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04

「帰ってくるのが遅い!!」


 シブヤの広場から数区画先に〈天使の家ハウス・オブ・エンジェル〉のギルドハウスは存在した。

 壁は白く塗装された三階建ての一軒家で、エントランスに当たる部分には高さ3m近くの天使像のモニュメントが整列し、底知れぬ威圧感を放っている。

 一方で門扉には『ペンキ塗りたて注意』の張り紙が貼られ、アンバランスさを醸し出していた。

 そんなギルド〈天使の家〉へ足を踏み入れたクリアにまず飛んできたのはエプロン姿の少女の怒声。

 見た目はクリアより少し上の18歳前後だろうか。腰まである赤い髪をポニーテルにし、その髪の上には狐耳。ゆったりとしたチュニックの裾からは狐の尻尾。

 〈狐尾族〉なのだろう、という事が見て取れる。


「ギル、毎回毎回帰ってくる前に念話入れてって言って――って、あれ、えーっと……お客さん?」

「あ、えーと、その、」


 突然浴びせられた怒声にクリアはビクッと肩を竦ませ、背後の背後を振り返り「あー、どうも連絡いれんの忘れるな。すまんマユ、次からホントーに気を付けるわ」と、先ほどまでとはまるで違う口調のギルファーに固まった。


「ん? どったのさクリアちゃん」


 はて、とギルファーは首を傾げる。

 その顔はふざけている様子はなく、何かおかしな物でも見つけたの、といった風だ。


「あのねぇ、ギル。私はあなたの口調が変わったからだと思うけど? どーせ、その子も私みたいに厨二病全開フルスロットルで助けてきたんでしょ?」


 マユと呼ばれた少女は呆れながらも的確な答えを口にし、固まったままクリアはその両方を肯定するために首を縦に振る。

 それが、彼女の出来る最大限の行動だった。


「ほ~ら」

「ふーん、そんなもんか?」


 頭を掻きながらギルファーは笑い、今入ってきた扉を指差す。

 その仕草、表情はとても自然なもので先ほどまでの『片翼の天使ギルファー』とは姿形は一緒でも似ても似つかない。


 「ま、簡単に言うとあそこから外がログインで、こっち側はログアウト。それが俺のルールにしてジャスティス。つまり、こっちが中の人の素ってことだわな。

 まさか、あっちが素だと思ってた? 幾らなんでも三十路過ぎ(・・・・・)たおっさんが常日頃あんな訳ないでしょ」

「三十路過ぎててあれをノリノリで出来るってのもどうかなぁと思うけどねー」


 自分の年齢を考えたら? とマユは続ける。


「……三十路、なんですか?」

「オフコース。実際問題三十路を四年ばかりオーバーしてる。ま、もともと童顔だけどな、俺」


 カッカッカ、とギルファーは笑い、気が付いたように二階へと続く階段へと視線を向ける。


「疲れた顔してどうした、チェスター」

「ん、あぁギル兄おかえり。

 子供たちがやっと寝たんだよ。マユも大きな声出さないで静かにしてく――」


 疲れた顔をしながら階段を下りてきた少年はエプロン姿の少女に声を掛けながら、ギルファーを見て軽蔑するような眼差しを向けた。


「……まーた、いたいけな女の子攫ってきて。このロリコン」

「なにこのアウェー。助けて、クリアちゃん」

「えと、その……」


 困惑を浮かべるしかないのはクリアだ。

 情報がいっぺんに増えすぎて頭がパンクしかけている。


 こっちがギルファーさんの素?

 三十四歳?

 ロリコン?

 子供たち?


