたいなのだな。
『忍び足』は静かに歩いて後ろから奇襲をしようとしたら取得できたのだ。
『遠吠え』は狼みたいなのからだ。
『麻痺耐性』と『麻痺を操る者』は蝶からだ。10匹程喰らっただろう。その中に 偶然、稀少持ちが居たんだろうな。
『毒耐性』と『毒を操る者』と『熱察知』は毒蛇からだ。こいつが今までの中で一番強かった相手だな。全長が6メートル程の大蛇だったな。今まで一撃で仕留めていたのにこいつとは命懸けで戦った。
『幻覚耐性』は狐だったな。
『魔力隠蔽』は別の狐だ。
この辺の魔物や生物は粗方喰らったし拠点を移動しようと考え始める。意外と能力持ちの魔物は少ない。何十、何百以上の能力無しを喰らっている。ハズレである。
キリヤは新しい獲物を求めて飛び立つ。もっと、強敵を求めてだ。強い魔物は能力持ちが多い事が今までの経験で知っていた。
この二週間で分かった事だが、ここが広大な森林であるということだ。
あれから東に10キロぐらい飛んで行くと、広大な湖があった。とりあえず、この辺りを次の拠点にする事に決めたのだ。
湖の近くまで来たキリヤは新しい獲物を探し始める。そういえば、自分の姿を一度も見ていなかったと思い、湖の水辺まで行き、湖を覗き込む。
そこには、胴体は毒蛇。腕は狐の手に蟷螂の鎌が鉤爪のように付いている。背中に鳥の翼を生やしている全長は3メートル程、横幅は50センチ程の化け物が居た。多分、合成獣と表現するのが適切と思われる。ちなみに、体色は黒っぽい紫色だ。
(ほぉ~、こんな姿に今はなっているのか。初めてキチンと見たが、龍みたいでかっこいいな……蛇だけど。少し大きいな、小さくなるか)
少し大きいから全長1メートル程で横幅が20センチぐらいにした。『弱肉強食』で喰った生物同士を組み合わせる事も出来るのだ。
ある程度大きさもも調整できるし。合成獣みたいな事も出来るから便利である。
そういえば、あの毒蛇は強かったな。ふと、キリヤは毒蛇と戦った時の事を思い出す。この頃の俺の身体は狼を主体にして背中に翼を付けていた。もちろん、手には蟷螂の鎌を鉤爪みたいに装着してある。鎌はキリヤのトレードマークである。
狼を主体にしている時は、嗅覚が良くなっているから獲物を探すときに便利でああった。能力持ちの狼を喰えば、もっと楽になるのだろうけど。キリヤは嗅覚の良さと能力『気配察知』で獲物を探す。まだ、見つけたことの無い匂いがしたので、その方向に移動を開始する。
数分後に鹿の様な生物を発見した。角が四本あったが、驚いたが喰う事に変わりない。決定事項であった。キリヤは躊躇わずに、背後から鹿みたいな生物に襲いかかろうとする。しかし、目の前の鹿に黒い影が襲い掛かる方が一瞬だけ早かった。
キリヤが喰う前に鹿は黒い影の餌食になった。キリヤは視線を逸らさずに黒い影に意識を向ける。黒い影の正体は巨大な蛇だった。その蛇は6メートル程の大蛇である。鹿はアッサリと丸呑みにされ、その生涯を閉じた。
(俺の獲物が……よし、代わりに大蛇を喰おう!)
キリヤは獲物を横取りされた腹いせに大蛇を狙う。『隠密』,『擬態』,『不意打ち』,『忍び足』を駆使して大蛇の背後から鉤爪の様な鎌を突き立てる。大蛇が暴れた所為で切り裂けずに、鎌が大蛇から抜けた。
(そういえば、初めて一撃で殺せなかったな)
この時、初めて初撃で仕留めれなかった。つまり、今までで一番の強敵である。そんな大蛇からは赤黒い血が流れでる。十分に戦える相手だとキリヤは判断する。
「シャッーー」
大蛇が威嚇してから全身をバネの様にして一気に突っ込んでくる。キリヤは後方に跳躍し躱す。攻撃を躱された大蛇は大きく息を吸い込み始める。そして、次の瞬間に。
「ブッシャーー」
紫色の吐息を勢いよく吐き出すが、キリヤは空中に飛び上がり上空に逃れることに成功する。その結果でキリヤが先ほどまで居た辺りの地面がドロリと溶ける。
(酸性の毒か……厄介な!)
キリヤが溶けている地面に気を取られた刹那。奴は隙を逃さずに上空に居るキリヤに全身をバネの様にして襲い掛かる。
(しまった! さっき、あいつが凄い勢いで跳ぶのを見ていたのに油断した)
キリヤの油断した一瞬の隙に大蛇はキリヤの身体に巻きつき身動きを封じる。
(身動きを封じてきたか……まじ、ヤバ……内臓破裂するんじゃねーの)
大蛇の巻き付く力は強大だった。能力の『剛力』があるのに逃げ出せない。まさに、手も足も出ない状況だ。
バキッと音が聞こえる。片方の翼が完全に折れた音だった。
キリヤは一か八かで『麻痺を操る者』を発動する。キリヤの周囲に麻痺毒を大量に発生させる。するとお、大蛇の巻き付ける力が少し緩む。その隙に鎌で巻き付かれている部分を切り落として脱出に成功する。
「グシャッー」
大量の血を流しながら、大蛇の身体が半分になる。それでも、上半身の方はまだ動いている。最後の力を振り絞って、大口を開けてから突っ込んできたのを『俊敏』のお蔭で素早く回避した。しばらく回避していたら、大蛇が動かなくなった。
大蛇が息絶えたのを確認してから喰らう。
(恐ろしい相手だったな。麻痺毒が効かなかったら喰われたのは俺の方だったな)
《能力『毒耐性』,『熱察知』を習得しました》
《稀少能力『毒を操る者』を習得しました》
頭に不思議な声が響いてから新しい能力の取得を知らせてくれた。この声がキリヤと大蛇との死闘に終わりを告げたのだった。