竜魔人の来訪
次回は一週間以内の予定です。
『フラグ回収』の方も更新せねば・・・夏休みの課題もあるし・・・泣けます。
キリヤ達がミユたちの昔話を聞いている頃、この街―――アイサークに三頭の竜種が近づいていた。しかも、その竜達は普通のドラゴンではなく、魔人でもあった。
「確か、この辺りの街だったよな?」
三頭の竜の中でも一際大きく強そうなドラゴンが残りの二頭に問いかける。
「はい。情報ではこの辺りだという事ですが」
「街の名前はアイサークでしたよね。人化して聞いてみましょう」
最初に聞いていたドラゴンも「そうだな」と返し、飛行を続ける。
「ドガル様! あの街じゃないですか?」
一際大きいドラゴンに部下みたいなドラゴンが確認した。
「そうだな、確認しに行ってみるか。下に降りるぞ」
三頭のドラゴンは人化してから近くの森林に降り立つ。
「ここからは徒歩か……面倒だな」
ドガルと呼ばれていたドラゴンが愚痴を零す。
「ですね、ガルザーク様が率いるドラゴンの中の最強の四天王が一人のドガル様が自ら行かなくてはならない相手なんでしょうか?」
「馬鹿者、勇者タカユキの仲間だった者だぞ! 油断するなよ!」
ドガルの部下の二人が言い争いを始める。
「案ずるな! 勇者タカユキは脅威だが、今から行くタカユキの元仲間は、そこまでの脅威は無いらしい。お前等でも十分に戦えるレベルだろう」
ドガルも二人の会話に加わる。
二十分程、歩いてからアイサークの門の前まで来たドガル一行。
「ここはアイサークと言う街でよろしいでしょうか?」
ドガルの部下の一人が礼儀正しく、門番の兵士に尋ねた。
「ああ、ここはアイサークの街で合っているぞ」
「では、ミユ・アンドウ……ではなく、ミユ・バーミリオンの居場所を知っていますか?」
ミユ・アンドウとはミユ・バーミリオンの旧名である。
「バーミリオン侯爵夫妻様に何の用だ?」
自分たちの街を治めている領主の妻の名前ぐらい存知ていた。
「ちょっと、連れて行こうとね」
礼儀正しく兵士に質問をしていなかった方の部下が何事も無かったかの様に話している。
「バンド! 何言ってんだよ!」
礼儀正しい方の部下は慌てて、バンドと呼ばれている男の口を塞いだ。しかし、もう遅い。
「連れてくだと? おい !貴様達に聞きたいことが出来たから付いてきてもらうぞ」
門番の兵士たちの数人が抜刀し、構えた。
「クソッ! どっかの馬鹿の所為で面倒な事に……」
「ングググ!…プハァ~。ドボルネ!苦しいじゃねーか!」
ドボルネに口を塞がれていたバンドは拘束から抜けて抗議していた。
「ガハハハ。まぁ良いではないか。せっかくこんな僻地まで来たんだ、いっちょ暴れていこうか」
ドガルは高笑いを浮かべ、目的の為にと街の中にと侵入しようと歩き始める。
「おい! 止まれ!」
「止まらぬなら、実力行使だぞ」
「おーい! 怪しい奴を捕えるのを手伝ってくれ」
流石に黙って、怪しい奴を街に入れる兵士達ではなかった。
「じゃあ、いっちょ暴れますか」
「仕方ありませんね」
ドガルの部下の二人も闘う気満々のようだ。竜種は元々、戦闘好きのバトルジャンキーの種族だからかは知らないが、二人も意気揚々としている。最初は面倒そうにしていたドボルネも例外ではない。
「二人はてきとうに暴れてから敵を引き付けておいてくれ。我輩は領主の館まで行ってくるぞ!」
ドガルの言葉と同時に人化して人型だった二人の姿が変わった。それは巨大なドラゴンにだ。バンドは門の周辺の兵士たちの相手を始めた。
門番達も急な出来事で驚愕していた。その隙にドガルは人型の状態で翼を広げ、貴族や裕福層の住む地域に向かって、飛び立った。
「バンド! 私は街の中枢の方に向かうから、ここは任せたぞ」
ドボルネがバンドに言葉を発すると、ドボルネも飛び去った。
「任せておけ!」
街の方でも大騒ぎである。
「糞ぉぉ!! 何で竜種が二体も居るんだよ」
「人型のアイツを含めると三体だ」
