13
「何してくれたか分かってんだろうなテメェ! 返事ぐらいしたらどうだ! アァ!? 耳付いてんだろうがクソガキがッ!」
怒声と共に目の前で踞る〈冒険者〉の少年の腹部を蹴り上げた男はそのまま更に顔を踏みつけようとしたところで肩を掴まれ、その動きを止める。
「なぁんで俺を止めてんだ、ゲノム。テメェが死ぬか?」
肩に置かれた手を乱暴に振り払った男はその手の持ち主を睨む。
ストレスの発散を邪魔する相手は例え同じギルドの奴だろうと関係はない。この胸の内から湧き上がる苛立ちは徹底的に誰かを潰さなくては鎮まらない。
ゲノム、と呼ばれた男は凄んでくるその顔を一度見た後、石畳の上でゲホゲホと咳き込む少年に〈脈動回復〉を掛ける。
「……ったくなぁ、伐人。熱くなるのはいいけど脈動切れてんだよ。続けたいならこうやって回復してからにしろ。じゃないとすぐ死ぬぞ、ソイツ。それに、順番守ってんのもいるんだぞ」
しかし、その〈脈動回復〉は彼の行為を咎めるものではなく、その逆で推奨するものだ。
〈脈動回復〉は〈森呪遣い〉の固有回復魔法であり、一定時間毎に自動的にHPを回復するものだ。つまり、回復量を下回るダメージを与え続ければ効果が切れない限りは、殺さずにいたぶり続ける事が出来る。
「……あぁ、それは悪かったゲノム。順番待ちがいるならそう簡単に壊しちゃいけねぇな。次はどいつだよ」
「そんじゃボクでいいかな?」
「おぉ、やりすぎんなよリボ」
『PKには二つの種類がある』
PK集団の言葉が遠く聞こえる中で、その身体に活力が戻ってくるのと同時に少年は尊敬するギルドマスターの言葉を思い出していた。
『一つは相手のドロップ品目的っていうある意味合理的な連中だ。そいつらは実利を得るためにPKをする。他人が集めた金品を掠め取るハイエナ……まぁ、向こうで言う銀行強盗みたいなもんだな。けどまぁ、こいつらの存在はまだわかるし理解できなくもない。隣の芝生が青いからその芝生を寄越せって事だし。
そんで二つ目があれだ。ただ単純に弱い者苛めがしたいっていうゴミクズ。弱肉強食を勘違いしてるうんこ野郎。こいつらは単純に自分の力を誇示したいゲロ野郎でただただ自分より弱い相手を嬲る事しか頭にない×××野郎どもだ。生きてる価値もなければ死ぬ価値もない、真正の汚物だ』
彼らは明らかに後者だ。
レベル九十の壁を超えているのにも拘らず、レベルが六十三の自分をこうして甚振り続けている事からも明らかだ。
そんな連中の事をなんて言っていたか。
「はーい、眠るのはまだまだ先なんだよ……っと!」
「〜〜〜〜ッ!」
思考を中断させるように伐人から順番を交代したリボの握る刃が太ももを貫き、声にならない悲鳴が喉から零れる。ついさっき回復させられたHP分をごっそりと削っていったがゲノム以外にもいた回復職が回復魔法を少年へと飛ばし、瞬時にそのHPを回復させる。
「とりあえずストレス発散に付き合ってよ。ね? だーいじょぶだいじょぶ、安心して。死んだりしないし、そんな事させないから」
朗らかな口調とは引き換えに、リボはザクザクと一語一語ごとに刃で身体を貫いていく。
「まったく君もさぁ? ボクらの邪魔しなければこうならなかったんだよ? 〈大地人〉なんかボクらに遊ばれるためにいるんだよ?」
少年はもともと彼らのターゲットではなかった。
友人達と組んだパーティでの訓練帰りに立ち寄った神代の名残の残るゾーンで〈大地人〉を襲っている〈リライズ〉の集団を発見したのだ。そして、それを止めるために半ば反射的に弓に矢を番えて攻撃を仕掛けた。
