裸エプロンはお好きですか?
※これは所謂"メイドモノ"ですが、残念なことに作者、ただの変態故に、あまり上手く描写できないであります。
よって! 読者様──いえ、ご主人様の想像力が、それこそが、この作品の力となるのですっ!
……と言うのは八割だけ本気として。
エロメイドラブコメなんて初めてですが、どうぞ、ご主人様が満足いきますことを────
──あれは、運命の出会いだった。
『あ、あのぉ……』
大学二年の春、雪が降っていた二月。
『み、みやこの──』
腕時計の針が日を跨ごうとしていた頃、駅前。
『ご、ご主人しゃ……様に、なって下さい────っ!』
俺は、一人の"下僕"を拾った。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
「お、おまたせしました、ご主人さわぁぁあっ!!」
どんがらがっしゃーん、と、派手に転び、持っていたトレーを見事にぶちまけた、寝坊助メイドが一人。
時刻は七時半。起床から実に、一時間は経つ。
時刻は七時半。俺の下僕が起きたのは、つい十分前。
まず、何処の誰だか分からんそこのお前に聞いてみよう。
──下僕とは、何か?
例えば朝。
主より早く起き、朝の支度を済ませ、庭の掃除をし、そして主を起こし、支度を手伝う。
例えば食事。
熟れた手付きで料理をし、また、音もなく主の前へと運ぶ。主の食事中は傍らに控え、終わればまた、音もなく片付けてゆく。
何処の誰だか分からんそこのお前だって、そんなモノを思い描くたろう?
……しかし、この下僕はどうだ。
例えば朝──
『おい京、七時過ぎだ、起きろ』
『ご主人しゃま~…………あと、一日……』
『長すぎるわっ!!』
『うわぁっ?!』
──何故、俺が、下僕なんかのだらしない寝相なんて拝まなきゃならないのだ。
例えば食事──目の前の、この有り様である。
「いってててて……」
「…………おい」
「っ?! は、ハイ、ご主人様っ!? 直ぐに作り直しますからっ?!」
ドスの効かせた声で呼び掛ければ、今までのノロマっぷりが嘘のような素早さで立ち上がる。
床に散らばった皿(プラスチック製)と、こんがり焼けたトースト、そして床に零れた紅茶とジャムをせっせと片付け、台所へと引き下がって行こうとする。
「京。ちょっと待て」
「はい?」
足を踏み出した状態で、首だけを此方に向けて返答する。当に、メイド失格な態度だ。……今更だが。
我が下僕の目の前へと行き、何故だかネコミミの付いてるカチューシャをまっすぐに直してやる。
「あ──」
「片付けたら、先ずは着替えろ」
「え……?」
胸元から靴下にかけてベットリとくっついたジャムと紅茶。転んだ時に着いたようだ。
真っ白の生地はソレのせいで薄赤く透けてしまい、その下がうっすらと見えてしまっていた。…………また、ノーブラか。
俺が指摘した事に気付くや否や、顔を赤くするどころか、逆にはにかんできやがる。こーゆー"不意討ち"があるから、コイツは油断ならないんだ。
──まったく。
朝っぱらから、何故だか俺は酷く心労を抱えながら、代わりの朝食を二人分作る。結局、今日も変わらない朝だった。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
「行ってらっしゃいませっ、ご主人様~~っ!!」
元気よく、下僕に見送られて家を出る。近所の奥様方の、生暖かい眼差しと笑い声に包まれて歩き出す。この三ヶ月で、俺も慣れたものだ。
初めてやられた朝なんて、回りから白い眼は向けられるわ、黒いオーラを向けられるわで大変だった。……いや、別に過去に限った話じゃないか。
「"行ってらっしゃいませ~"か。……っんのシアワセモノがぁ~っ!!」
後ろからのラリアットを軽くしゃがんで回避、真上に来た腕を掴み、脇の下を押さえつつ、その腕を背中へと回す。
「い゛だだだだだっ!! ギブ、ギブぅぅぅ!!」
「そうだよ、止めてやんなよ」
「ぅぅう゛っ?!」
更に後ろから掛かった声で、最後におもいっきし捻った後、腕を放してやる。
「幸せどころか、日々ストレスが溜まるぞ」
今朝も今朝で、また寝坊はするわ、トレーをひっくり返すわ。どっちが世話されてんのか、分かったものじゃない。