「アイツ等は人化と呼ばれる術を使っていたところを見ると、上位種か下手すれば魔人かもしれんぞ! 気を抜くな。それと、急いでこのことをバーミリオン侯爵に御伝えしろ! 急げ!」
門の警備隊長は大声で叫んでいた。
場所は変わって、バーミリオン邸で寛いでいるキリヤ達一行である。
「……あれ? 何か騒がしくない?」
最初に異変に気付いたのはミユだった。
「確かに、街の方が少し騒がしいですね」
キリヤ達は窓から街の方を覗き込む。すると、そこには燃えている建物や壊れている建物が多数見かけられた。その中で一番に目を見張ったのはドラゴンの存在だろう。
「えっ!?……ドラゴン?」
「街が大変な事に……早く、助けないと」
そこに執事さんが大急ぎで部屋に現れた。
「旦那様方、街がドラゴンに襲撃されております!」
「分かっておる! 私はこれから軍を率いてドラゴンの討伐に向かう。屋敷を頼むぞ!」
アリス達の親父さんはそう言ってから、部屋を出て行った。さっきまでとは別人みたいだ。
「さぁ皆様がたは地下室に避難して下さいませ。万が一の事があれば、旦那様に会す顔がございません」
執事の言葉を聞いている最中に闇夜之暗殺者の《空間把握》を発動し、周囲を確認する。すると、何かが凄い速さでこの屋敷に向かってきているのが分かる。
キリヤはその事を急いで伝えた。そして、屋敷の者達を地下室に避難させ終わった。キリヤ達の避難が完了してからすぐ後にソイツは屋敷の庭に降り立った。
『出てこいぃぃぃ!! ミユ・バーミリオン!! そこに隠れているのは分かってんだぞぉ! お前がすぐに出てこないのなら、この屋敷を跡形も無く消し飛ばすぞぉぉ!! 』
庭に降り立ったソイツは大声で叫ぶ。屋敷の中、それも地下室に隠れているのに、思わずに耳を塞ぐレベルの騒音だった。
「皆はここに居てね。ちょっとだけ行ってくるから」
ミユが立ち上がり、出口の方に向かおうとしたのをキリヤ以外の全員が止めた。
「母様、危険です」
「お母様もここに避難しておいた方が安全ですよ」
「奥様、どうかここに隠れておいてくださいませ」
使用人の侍女達も必死に止めようとしているが……
「いえ、行くわ! 勇者パーティの元一員としても、簡単に遣られたりしないわ」
ミユさんの決意は固いみたいだ。まったく、ぶれない。
「ミユさん、俺は付いて行きますよ。同郷ならわかりますよね?」
キリヤの言葉を聞き、ミユは即座に理解する。キリヤは足手纏いにはならないと。
同郷=日本人⇒チート持ちが伝わったみたいだ。
「
キリヤさん、良いですか? 危険だと思いますよ」
ミユは最終確認を込めて、訊ねる。
「ええ、構いませんよ」
そして、キリヤ達は地下室を出た。最後にはエリスも付いて行くと言い出して宥めるのが大変だった。
《キリさん、お母様を頼みますね》
《ああ、任せておけ。アリス達もそこから出るなよ》
アリスと念話を済ませながら、庭に出る。
「おっ! 来たか。出てこないかと思ったぞ。とりあえず、名乗っておこうか。我輩の名前はドガルガルだ。親しい者はドガルと呼ぶ。『龍神王ガルザーク』様が率いる魔竜軍の四天王を務めている。我輩がここに来た理由は分かるな?」
四天王と名乗るだけの事はある……コイツ強いな。キリヤは素直にそう感じた。自分が戦えば、勝てると思うが、ミユ一人ではでは勝てないだろう。
「私をタカユキへの人質にでもする気ですか?」
ミユさんはいつでも攻撃出来るように魔力を集中している。
「まぁそんなもんだ。ガルザーク様なら勇者タカユキに敗ける事なんてありえないんだけどな。バジルが念のためにだ! と五月蠅くてな。まぁタカユキの目の前で喰うのも一興だしな」
(人質か、 魔王らしいな。てか、バジルって誰だ? 四天王のコイツに指示を出せるって事は同じ四天王かな? そして、喰うだと!? 喰らうのは俺の専売特許です……敵対した人以外は喰わないけどな)