相手のステータスを見るまでもなくレベルが九十なのは知っていたし、〈リライズ〉がどんな集団かなんて事も百も承知だ。攻撃を仕掛ければ、自分がPKの対象になることは分かっていた。それでも、身体が反射的に動いたのだから、後悔はない。
襲われていた〈大地人〉はパーティを組んでいた友人らによってシブヤへ逃げおおせただろう。
それだけでも、少年はこの場において勝者だ。
「……腐敗した魂」
そうだ。
片翼の天使ギルファーはそう言っていた。
「んん? なんか言った?」
「はっ、腐敗した魂って言ったんだよ、耳付いてないのかアンタ。〈大地人〉や三十もレベルが下の相手にしか強気に出れない玉無しチキン野郎」
「はい死んだ〜」
リボの剣が問答無用で下腹部へと突き刺さり、HPをごっそりと削る。だが、少年は死なない。
それに反応して回復の光が身体を包み込んだからだ。反応起動回復だ。
意識が飛びそうになるほどの激痛で逆に思考がクリアになる。本当に、無駄に高い連携力だと少年は呆れる。それだけの実力があってこんなことしか出来ない大人に。
だから、少年は負ける訳にはいかない。大人に反抗するのは子供の特権だ。
「何回でも言ってやるよ。腐敗した魂でアンタらは、どんだけ楽しいんだ。頭の天辺から爪先までオメデトウだ」
伐人はその少年の目が死んでいないことに一度落ち着いた怒りが再び沸き上がるのを自覚した。
気に入らねぇ。
回数で言えば十数回は死ぬだけのダメージを食らい、それでも目に光が点っている存在が気に入らない。
もういい。さっさと首を刎ねろ、リボ。
そう口にした。
――筈だった。
「――〈アンカーハウル〉」
その裂帛に満ちた静かな言葉が聞こえなければ。
■
伐人が、ゲノムが、リボが、残りの二人が声の主へと注視する。
「良く耐えたな、チェスター」
男の姿は、普段良く目にする姿とは違っていた。
〈手作業品〉で着心地のよい衣服ではない。
一切の装飾を排した金色の鎧。
頭は視界の確保が困難ではないかと思われる程度のスリットが入っている兜。
右腕と左腕には全長二メートルを超す盾が一つずつ。
「――リカ、ルド兄……?」
それは〈S.D.F.〉ギルドマスター、リカルドが戦闘用装備に身を固めた姿だった。
「あぁ、俺だチェスター。〈大地人〉とマユちゃん達は無事だ。早いところ〈帰還呪文〉でシブヤに帰ってあの子たちを安心させてやれ。――こっから先は俺の仕事だ」
〈アンカーハウル〉を受けてしまった以上、リカルドから目を外す事が出来ない。そのため〈帰還呪文〉発動時の無防備状態に干渉することによる発動キャンセルを行えず、〈リライズ〉の五人は〈帰還呪文〉が発動するのを見送った。
完全にチェスターがシブヤへと帰還し、ゾーンに〈リライズ〉とリカルドだけになったところで憎々しげに伐人はリカルドを睨み声を荒げる。
「は、ははッ! 釣れたのはテメェかよ、リカルド! なんだぁ、その装備は。俺たちと戦おうってのか? こっちはレベル九十以上が五人だ! テメェ一人でどうにかなると思ってんのか? しかも回復職が二人もいるんだ! 幾らテメェが強かろうが――」
「伐人」
だが、リカルドはまだ続きそうな伐人の言葉を遮り、両腕の盾を拳を打ち鳴らすかのように合わせる。
「御託はいい。――始めるぞ」
「――死んだぞテメェ!」
伐人とリカルドの言葉はほぼ同時。その言葉を持って戦闘が始まった。
■
〈盗剣士〉レベル九十一、伐人。
〈守護戦士〉レベル九十、リボ。
〈妖術師〉レベル九十一、地獄の使者ディーム。
〈森呪遣い〉レベル九十、ゲノム。
〈施療神官〉レベル九十、黄昏の担い手アルマ。
(ギルの旦那みたいな名前も案外いるからなぁ)
〈リライズ〉の攻撃を捌きながら戦力を確認していたリカルドは戦闘には一切合切関係のない事を考えていた。