「ん~なこた言って、朝は『ご主人様、起きてください……』なーんてチューで始まり!『ご主人様、あ~ん♪』とか言われながらご飯を食べさせてもらい! 『お背中流します』なんておっぱいスポンジを使ってもらい……うへへへ……」
自分で言って妄想に浸れるんだから、こっちは相当のバカだ。
そんな妄想じみた事なんて、アイツがする訳がない。……とも、言い切れないんだが。
「置いてくぞ、吉彦。……行くぞ、利彦」
「あ、うん」
前屈みになって気持ち悪い顔をしてる、残念ながら幼馴染み一号を放っておき、さっさと歩き出す。
名前から分かる通り、コイツら二人は兄弟だ。しかも双子の。だが似てない。
吉彦に関しては、事実を知って三ヶ月、未だにこの事でつっかかってくる。勘弁してほしい。逆に利彦は生暖かく見守ってくれてるみたいだが。
「はぁ…………早く、春にならねぇかな」
季節は初夏。五月の二十日。
とんだ疫病神を拾っちまったな、と思いつつ、まだ来ぬ来年の春を思って────。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
国立東帝大学。
そこの法学部・三年。俺のステータスだ。
今日も今日とて、推奨テキストと全く噛み合わない講義を延々と聞き続ける。
噛み合わない割に、定期テストの範囲は完全指定。論文等の提出も殆どない。当に、天から単位が降ってくるようなもんだ。
その代わり週中の授業数が多く、単位も決して大きくない。それに人気もない。
だが一年二年と必死に単位を取っただけあって、今年はこれを含め、三つ取るだけで十分だ。楽だし、暇だし、だからこれを選んでいる。
「これで今日の講義を終わりにする」
この教授、全くキリが良くない所でいきなり講義を終わらせるのが特徴なのだ。
……さて、今日はバイトも無ければ、勿論講義もない。サークル錬には誰もいないだろうし、どうしようか?
「ねぇねぇ新井くんっ♪ さっきの講義のノートって取ってる?」
「……はいよ」
「わーっ、ありがとー!」
同じ講義を受けていた奴が、俺のノートをせがみに来た。名前なんて覚える気がない。
この講義が終わると、必ず誰かがノートを借りに来る。
それは俺が唯一、最前列にいるからであり、この講義に仲の良い奴がいないからであり、恐らく、この講堂内でノートを広げてるのが俺だけだからだ。
「新井くん、今日ってこの後予定空いてる?」
「折角だし、どっか遊びに行こーよっ」
ノートを借りた奴のグループが、俺を遊びに誘ってきた。
「悪いが、この後はバイトだ」
「えー、またぁ~?」
つまんない、とか言いながら捌けていく。
思わず、いつもの癖で断ってしまったが…………さて、どうしたものか。
誘う話の掴みが無くなったからか、俺が荷物を纏めてる間、他の奴が話し掛けてくることはもう無かった。
講堂から、その建物から出ると、キャンパスには人が溢れていた。
誰もいないことを承知で、サークル錬へと足を運ぶ。暇潰しくらいなら、いくらでもできるだろう。
一度校門の前まで出て、そこから左にある建物を抜ける。奥まった所にある建物の、その一階がジャズサークル錬だ。
不用心にも、鍵も何もない扉を開ける。すると講堂程の大きさの、だだっぴろな音響室となっていて、その奥に更に倉庫室となっていた。
暗証式の鍵を開けると、様々な楽器が仕舞われてある。
ピアノやトランペットやトロンボーン、ウッドベースやドラムセットから、エレキギターエレキベース、エレキドラム等のバンド向け機材まである。
その半数が個人の所有物で、中でもドラムセットに張られている"さわるな。松田"の張り紙はとても印象的だ。
俺は奥に仕舞われてある、一台のシンセサイザーを引っ張りだし、音響室のコンセントへと繋いだ。
ここのジャズサークルは、一様に「ジャズ」と言っても、一般的なジャズからフュージョン、果てはロックや、クラシックもやる意味不明なサークルだ。しかしただのサークルの割にレベルは部活よりも高く、セミプロをやってる奴がいたりもする、無茶苦茶な所でもあるのだ。
──音を絞り、指を構える。
ピアノと違い電子音バリバリだが、それはあまり気にならない。
それよりも、ここにヴェートーベンがいたなら、これが自分の曲だとは想いもよらないんじゃないだろうか?
