それは既に目の前にある
物語が大きく動き出す回です。
ユウミの運命を左右する“出会い”を、ぜひ見届けてください。
ユウミは、暗闇の奥へと足を進めた。
足音が、やけに大きく響く。
静かすぎる。
だが――この静寂の中に、確かに“何か”がいる。
確信に近い感覚だった。
ドクン……
心臓が、ゆっくりと鳴る。
さっきまでとは違う。
どこか――穏やかだ。
「……ここか」
ユウミは足を止める。
空気が変わる。
重い。
だが、不思議と拒まれている感じはない。
一歩、踏み出す。
その先にいたのは――
巨大な白銀の獣だった。
その背には、大きな翼。
だが、その翼は無惨に裂けている。
羽は抜け落ち、骨が覗いていた。
それでもなお――完全には折れていない。
かすかに、再生しようとしている。
「……ひどいな」
ユウミは思わず呟いた。
全身に走る無数の傷。
呼吸は浅く、今にも途切れそうだ。
それでも――
その瞳は、死んでいない。
ゆっくりと、ユウミを見据える。
警戒。
威圧。
そして――わずかな意志。
「……敵じゃない」
ユウミは静かに言う。
理由はない。
だが、わかる。
この存在は――斬る相手じゃない。
一歩、近づく。
グルル……ッ!!
白銀の獣が低く唸る。
「……だよね」
ユウミは小さく頷く。
「でも、このままじゃ死んでしまう」
ゆっくりと手を上げる。
敵意はない、と示す。
「これは薬だよ。効くかどうかはわからないけど、飲んでみて」
ポーチから小瓶を取り出す。
あの時、拾ったものだ。
近づく。
鋭い視線が突き刺さる。
それでも、ユウミは止まらない。
「君を助けたい」
その言葉に、わずかに緊張が緩む。
ユウミは慎重に、獣の口元へと薬を運んだ。
流し込む。
数秒の静寂。
やがて――
傷が、ゆっくりと塞がり始める。
呼吸が、安定していく。
「……よかった」
ユウミは小さく息を吐いた。
その瞬間。
視界が揺れる。
「……っ」
力が抜ける。
限界か。
「俺も、少しだけ休ませてもらうよ」
その場に座り込む。
意識が遠のく。
最後に見えたのは――
こちらを見つめる、金色の瞳。
どこか、優しい光だった。
***
「――起きて」
かすれた、白銀の獣の声が静かに響いた。
だが、その声とは別に――
どこかで、聞いたことがある気がした。
(……この感じ)
一瞬だけ、あの夢の光景がよぎる。
――背中で守っていた、小さな女の子。
ユウミはゆっくりと目を開けた。
最初に感じたのは――
濃すぎる悪意。
「……来たか」
ユウミは体を起こす。
痛みはある。
だが、動ける。
視線の先。
そこにいたのは――三体の悪魔。
歪な角。
黒い皮膚。
濃密な殺気。
「ほう……生きていたか」
悪魔の一体が嗤う。
「白き獣も、まだ息があるようだな」
「……お前らがやったのか」
ユウミは静かに問う。
悪魔は肩を揺らして笑う。
「それがどうした」
「別に…ただ…」
ユウミは視線を落とす。
「お前らがろくでもない奴らなのはわかった」
次の瞬間、踏み込む。
一体目の悪魔が爪を振るう。
遅い。
ユウミは半歩ずらし、紙一重で回避。
懐に潜り込む。
肘打ちを喉へ叩き込む。
鈍い音。
呼吸が止まる。
そのまま首を掴み、捻る。
骨が砕けた。
一体目、沈黙。
二体目が背後から腕を突き出す。
槍のように鋭い一撃。
見えている。
ユウミは体を沈め、躱す。
足払い。
悪魔の体勢が崩れる。
顔面に拳を叩き込む。
さらに追撃。
頭部が砕け、崩れ落ちる。
「……二体」
残る一体。
目が合う。
次の瞬間――
逃げた。
「……腰抜けが」
追わない。
その代わり、感じる。
遠くから迫る、無数の気配。
「……来るか」
数では測れない。
ただ――多すぎる。
「……厄介だ」
そのとき。
背後で、気配が動く。
ユウミは振り向く。
白銀の獣が、ゆっくりと目を開けていた。
「大丈夫か」
ユウミは声をかける。
その瞳には、はっきりとした意識が宿っている。
「……我を助けたのは、小僧お前か」
「たまたま薬があっただけだよ」
沈黙。
「……余計な真似を」
「ただ助けたかった」
ユウミは視線を逸らしながら答えた。
「それより――」
「悪魔が来てた。二体は倒した。一体は逃げた」
「……そうか」
空気が引き締まる。
「ならば、時間がない」
「外から来る」
「そうだね」
地面が揺れる。
空気が震える。
迫っている。
白銀の獣が立ち上がる。
まだ万全ではない。
だが――圧倒的な存在感。
「……小僧…お前は何物だ」
「ただの……人間だよ」
少し間を置いて答える。
「……そんなことを問うているのではない」
「お前は、“龍に選ばれている”」
ドクン――
心臓が鳴る。
「……なんの話?」
軽く返す。
だが――
思い当たる節はあった。
「それより――」
ユウミは外へと意識を向ける。
「来るぞ」
地面の揺れが強くなる。
白銀の獣が前に出る。
ユウミも並ぶ。
言葉はいらない。
共に戦う。
「……行くか」
その一歩が――
すべてを大きく動かす。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ユウミにとって大きな転機となる出会いが訪れました。
この先の物語も、見届けていただけたら嬉しいです。
少しでも面白いと感じていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。