そんな今も十回目ぐらいの伐人の刃を左手の盾で弾き、ディームが放った氷槍を右手の盾で打ち落とす。リボの背後からの刺突はそのまま鎧で受ける。体勢を立て直そうとした伐人には〈シールドスマッシュ〉で怯ませ、背後のリボには〈シールドスウィング〉で迎撃。回復職と一緒のところで再詠唱を始めたディームは無視。
攻撃に参加してこない回復二人は前衛一人につき一人のHP管理をしているようで全体回復ではなく個別の回復が飛んできている。
(バランスはいいけど、連携そんなよくねぇな……)
数だけで言えば劣性であることは確定なのだが、少なくとも相手の連携を心配する程度には余裕があるのだ。
「ゲノム! 回復はアルマに任せてお前も攻撃に参加しろ! 囲んで手数で削ればこいつが幾ら堅かろうが死ぬんだ!」
ゲームの仕様的な問題で、同レベルの相手の攻撃を盾で完全に防いだところでダメージがゼロになる事はほぼない。それは防御力で防ぐのは攻撃という行為ではなく、ダメージ量だからだ。見た目的にはダメージを受けていないようでもHPは確実に減っていく。〈守護戦士〉が壁として機能できるのは後衛との連携が出来てこそのものであり、ソロで戦闘している以上は壁は一方的に破壊される。そのため、リカルドはここでどう立ち振る舞おうとも〈リライズ〉に殺されるのが道理だ。現に、リカルドのHPは既にその五割を失っている。
〈リライズ〉から見ればリカルドは巧みに攻撃を捌きつつ、隙を見て反撃をしているがそんな反撃程度は回復職が回復する。このままHPを削っていき倒すだけだ。注意しなければいけないのは〈S.D.F.〉の応援が来る前に削り殺すという一点だ。
「〈ウィロースピリット〉!」
既にアルマの〈従者召喚:マイコニド〉によってリカルドの足元に召還されたキノコが行動を阻害する劈く声を上げる。〈シューリカーエコー〉の劣化版とはいえ行動を阻害するには十分。そしてさらにそのキノコの出現により「植物のある場所」として認識された足元から大量の蔦がリカルドの身体に巻きつき、移動を阻害する。
「――おぉ?」
身動きの取れなくなったリカルドを見て、嗜虐の笑みを浮かべた伐人はさらに指示を飛ばす。
「ハハッ、ざまぁねぇな“鉄壁”! ディーム!」
「わーってる! 燃え尽きろ! 〈フレアアロー〉!」
ディームがかざした杖の先から飛来してくる炎の矢が、リカルドの身体に巻きついた植物を巻き込んで大きな炎を生む。真っ赤に燃え上がる炎に飲み込まれたリカルドのHPがみるみる減少していくのを確認した〈リライズ〉は喝采の声を上げた。
しかし、その歓喜の中にいる〈リライズ〉の中で二人が訝しむ表情を見せる。
一人は〈妖術師〉地獄の使者ディーム。
自らの放った魔法〈フレアアロー〉は対象が掛かっているバッドステータスの数だけ炎の矢から小さな矢は出現し、追加ダメージが発生するという効果を持つ。マイコニドの〈シューリカーエコー〉による行動阻害と〈ウィロースピリット〉による移動阻害。少なくともこの二つのバッドステータスによる追加ダメージが発生する筈だ。――が、小さな矢のエフェクトの発生を確認できなかった。
一人は〈守護戦士〉リボ。
同じ職業で同じレベルだとしても各人のステータスにはばらつきがある。さらにそれに装備による補正なども加わるのだから、相手を見ただけで相手の全ステータスを把握することなど不可能だ。それでも、相手のだいたいのステータスの見当を付けることはできる。リカルドのレベルは九十三。装備はリボ自身の装備よりもグレードが三つほど上。“鉄壁”という二つ名持ち。盾の二刀流という装備は攻撃力を犠牲にして防御力を上げるもの。――その割には幾らなんでもHPが減るのが速すぎはしないか。