「流石に、シンセでソナタはないんじゃない?」
弾いていると、入り口から声が聞こえてきた。
途中で区切り、最後に軽くパフォーマンスを入れてやると、相手からは拍手が返ってきた。
「就活はどーしたんですか、桃華センパイ」
「お姉ちゃんみたいにはならないですよーだ」
法学部四年であり、ピアノの先輩でもある白戸桃華センパイだった。
因みにその姉、桜さんは絶賛就職浪人中。
「あーあ、どっかに手頃な就職先、無いかなー……」
そう呟きつつ、俺の使ってたシンセをかっさらい、ポップ調の曲を弾きだす。
相変わらず、俺には真似できない、軽々と、そして伸び伸びとした演奏に聞き入ってしまう。
「司法試験でも受けたらどうです?……それでなくても、ここ卒なんて箔付いてるだけで引っ張り凧でしょうに」
俺ですら、月数十件の広告メールがパソコンに届く。人によっては月に数百件来るとか来ないとかとも聞く。それだけ、就職には有利な環境だ。就職率だって、頗る高い。
「ダーメダメっ!」
突然、指を鍵盤に叩きつけ、ジャーン、と音を壊してしまう。
「あたしは、もっと愉しそうな仕事が、したいのっ!」
んな無茶な……。
そうは思っても、それがこの人なのだ、昔っから。
ピアノだって、この人が元々習ってたのは勿論クラシックだ。それも、ヴェートーベンにしろモーツァルトにしろすらすらと弾く、言わば天才的な人だった。
けど「愉しくない」と言う理由で様々なジャンルを荒らしてきた。ジャズにJ-POP、ロックにメタル、その他諸々。
そーゆー人だ。
「……そー言えばさ、理里のトコ、メイドさん雇ってたよね」
背中に、嫌な汗が流れた。
「これ以上の厄介なんてヤですよ」
「いーじゃんいーじゃんっ! ミャコちゃんの服だってカワイイし。ほらほらー……お帰りなさいませ、ご主人様~」
ヒラリとスカートを翻し、メイドの真似らしきことをしだす。──水色だった。
因みにミャコちゃんとは京のこと。
いつも(何故だか)ネコミミのカチューシャを着けてるから、ニャンコ、又はミャンコとかけてミャコ、らしい。
「アレだって、別に雇ってる訳じゃない。ただの下僕です」
「下僕なんて言い方、おねーさん許さないなー」
知るか。
「だいたい、来年の春までですよ、アイツが居るの」
そう、来年の春。
アイツが、高校に入るまで。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
暫く桃華さんと他愛ない、と言うより京についての話をしていると、吉彦から電話が掛かってきた。午後からのバイトに入ってほしい、と。それでこの場はお開きになった。
そもそもアイツと俺とはバイト先が違う。俺はファミレスだが、アイツはコンビニ。
「おはようごさいまーす」
「ああ新井君来たね、押してるから早く準備してくれるかい? ああそれと、今日は新人が来るから後で見てあげてね。それじゃ私はもう行くよ」
裏口から入ると、やけに切羽詰まった様子で中年男性が用件を伝え、制服の上に上着を羽織いながらバタバタとしていた。このコンビニの店長である。
もう一度言う。吉彦と俺とはバイト先が違う。更に付け足せば、利彦はまた別の場所で働いてる。
「店長。俺、今日何時までなんです?」
「確か……10時、かな。それまでには帰ってくるから、よろしく頼んだよ」
今から実に10時間のフルコースのようだ。
店長は俺の返答を聞かずに出ていった。多分、また本社の方から呼ばれてるのだろう。何度か目にした状況だ。
俺は、自分の名札の付いたロッカーから制服を引っ張りだし、その袖に腕を通した。
しつこいようだが、吉彦と俺とはバイト先が違う。
何故、こんなことになっているのか。それは簡単だ。
吉彦達はよく、家庭の事情とやらで突然帰ってしまう。俺も詳しくは聞いたことがない。
そのお陰か、俺はここに奴と同じくらいの比率で顔を出している。年明けからは俺のロッカーすら出来ていた程だ。勿論ギャラだってその分貰ってる。だからあまり強くは言わないでもいるのだ。