 ぐるぐると頭の中を新しい情報が巡り、答えを導き出せずにいる。いや、そもそも答えなんて代物はもともと無いのだが。 


「まぁ……なんだ。いつもの如くだよ。とりあえずクリアちゃんを紹介するからチェスターは刹那を呼んできてくれ。どうせ、部屋で型やってんだろ」


 少年――チェスターは「へーい」と気の抜けた返事をし、ギルファーを指差す。

 正確にはギルファーの背後を。


「その必要は無い。ボクなら既にここに居る。今日は自堕落な一日」


 そこには、いつの間にか右手でVサインを作った白い髪の少女――というには大きすぎる女性が立っていた。身長は180cmを超えていてギルファーよりも少し低い程度。だが、その顔にはあどけなさが見え隠れするためにどうしても少女というイメージを拭うことはできない。


「あーうん。刹那、心臓に悪いことは止めよう」


 刹那はそんな事はなんでもないようにコクリと頷き右手のVサインを変化させて親指を立てる。


「問題無い。心臓が止まっても〈冒険者〉は大神殿で復活する」

「そういうことじゃなくてだな!」

「ギル兄、子供たちが起きるから大きな声出すな」

「ご、ごめんなさい……。ま、まぁ全員揃ったことだし? 俺、着替えてくるからその間に居間でお前らの自己紹介タイムな」


 若干不貞腐れたギルファーは半ば投げやりにそう言い残し階段を上がっていく。

 もはや、その姿に『片翼の天使ギルファー』などと言っていた主人公っぽさは存在しない。


「そうね、自己紹介しましょうか。ニ、三日はここに居るんでしょうし」


 そんなギルファーをさらりと無視したマユはこっちよ、と言いながら居間へと向かう。付き添うように居間へと足を踏み入れるとそこは十畳ほどの広さがあり、中央に座卓。その他にも一通りの家具が揃っていて、どこと無く昭和の家庭を匂わす配置――憩いの場となっている事が分かる。目に付くもので気になるものはところどころに散乱している積み木のようなモノや、天井からぶら下げられたハンモックにぶらんこだろうか。


「あー、ジュジュたちまた片付けないで……」

「明日片付けさせればいいだろ?」

「それじゃあ、教育上よくないでしょ?」

「そーいうもんかね」

「そういうものです」


 マユとチェスターは小言を交わしながら手馴れた様子で積み木を片付け、簡単にスペースを確保していく。


「えと……」


 自分も何かしようか、と動こうとしたクリアの肩を刹那が止め言い放つ。


「今日の君はお客さんだから。それにあの二人は気にしなくていい。いつもの夫婦間コミュニケーション」

「夫婦違う!」

「夫婦じゃねーから!」


 その言葉にまったく同時に反応する二人を見て「息、ピッタリの癖に」と小さく笑いながら刹那は確保されたスペースに座布団を敷いていく。


「ったく、なんで俺がマユと夫婦扱いされなきゃいけねーんだよ……。あぁ、座って座って。自己紹介は刹那からでいいだろ」

「そうね、刹那からで良いわね」

「ん、仕方ない。任せて」


 そして、コホンと小さく咳をした刹那が自己紹介の先陣を切る。


「ボクの名前は『刹那』。歳は花も恥らう永遠の17歳。メインは〈武闘家〉でサブは〈追跡者〉。レベルは57……じゃなくて今日から58。次、チェスター」

「ほいきた。俺の名前は『チェスター』。年齢は18。メインは〈暗殺者〉の弓メイン。サブは〈狩人〉。レベルは61。次はマユ」

「私の名前は『マユ』。歳は本当の17歳でメインは〈森呪使い〉。サブは〈料理人〉で得意ジャンル似非中華。レベルは53。はい、最後クリアちゃんだっけ?」

「えっと、『クリア=ノーティス』です。年齢は、その15歳で、えーっとメインは〈武士〉でサブはその〈料理人〉です。その、レベルは39です。よろしくお願いします」


 もたつきながらも自己紹介を終えたクリアは頭を下げ、疑問を口にする。

 