「ははははは! どうしたよ、リカルド! おい、お前ら! 畳み掛けるぞ!」
「やっぱ、俺らはツエーんだよ! ヒャハハハハ!」
「あとHP三割ぐらいならこのままで削りきれるな」
だが、そんな二人の様子に気を向けることなく我こそがリカルドに止めを刺さんと伐人に続いて回復職の二人までもが武器を手に火柱へと殺到する。
「なッ!?」
そして、火柱をその場に置き去りにする尋常ならざる速さで飛び出したリカルドのタックルによってまず、突出していた伐人が弾かれる。そしてリカルドへ殺到した事が仇となり、ゲノムがそれに巻き込まれる形で神殿へと送られた。
その一瞬の出来事に状況を把握できていないアルマがリカルドの姿を目で追う。彼の目に映ったのは、両腕の盾で身を隠しこちらへと向かってくる巨大な城壁だった。
「……シ、〈シールドチャージ〉……なの、か?」
リカルドへ殺到しなかったリボは何を使われたのかを見て取った。
〈シールドチャージ〉。
前方に盾を構えたのちに対象に向かって移動し、体当たりをお見舞いする攻撃。その攻撃には相手を吹き飛ばすまたは体勢を崩す効果を持つ。前方への大きな移動補助効果も持っていて、その攻撃はもとより強引に敵を追い返すという特性から盾ビルドの〈守護戦士〉の必須特技の一つである。
しかし、その特技の名前にリボは疑問符を付けた。
〈シールドチャージ〉は移動補助効果が付いているにしてもあれほど速く動くものではないし、たとえ回復職だとしてもレベル九十のHPは八千から一万程度はある。それを一撃で倒す攻撃力など〈暗殺者〉の〈アサシネイト〉級という事になり、バランスブレイカーもいいとこだ。
「い、いや……〈口伝〉、ってヤツなの……か?」
呆然と、呟く。
それは未知の技術。アキバから来た新入り達が口にしていた〈エルダー・テイル〉の特技体系には属さない特技に似て非なるもの。
「――違ぇよ、リボ」
リボは思考に埋没していた自分を呪った。
目の前には天へと盾を振り上げている鎧。
「――こいつは〈天界技〉だ」
「へ、へぶんずあーつ? そ、そんな技、守護戦士には――」
「ねぇよタコ」
振り下ろされた〈シールドスマッシュ〉によって七人目が神殿送りにされる。
〈天界技〉。
簡単に言おう。
命名者はもちろん片翼の天使ギルファーだ。
アキバで言うところの〈口伝〉だ。
違いは一切ない。
ただ〈S.D.F.〉において〈口伝〉は〈天界技〉と呼ばれるだけだ。
そして、リカルドが使った〈天界技〉はオーラを纏い一時的に盾の面積を九倍にし防御範囲を大きく高める〈グレート・ウォール〉とリボが推測したとおりに〈シールドチャージ〉の二つだ。
リカルドは〈グレート・ウォール〉で面積を九倍化させたオーラをそのまま広げるのではなくて盾の面積に細分化し、重ねる事で一度の防御で九回の防御判定を発生させる〈レイヤー・ウォール〉として昇華している。そしてその〈レイヤー・ウォール〉との両腕の盾で発動する〈シールドチャージ〉との複合技が〈ブレイク・ウォール〉。
両腕の盾で〈シールドチャージ〉を二重に発動することにより移動補助効果を二重に発生させる。そして〈レイヤー・ウォール〉によって九回となった防御判定をもつ難攻不落で絶対守護の壁がその速度で体当たりをお見舞いする。もともと〈シールドチャージ〉は盾の防御力によって威力が左右されるもので、つまりそれがそのまま攻撃回数となる。防御をもって攻撃と為す。『攻撃は最大の防御』ならば『最大の防御は攻撃』である。
それこそがリカルドの〈天界技〉である〈攻防一体〉。それはあらゆる防御を攻撃とし、あらゆる攻撃を防御とする。