しかし、新人を雇った、と言うことは、俺の役目もそろそろ終わりだう。
──そうだ、京に遅くなる旨を連絡しておかないとな。
客の入りが少なくなってきた頃を見計らって裏へと入る。
家へと電話をし、その後ついでに、冷蔵庫へと補給をする。
軽快な音が鳴った。どうやら客が来たようで、俺は急いで表へと回った。
「いらっしゃいませー」
「あの~」
定型文を発すると、間延びした風な問いかけを返されてしまった。
「はい、どうされまし──って、桜さん?」
「あらあら~? リサちゃんじゃない~」
見れば、それは知り合いだった。桜さん……白戸桜さん。桃華さんの姉だ。
「その呼び方、いい加減にやめろって、何度言いましたっけ?」
「ん~……八十二回目、だったかしら……」
この人の記憶力は、人並み外れている。一度見聞きしたことは、殆ど覚えていられるのだそうだ。
故に、この人が82回目と言えば、俺はそれだけ言っているのだろう。
「九十二回目、だった気も……」
多分。恐らく。きっと。
「それで? 今日はどうしたんですか。何処かに入った、って報告は聞いてませんよ?」
「そうそう! 私ここに入れたの~!」
皮肉が通じなかった。
それより今、意味深なことを言われたのが気になった。
「入れた、って……バイトの新人って桜さんだったんですか?」
「えぇ、そうなの~。やっと、お仕事できるのよ~」
「……大丈夫なんでしょうね」
「?」
小首を傾げる桜さん。だが俺は知っている。この人が、行く先々のバイト先でドジをやらかしていることを。
直接見た訳ではない。桃華さんから聞いただけなのだが、大学進学以降幾つもバイトを経験して、それで一月もった試しがないらしい。最短記録は一時間とも聞く。
そんな事前情報を聞かされているだけに、頗る不安を掻き立てられる。況してや、俺はここの従業員でも、正式なバイトでもない。責任が持てん。
「でも、よかったわ~、リサちゃんが一緒の所で働いててくれて」
「俺、助っ人ですよ」
「? バイトさん、じゃ、ないの?」
一々説明するのが面倒だ。ロッカーまで用意されてるし、もうバイトでもいい。
「……とりあえず、奥行って着替えて来てください。それと、次からは裏から入って来てください」
「裏って……どこにあったかしら?」
既にダメダメな気がした。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
「……ああ二人とも、今日はもう……帰ってくれていいから……」
一時間ほど前帰ってきた店長がまず最初にした顔は、言わば絶望だった。
「はい~、お先失礼します~」
先に挨拶をして奥へと入っていった悪魔によることは、言うまでもないだろう。
今日の被害額、およそ十万円。
店内からは、そこまで何かあったようには見えない。見えないようにフォローはした。
「新井君、一体、何があったんだい?」
裏口に積まれているごみの山。正確には元商品の山を指して問う。
「……聞きたいんですか?」
「……いや、言わないでほしいな」
「今日のバイト代はいいんで、アレから使えそうなモノ、かっさらっていきますね」
「よろしく頼むよ……」
それでなくても普段から余裕のない店長の顔は、更に余裕の色を無くしていた。せめてもの償いだ、商品を無駄にしないよう努力しよう。
更衣室の扉を開ける。すると、下着姿の桜さんが何やら困惑顔で辺りをキョロキョとしていた。
「あらリサちゃん、私のパンツ、知らないかしら?」
「知りません。と言うか、目のやり場に困るんですけど」
何故、そんな格好でうろついているのか。せめて制服を来ていてほしい。
それでなくとも桜さんの体つきは相当良く、こんな状況を直視する勇気は流石に持ち合わせていなかった。
「あらあら~? もしかして、リサちゃん、照れてる~?」
そんな格好で俺に絡んで来るものだから、照れ隠しに溜め息をついて、更衣室の扉を勢いよく閉めてやった。
裏口にあるごみ袋を漁る。
存外直ぐに、目標の物は見つかった。どうやったらここに混ざるのだろうか?
