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01

「いいぞいいぞ、逃げろ逃げろ。やっぱり無理矢理ってのが一番燃えると思うわけよ、ボクはさぁ」


 下卑た笑い声とともに屈強な体躯を持つ〈冒険者〉が月明かりの下に悠然と姿を現す。

 その背後には同じように笑う〈冒険者〉が五人。


「ひっでぇなぁ、ボスは。俺なんて紳士だから最初はお願いするんだぜ? ま、断られたら狼になるけど」

「俺はやっぱり複数でってのが燃えるけどな」

「〈大地人〉はやっぱ脆くて駄目だしな。そこら辺はやっぱり〈冒険者〉とっ捕まえたほうが手っ取り早いし」

「ひゅー、必死にケツ振って逃げちゃってるよ」

「やっべ、俺誘われてんじゃね? 俺誘われてんじゃね?」


 口々に発せられる言葉からは彼らの考え、今までしてきた行為がありありと見える。


「――ッ!!!」


 彼らから逃げるのは一人の〈冒険者〉。

 年齢は十五歳で性別は女。

 ただ、それだけで追いかけられる理由としては適当すぎた。

 逃げるだけならば〈帰還呪文〉を使用すれば彼女のホームタウンであるアキバの街に転移することが可能だ。

 だが、彼女はそれを選択しない。いや、〈帰還呪文〉を使用する事ができない。


「〈帰還呪文〉で逃げれないのは大変だよねー?」

「ボスもえげつないこと考えるよね。〈帰還呪文〉を使ったプレイヤーを狙うなんてさ」


 〈帰還呪文〉は〈冒険者〉なら誰もが使用できる便利な呪文だ。便利な呪文だからこそ、制限が存在する。

 使用できるのは二十四時間に一回。

 これが、唯一にして最大の欠点だった。


「なに、要はココだよココ」


 変わらず下卑た笑い声を上げながらボスと呼ばれた男は自らの頭を指差す。見た目からは想像もつかないがどうやら頭の出来が普通とは違うようだ。


「お、草むらに突入したじゃん」

「鬼ごっこから隠れんぼにクラスチェンジ?」

「探すのは面倒くせーけど、これってあれだろ? 早い者勝ちだろ?」

「おいおい、お前らひでーな。皆で楽しもうぜ」


 草むらへと飛び込んだ少女は息を殺す。

 念話を使って誰かに助けを請いたくても、その念話で場所を特定されてしまうかもしれない。

 そう思うと、少女は黙して逃げることしか出来ない。

 もっとも、少女はギルドに所属していない。

 フレンドリストに登録されている名前はそこそこあるものの、助けに来てくれそうな知己は数えるほどしかいない。しかも、その知己は〈大災害〉時にログインしていなかったのか名前を選択することが出来ない。

 つまり、念話で助けを呼んでも果たして駆けつけてもらえるのか、という恐れも有ったのだ。


「あーでも、隠れんぼって探すのだりぃな」

「じゃーボスは今回パスな」

「そういや〈大地人〉のペットちゃん3号を壊したのボスだろ? ワンペナワンペナ」

「は? 待てよ、ペットちゃん3号壊したの俺だってなら4号壊したのはテツだろ?」

「おーそうだそうだ。テツもワンペナー」

「ちょ、待てって。ペットちゃんなら適当に攫ってくればいいんだからノーペナだろ?」

「往生際がわりーぞ、テツ。ワンペナワンペナ」

「ボスナイスとばっちりー」


 男たちはゲラゲラと笑いながら草むらを踏みにじる。


(好き勝手なことを言って……)


 少女は黙しながら必死に男たちから距離を取る。

 本当なら今すぐにでも殴り飛ばしてやりたい。いや、殴り飛ばすだけではなくて本当に殺してやりたい。

 まだ十五歳とはいえ、男たちの台詞の意味ぐらい解る。

 だからこそ、必死になって逃げているのだ。


「しゃーねーなぁ。ここいらでリーダーとしての度量を見せてやるか。俺とテツはここで待機、初物は早い者勝ちだな」

「マジ最悪だー」

「ひゃっほー俺こっちさーがそ」

「よしきた俺はこっちにすっかなー」

「〈暗殺者〉の速さに勝てると思うなー」

「残り物には福があるっていうしなー」


 高らかに宣言したボスの一言で、四人の男が本格的に少女を探し始める。

 もちろん、それを聞いていた少女は逃げる歩みを止めるわけにはいかない。

 だが、悲しいことに少女と男たちには絶対的な差がある。

 男と女という性差ではない。

 レベル90とレベル38というレベル差だ。

 〈冒険者〉としての身体能力はステータスに依存する。

 ならば、高レベルの方が身体能力が高いのは自明の理だ。

 すなわち。


「あ……」


 草むらを必死に駆ける少女の腕をがっしりとした男の腕がつかむ。


「おっしゃー、つーかまえたっと」


 少女の必死の逃走も男たちからすれば気まぐれに過ぎないのだ。

 男の勝鬨を耳にし、残りの五人もその場へと集まってくる。


「はやすぎだろ、クライ」

「かーっ、さすが早漏クライ」

「しかたねーなぁ。初物はお前に譲ろう短小クライ」

「お前ら殺すぞ」

「事実だろ。ペットちゃん2号で五分持たなかったじゃねーか」


「いや……」


 男たちの下卑た笑い声が耳に刺さる。肌に刺さる。

 がっしりとつかまれた腕は自分の力では振りほどけない。


「いや……だってよ、かわいーなーオイ」

「うわーそんないたいけな少女を襲っちゃうクライ君鬼畜ー」


 少女の拒絶ももはや、彼らにとっては興奮剤の一つに過ぎない。

 それも少女は十分に理解している。

 けれど、叫ばずにはいられなかった。


「イヤーーーーーーッッ!!!!」


 そして、その叫び声が響くのと同時に。


「――痛ッ!」


 少女の腕をつかんでいた男の腕から鮮血が奔る。

 その痛みに反射的に少女の腕を放してしまい、結果的に少女は拘束から逃げ出し鮮血を生んだ『七』人目の男の後ろへと回り込む。


 呆気にとられたのはボス以下残りの五人だ。

 いきなり空から降ってきてクライの腕を一太刀。

 そして、少女を庇うように自分たちに剣を向けている。

 しかし、その状況を理解するのに時間はそう掛からなかった。


「いい度胸じゃねぇか。何だテメェ?」


 ボスが口を開く。

 直接問わなくても、相手のステータスを見れば名前や所属ギルドなどは読み取れるのだが彼の頭は出来がやはり違うらしい。


「……」


 七人目の男は油断無く隙無く剣を構えたまま


「我が名ギルファー。


 ――片翼の天使ギルファー」


 静かに。

 月下に澄み渡る声で口にした。

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