一瞬のうちに九回が両腕の盾の二つで都合十八回の連撃を叩き込む〈天界技〉。〈S.D.F.〉のメンバーからは〈ひき逃げアタック〉と呼ばれる代物だ。
神殿への転生光を見送ったリカルドはあまりの出来事に腰を抜かして座り込んでいるディームへと一歩ずつ歩みを進める。
「や、やめ……」
「安心しろ、ディーム。俺に弱者を嬲る趣味はねぇ。あっさり殺してやるから」
そして、一人残され仰向けに倒れていた伐人は憎悪を込めた瞳でリカルドを見て吠えた。
「……ッ! こ、の……チート野郎が……」
行動阻害に移動阻害の無視。
一瞬で自分のHPの七割を持っていく攻撃力。
何もかもが出鱈目で理不尽だ。
〈エルダー・テイル〉においてこんな事は許されることじゃない。
だが、そんな事よりも大事なのははリカルドのHPが減っていないという事だ。
少なくとも四割は削ったはずのHPが完全に回復している。
「〈ACT〉のアザゼルに比べたらだいぶまともだろ、俺は。あっちの方がチートだ」
それについては伐人も否定するつもりはない。
認めたくはないが、リカルドがシブヤ最強の〈守護戦士〉とするならばアザゼルは現状でおそらく日本サーバ最強の〈武闘家〉だ。彼ほどの人間はアキバに居なければミナミにもいないだろう。そう断言してもいい程に個人の戦闘能力を見ればあの男はぶっ飛んでいる。特技でもないただのジャブで戦士職のHPを一割ほど持っていく辺りどうかしているし、幾ら回避型の〈武闘家〉だとしてもこちらの攻撃がほぼ当たらず、範囲魔法の炎の波すら避けきったのを見たときは目を疑ったほどだ。だがアザゼルの壊れっぷりは本人自身の戦闘技術によるものだというのは理解できている。
しかし、リカルドは違う。
「なんで、なんでHPが回復してやがる……ッ」
〈守護戦士〉にHP回復特技が無いか、と言えばそういう訳ではない。戦闘中に自然回復を発動させる特技はあるし、盾の破壊を前提としたものも確かに存在している。しかし、リカルドの両腕に大盾は健在であり、自然回復量程度の回復量では完全回復までまだまだ時間がかかる。
「伐人、聞けば答えを教えてもらえるってのは卒業したらどうだ。……まぁ教えてやるよ、どうせ知ったところで対応なんざ出来ねぇし」
一歩ずつ。伐人へと歩みを進めながら静かに説明を始める。
「俺が使ったのはHP量を偽装する〈鉄壁〉の特技だよ。モンスターの中にはヘイトを無視して残HPが少ない、倒せる奴から狙うっつう厄介なのもいるわけだ。そういう奴に、自分は弱ってるぞ、と見せかけるっつーな。つまり、お前らが見ていた俺のHPは俺が自分で減らして見せていたHPって事だよ」
「――じゃあ、テメェは」
「お前らの攻撃なんかじゃ、ノーダメージなわけ。そんでお前らが突っ込んでくるの待ってたってわけだ」
ため息交じりにそう答えたリカルドだが、実際は四割近くのHPを削られている。
HPを偽装する特技を使って、表面上はHPが満タンであるように偽装しているに過ぎない。あのまま伐人たちが突っ込んで来ないで謙虚にちまちまと削りにきていたらリカルドは死んでいただろう。
だが、それを知る事が出来ない伐人にとってはそれが真実だ。
情報が見え過ぎてしまうこの世界ではステータスに〈守護戦士〉と表記されていれば〈守護戦士〉だし、〈大地人〉と表記されていれば〈大地人〉だ。それを疑う事もなく受け入れる。それを覆された時、与えられた情報を信じてしまうのは仕方のない事である。
「そ、阻害が効かなかったのはッ!」
「全部答えさせる気か? そんなの〈守護戦士〉にとって地形トラップなんざ力尽くでごり押しするもんだろうが。神殿でリボにそんな特技がないか聞いとけ」
そして、伐人の目の前で盾を前方に構える。
「――〈ブレイク・ウォール〉」