「それなら、私が大人しく付いて行けば街の人には手を出さないで下さい」
自己犠牲って凄いな。アリスもやってたけど。アリスの性格ってミユ似だった。
「そんな事は知らん! 我輩たちはジャパネールの方から遠路遥々とこっちに来たんだぞ! 暴れないと、気が収まれんわ!それに、勇者パーティだった者の実力をこの身で体験するのも面白そうだしな」
ドガルガルは闘いたくてウズウズしているみたいだ。
「それなら、私は貴男を倒します。黙って街が壊されるのは見たくありませんし」
「ハハ! そう来なくてはな! そこに居るのは娘だな? 情報の通りの容姿だな。ミユ・バーミリオンよ、お前が我輩を愉しませないと娘を殺すからな」
ミユと一緒に居たキリヤを見て、ドガルガルはアリスと間違える。まぁ容姿は似てるけど。
「ふざけないで! この子は関係無いでしょ!」
「お前の娘だから、それなりの力を持っていそうだしな」
キリヤはその間にドガルガルのステータスを確認する。
ステータス
名前/ドガルガル
種族/上級魔人《竜魔人》
能力
通常/『飛行』,『威圧』,『嗅覚』,『直感』,『身体強化』,
希少/『人化』,『狂竜化』,『闘気』
固有/『竜炎』,『竜炎武装』
それなりのステータスと言えるだろう。しかし、【伝説】級の能力を保持していないのだから勝てるだろう。
「じゃぁ、始めようか」
キリヤはそう言い、身体変換を発動する。いつも通りの大鎌を創り出す。
「ほぉ、創造系の能力か? 珍しいな」
ドガルガルはそう言いながら、自分も剣を創り出した。
キリヤは地面を蹴ってから一気に距離を詰め、大鎌を横に一閃。
ガキッィィン! しかし、ドガルガルの創りだした剣によって防がれる。
「思ったよりも、やるではないか」
ドガルガルは手に持っている剣に力を込めて、キリヤの大鎌ごと後方に弾き飛ばした。力は相手の方が上みたいだ。流石はドラゴンだな。
「ミユさん、前衛は任せてください」
キリヤはミユの数歩前に出てから宣言する。まぁ一人で倒しても良かったけど、ミユさんと二人で戦った方が確実だろうとの考えだ。
「わかったわ。風よ、敵を斬れ 《ウィンドカッター》 」
ミユの風の刃がドガルガルを襲うが、意に返さないと云った感じに剣を振り無効化する。
「どうしたぁ!? 勇者の元仲間の実力はこんなものかんよ!」
ドガルガルは口から炎を吐きながら叫んでいる。吐息だ。
「光よ、我が身を守れ 《ホーリーシールド》 」
キリヤは光魔法を発動し吐息を防ぐ。ドガルガルの吐息の威力は強力だったが、防げない程ではない。しかし、広範囲の攻撃の所為でキリヤの後ろに居るミユさんは勿論だけど、屋敷も守らないといけないから大変だった。
「ミユさん、ここで闘うのは得策じゃないので移動しましょう」
キリヤは後ろに居るミユさんに提案をする。
「そうね……ここで闘うと巻き込まれるかもしれないからね。キリヤさんは移動系のスキル持ってますか? 私は風魔法の《フライ》で移動できますけど」
フライ? 空を飛ぶ事か魔法か?
「安心して下さい」
キリヤは自身の背中から純白の翼を生やす。言わなくても、分かると思うが、天使の翼だ。
「えっ!?」
「それは天使の翼か? 流石は聖女だな。面白い能力だな」
これにはドガルガルも驚く。それ以上の効果は見込めなかったが。
「風よ、我を飛ばせ 《フライ》 もっと広い場所に移しましょう」
ミユは空に浮かび、街の外にある平原の方を指差す。キリヤも頷き、背中の翼を広げ飛び上がる。
「炎よ、敵を焼き尽くせ 《ヴォルケーノ》 ドガルガルよ、こっちだ! かかってこいよ」
キリヤは空中でドガルガルを挑発し、屋敷から遠ざける。中指を上に向けてから挑発した事に頭にキタのかキリヤにに向けて炎を放ってくる。
「面白い! ちょっとイラっときたけど、その誘いに乗ってやるぞ!」
キリヤ達三人は街の外の平原まで移動した。この場所ならキリヤ達も周囲を気にせず、戦える。