「あの、さっきチェスターさんがその、子供たちって言ってましたけど……?」


 チェスターは最初から『子供たちが寝た』という言葉を使っていた。

 この3人で全員揃ったと言うのなら『子供たち』とはいったい誰なのか。

 それは、素直な疑問だった。


「おぅ、このギルド〈天使の家〉はぶっちゃけると孤児院なんだよ」

「そうね。戦闘系ギルド、生産系ギルドとかみたいにジャンル分けするとなると保育ギルドって所かな」

「ん、〈大災害〉からの混乱で親を亡くしてしまった〈大地人〉の子供を3人ここで育てている」

「そ、そうなんですか!?」


 自分一人で生きていく。そう思い、決意して他人にはあまり関わらずに今まで過ごしてきた。

 けれど、彼らは自分一人で生きていくどころか他人を守りながら生きている。

 しかもプレイヤーである〈冒険者〉ではなくNPCである〈大地人〉を。

 そんなこと、自分には出来ない。思いも付かない。


「……あの、それってギルファーさんが?」

「そ、ギルが始めたの。『片翼の天使』状態で『この行為を誰かがままごとと笑うだろう。誰かが笑われる必要があるならばその役は道化師にこそ相応しい』とか言いながらね。誰も笑わないってのにさぁ」


 ため息を付きながらマユは語る。あれ、いろいろとバカだからさ、と。バカだからと言いながらもマユの言葉からはギルファーへの信頼が受け取れる。


「ただのロリコンって可能性もあるけどな」

「ん、子供たちに欲情していたらギルは確実に精神異常者。もっとも、現状正常だとは言い難い」


 チェスターと刹那も軽口を叩きながらも、その根幹にはギルファーへの信頼が見える。

 だから、知りたいと思った。片翼の天使ギルファーという人物を。

 なんで、あんな厨ニ病をばら撒くようなロールをし続けるのかという事も含めて。


「……あの、ギルファーさんってどういう人なんですか?」

「一言で言うならギル兄はヒーロー(ただの馬鹿)だよ」

ヒーロー(正義の味方)……ですか?」


 確かにあの時に現れたギルファーはヒーローの様だった。今となってはいろいろと突っ込みたいところがあったが、まさにヒーローだった。

 けれど、チェスターのいうヒーローとクリアのいうヒーローには微妙な齟齬がある。それを感じ取ったクリアは自然と鸚鵡返しをしてしまう。


「んー、このシブヤって街は他のプレイヤータウンに比べて特殊だろ? まぁ解らなくてもいいや、とにかく特殊なんだよ。

 〈大災害〉時にアキバがどれだけの混乱に陥ったのか解らないけど、シブヤだって混乱の最中にあったんだ。シブヤにはアキバみたいなギルド会館が無いし銀行が無い。そのほかにもいろいろと設備が不足している。

 じゃあ、近くのアキバに行ってみよう。

 ネットが開けないからアキバまでの道が解らない。

 戦闘が現実化している。

 高レベルの〈冒険者〉はアキバにごり押しで行けても低レベルの〈冒険者〉はごり押しは無理だ。

 入ってくる情報はアキバからの念話だけ」


 チェスターは言う。あれはボディブローの様に結構効いたなぁ、と。

 その続きを引き継いだのは刹那。


「そんな状況が続いて。

 その間にも高レベルの〈冒険者〉はどんどんアキバに移住して。

 低レベルの〈冒険者〉と〈大地人〉が取り残されて。

 高レベル〈冒険者〉がいなくなって、アキバからの情報も入りにくくなって。

 その中でもギルはずっとずっと『片翼の天使』だった。〈大災害〉の混乱でも変わらないギルを見てシブヤの〈冒険者〉と〈大地人〉が少し救われたのは事実。現にギルはシブヤに暮らす〈大地人〉からの支持が今でも絶大。それは、ゲーム時代からああ(・・)だったからだと思う」

「皆、余裕が無かったんだ。誰かを気にかける余裕すらね。だから、余裕を作り出させた。無理矢理にでも、他人に気を引かせた。ときに嗤われ、ときに呆れられ、ときに怒りを買いながらも」