ついでに封が破れているだけのペンや電池を幾つか取りだし、ポケットの中に突っ込む。
「これじゃないんですか」
未だに下着一枚の桜さんに、今しがた見付けたズボンを差し出しす。"パンツ"とは、さすがにパンティーの事ではないだろう。
「あ、これ~! ……リサちゃんが盗んでたの~?」
「……ごみ袋ん中にあったんですけど」
それを聞くと、手に取ったズボンを鼻に宛て、くんくんと、特に股の部分の匂いを嗅ぎ始める。大丈夫だ、あの袋に生物や食品は入っていない。
「嗅ぐ?」
「嗅ぎませんっ」
「それともやっぱり……もう、使用済みかしら?」
「その用途とやらは?」
頬に手を添え、赤く恥じらった桜さんであった。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡
「──で。家に着いた訳なんだが」
強烈なデジャビューを感じた。
俺の背後には、無言で着いてきた桜さん。そして目の前には玄関。
「リサちゃんのお家、なんだか久々ね~」
ケータイを取りだし、アドレスブックから番号を選択する。たったツーコールで出てくれて助かった。
『もしもしー』
「俺です、り──」
ガチャリ。ツー、ツー……。あんにゃろう、切りやがった……!
血管が切れそうになるのを堪え、再び同じ番号に掛け直す。
『もしもしー』
「……理里です。てか、いきなり切らないで下さい」
『だってー、『俺です』なーんていきなり言われたらコワイでしょっ?』
普通、その後に名乗るだろうが。
『それで、こんな時間にどーしたの?おねーさんの声が聞きたくなっちゃったかなー?』
一々イライラさせてくれる。だがここで取り乱しては駄目だ。
「そのおねーさんのおねーさんが、俺のことストーカーしてます」
『おねーさんのおねーさん……って、お姉ちゃん?! なんでっ?!』
「それは俺が聞きたいんですけど」
この驚きよう、どうやら今回は桃華さんの差し金、と言うわけではなさそうだ。
『ち、ちょっと代わってくれる?』
仕方なく、後ろでやけにそわそわしてる桜さんにケータイを渡す。
不思議そうな顔をされたので、桃華さん、とだけ言ってやった。
「モモちゃん? どうしたの~?」
暫く二人の電話に耳を傾ける。ときどき聞こえてきた"止められた"とか、"お金がない"なんてワードが、実に嫌な予感を醸し出してくれていた。
「──うん、分かったわ。上手くやるから~」
最後に何かを了承し、俺へとケータイを返してきた。どうやらまだ通話中らしい。
「もしもし?」
『あー理里? そゆー訳で、暫くの間お姉ちゃんをお願いね。じゃねー』
「ちょっと待てどーゆー訳──」
ガチャリ。ツー、ツー……。また、切りやがった。
一体どうゆう訳なのかを聞こうと、桜さんに眼を向ける。
「そ、そんな恐い顔しないで~? ちょっと、ほんのちょーっと、お家のガスとか、電気とか、水道とか止められちゃって……」
予想通りの答えを途中まで聞いたところで、俺は玄関の中へと入ってしまう。
「り、リサちゃん、待ってよ~」
「お、お帰りなさいませ、ご主人様っ!!」
慌てて桜さんが扉を開けたのと、我が下僕が玄関へと現れたのは、ほぼ同時だった。
「──って…………え、えぇっ?! さ、桜さんですか?!」
「あらあら~、ミャコちゃん。今日は一段と可愛い格好して~。そうゆう事なら私、お邪魔虫さんだったかしら?」
「?! ち、違うんですヨ?! これは──そう! ご主人しゃまの好みなんですっ!!」
勝手に人の好みにするな。そもそも、下僕に裸エプロンで出迎えさせる趣味は持ち合わせていない。
多大な呆れと羞恥心に堪えるべく、俺は、盛大な溜め息を吐くしかなかった。