それから・・・
あれから5日の時が過ぎた。
最初の2日間は、後悔と妄想とで俺も狂わんばかりだった。
もしかしたら、すぐに帰ってくるんじゃないか。
次の日にはまた来るんじゃないか。
だが、その気配はまったくと言っていいほどなかった。
3日目になると、さすがに少しは落ち着いてきた。
過ぎたことを後悔しても始まらない。
今は忘れようと、どうせもう帰ってこないのだと。
4日目には、すこしだけ前向きになった。
キャバクラに行って10万円を使うくらいなら、
あの女子高生と、たったの1万円および弁当だけで過ごした時間の
なんと濃厚だったことだろう。と。
そして、ようやくぐっすりと眠れるようになって、俺は5日目の朝を迎えた。
この日も俺はいつものように仕事をして、ようやく21時過ぎに帰宅の途についていた。
今日はさすがにあまり彼女のことは思い出さなかった。
きっと、一か月も経つと、笑い話として語れるようになるだろう。
そして、いつものようにコンビニに寄って弁当を買うことにした。
だが、弁当を買おうとして、俺ははと気付いてしまった。
そう、彼女に1万円を渡してしまったため、弁当を買うほどのお金が残っていなかったのだ。
ここ4日はストックのカップラーメンでなんとか過ごしていた。
だが、さすがに4日もカップラーメンを食べると、
あれだけあったストックも消滅してしまう。
財布の残りは86円。
給料日は明日。
冷蔵庫の中身は空っぽ。
踏んだりけったりとは、このことを言うんだな。
俺は自嘲気味にため息を付くと、
80円分のスナック菓子を買ってコンビニを後にすることにした。
今日も、俺はあの場所を通り過ぎようとしている。
あの雨の日に、彼女と出会ったあの場所だ。
おとといは、深夜まであそこを見張っていたものだ。
そのとき消費したタバコの吸殻は、
もう掃除されたのか、昨日には消えてなくなっていた。
そして、その場所を通り過ぎようとしたとき。
俺は気付いてしまった。
誰かが、座っている。
遠めにも、そこに座っているのが女性だと分かった。
髪の毛は茶色。セーラー服を着ている。
手には、コンビニのビニール袋を抱ええていた。
俺は、自分の心臓が激しく鼓動を打つのを感じた。
ただ立っているだけなのに、呼吸が激しく乱れる。
だが、俺はなんとか呼吸を平常に戻すと、ゆっくりと歩き始めた。
近づいていくにつれ、次第にその人物の特徴がはっきり見えるようになってきた。
それでも俺は、駆け出したりはしなかった。
平常心を装い、そのままその人物の前を通り過ぎようとする。
「にゃーん」
その声に、俺はつい立ち止まってしまった。
そしてゆっくりと振り返る。
「困ったときに助けられた子猫ちゃんが、
お礼を持って戻ってきましたにゃん」
金色の髪を持つ子猫は、
にっこりと微笑みながら、手に持ったコンビニの袋をそっと前に出してきた。
中には、コンビニの弁当が二つ、入っていた。
「・・・猫の恩返し、ねぇ。それが、ご主人様のお金でもか?」
・・・俺は、どうやらいまだにあのときの病気が治っていないらしい。
どんなに期待していたシチュエーションになったとしても、
決して思ったとおりの言葉は口にできないのだ。
もしかしたら、それは、彼女に対してだけかもしれないが。
だが、彼女は動じることも無く、
「なにいってるの。拾ったお金だよ」
といって、笑った。
その笑顔は、少しだけなついたばかりの子猫そのものだった。
いや、もしかしたら、
ひもじい思いをしている旅人を助けるために現れた、本物の天使かもしれない。
自分が渡したお金で買ったものだということはあるにせよ、
もう無くしたつもりだった金である。
今日の食事を心配しなくてよくなっただけ、ありがたい。
「それじゃあ、子猫ちゃんといっしょに部屋でご飯にありつくとしますか」
「賛成!ここは寒いからね!」
俺はふっと笑うと、『セーラー服の堕天使』の頭をやさしくなでた。
そしてそのとき、恥ずかしながらようやくに、ではあるが
いまだにお互い自己紹介すらしていないことに気付いたのである。
「しかし、いつまでも子猫ちゃんとおにいさんじゃいかんなぁ。
そろそろ本名を名乗らないかい?
俺の名前は・・・・・・・・・」
end
楽しんでいただけたでしょうか?(≧∀≦)
良かったら他のお話の方も読んでいってくださいね(´∀`)