 二人は言外に語る。

 シブヤの街をいち早く混乱から救おうと行動したのはギルファーだ、と。

 思い出すように語る二人の隣でマユはつまらなそうに呟く。


「なーんか疎外感……」

「しかたないだろ。マユはそのときアキバに居たんだから」

「そーなんだけどさー……むぅ……」


 ふくれっつらになりながらも視線を感じ取ったマユはクリアの目を見据えて、口にする。


「あのね、私がギルにPK――っていうのもちょっと違うけどさ。まぁ、助けられた一番目でクリアちゃんで十三番目ってこと」

「……」


 マユのその言葉を信じるならば、ギルファーが少なくとも十三回は低レベルプレイヤーを助けてきたという事に他ならない。

 それは、本当に馬鹿みたいなことだ。


「――あれ、なんで昔話してんの?」


 室内着――作務衣に着替えたギルファーが居間へ姿を現し「俺、自己紹介タイムって言ってたよな?」と首をかしげ、そのまま腰を下ろす。

 その姿はさながら和服を着た外国人のようだが、銀髪オッドアイであるものの顔のパーツパーツはやはり西洋系ではなく東洋系であるため、滑稽にすら見える。


「ん? まーギル兄がどんな馬鹿かって話をしてたら自然に」

「そーそー、なんか自然に。ギルがどれだけ馬鹿かって話してたら自然に」

「……あれ、なんでこんなにアウェーなの。俺、ギルマスなのに」

「安心して、ギル。ボクはそんなギルをちょー愛してる(棒)」

「ちくしょう、棒読みが素晴らしいぜ」

「む、ボクはいつも本気なのにー(棒)」


 クリアは軽口を叩き合う四人を見て、おそらく、これが彼らのいつものやり取りなのだろう。そして、羨ましいと思った。

 自分には、そういう相手はいない。この世界にも、向こうの世界にも。

 それは、そうだ。

 いつも自分は拒絶していた。

 人を、社会を、世界そのものを。

 逃げて、逃げて、逃げて。辿り着いた〈エルダー・テイル〉の中でも、やっぱり逃げていた。

 そんな自分に、こんな相手が居るはずもない。


「それで、ギル。今日は?」


 気付けば四人の話の中身は自然と今日の出来事へとシフトしていた。それはクリアをどう助けたのか、ということだ。


「そうだそうだ。今回はどうやってハッタリかましたのさ?」

「ん、何でハッタリって決め付けてんだよチェスター。俺は遺憾の意を表明します。……まぁ、いつもの如く〈ビラ配り〉だけど。あのスキル、ハッタリに持ってこいなんだもの」

「えと……ハッタリだったんですか?」


 とてもそうは見えなかった。

 あのときのギルファーはとても強く、とても格好良かった。


「そりゃそうさ。幾ら強いソロプレイヤーでもレベル90が6人も居たらそりゃ勝てないって。彼らが逃げないで一斉に襲い掛かってきてたら俺死んでたよ。けっこうあっさりと。彼ら結構いい装備持ってたし。

 まぁ、トライだっけ? 〈盗剣士〉の彼は刺し違えれただろうけど、そこでジ・エンドなわけですよ。ほら、俺って見た目重視の装備だし?」


 片翼の天使ギルファーは典型的なロールプレイヤーである。

 ロールプレイヤーとは雰囲気を大事にするプレイヤーだと、誰かは言っていた。事実、その通りだろう。その中でも『片翼の天使ギルファー』は完璧に近いロールプレイヤーだった。

 手にする剣は天使の翼を模した中の上ランクの製作級〈エンジェルウイング〉。纏うコートも〈白式の儀典服〉という比較的入手しやすい製作級。彼の装備の中で秘法級に属するのは〈天使の落涙〉というペンダントのみ。『片翼の天使』っぽさに重きを置いた装備の数々。

 実際としては秘法級の装備は他にも数点所有していて製作級の中でも秘法級の素材をふんだんに使用した最高位に属する装備もある。だが『片翼の天使』らしくないという理由のみでそれらは全て死蔵されている。

 もしギルファーがロールプレイを止めて性能だけで装備を選べば単純な装備品の攻撃力は1.5倍、防御力は2倍近くにまで跳ね上がる。

 それでも頑なに『片翼の天使』のロールプレイを続けるプレイヤーがギルファーなのだ。

 もっとも、そのロールプレイを捨てた状態でも上の下程度の実力。レベル90のプレイヤーからすれば強い部類に入るが、廃人プレイヤーや〈黒剣騎士団〉や〈D.D.D〉〈ホネスティ〉〈シルバーソード〉などの戦闘系ギルドに属するトッププレイヤーからすれば実力は数段どころかかなり落ちる。

 それが、ギルファーが客観的に評価する自分の実力だ。


「えと、その――〈ビラ配り〉って?」

「あぁ、それは俺のサブ〈道化師〉のスキルでさ」


 〈ビラ配り〉は30文字以内のメッセージを周囲にいるプレイヤー強制的に送りつけるというゲーム時代では何のためにあるのか解らないスキルだった。誰かに話しかけたいのならボイスチャットなり、テキストチャットなりを行えばいい。しかも文字数制限が30文字だ。大した情報は乗せれない。

 だが、ギルファーはこの現実化した世界で〈ビラ配り〉を何度か使用した結果、メッセージはそのままビラとして現れる。対象プレイヤーの任意の場所に貼り付けることが出来るという二つの事実を発見した。

 もっとも、それによりダメージを与えることは出来ないがむしろそれがハッタリを効かすには適していた。


「――ってわけ」

「あの、じゃあ、あの人の腕を斬ったのは?」


 あれもハッタリなんですか、とクリアは続ける。

 最初の一撃は不意打ちというか奇襲に近いものだったので理解できる。

 けれど、二回目のは相手の特技を避けて、尚且つの反撃だ。相当にレベルが高くないと不可能な筈だ。


「あー、あれは俺と同じ〈盗剣士〉だったからな。構えから何使ってくるかは分かったし」


 〈スラッシュ・ライン〉は隙が大きいから技としてあんまり優秀じゃないんだよね、と続けた。

 だが、その言葉通りに技としてあまり優秀じゃないとしてもその隙を簡単に突くことができるのか。

 やっぱり、ギルファーは相当にプレイヤースキルの高いプレイヤーなんじゃないか。


「まぁ、そんな過ぎ去った事はどーでもいいさ。クリアちゃんが無事だったって事でオールオッケーなわけよ。いや、あっちが本当に素だと思って、憧れちゃったりなんかしてたりなんかしてたら期待に沿えずに申し訳ないって所だけどねー」

「いえ、そんなことないです。むしろ、ちょっと安心しました」


 そう言って笑うギルファーを見てクリアは笑みを溢す。


「最初はその、確かに格好いいと思いまし、トキメキましたけど、その、少しギルファーさん電波過ぎました」

「少しじゃなくて、かなり電波」

「かなりで済めば良いけどなー」

「く、くそぅ……。敵が増えた……」


 クリアの言葉に便乗する刹那とチェスター。

 うな垂れるギルファー。

 それを笑いながらに見るマユ。


「いやー、中々言うわね。まぁ、とりあえずご飯にしよっか? 今日は良い塩付け豚肉が手に入ったし」


 エプロンを付け直したマユは、台所へと向かおうとしたところで何かを思いついたようにクリアへと言葉を投げる。


「クリアちゃんも〈料理人〉だったよね? ちょっと手伝ってもらっていい?」

「あ、はい!」


 返事に力が入ってしまったことにクリアは自分で驚く。

 もしかしたら。

 ここでなら、自分の居場所を作れるかもしれない。


「マユさん、私、中華ってあんまり作ったこと無いんですよ」

「ホント? じゃあ教えてあげるから一緒に頑張っちゃおう」


 台所から聞こえてくるのは楽しげな二つの声。

 次第に聞こえてくるのは包丁が食材を切る音や、炒める音。


 その音を聞きながらギルファーは「ま、なるようになるだろ」と言葉を漏らし、一際大きな腹の音を鳴らしたのだった。 

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