2話:失ったわれたもの
道中の霊を斬り伏せながら山頂にたどり着く。
霊がここに集まっている理由は分からない。しかし、集まってきてくれているのなら好都合でもある。
霊は自身の命と言ってもいい霊力に引かれる。
──いつの日かお母様にもらった髪飾りを外す。
それと同時に私の封じられていた霊力が溢れ出て、右目が緋色に変わる。
私の溢れ出た霊力に引かれて散り散りだった霊達が私の方へと集まってくる。
私はそっと緋扇を取り出す。
集まってきた霊をまとめて除霊する。
代々伝わっているこの、特別な舞で。
ゆっくり、ゆっくりと舞い始める私。
あぁ、やっぱり舞うのは楽しい。
しかし、そんな悠長なことを許してくれる訳がない。
焔が私を包み込む。焔を操る私に焔は効かない。
──舞は止めない
かまいたちのような風が私の頬を、全身を薄く切り裂いていく。
──それでも舞は止めない。
だって、こんなにも楽しい時間を、この程度で終わらせられないから。
その内に霊たちは大人しくなり、私の舞をじっと眺めるようになった。
パタン、と緋扇を閉じて舞が終わる。
それと同時に霊達が淡い光の粒となり天に登っていく。
「あぁ~楽しかった」
少し頬を緩ませながらそう言う私。
「これにて舞い納め。だね」
ふぅ、と一息つくと同時に思い出す。
──お母様っ!
そうだ、お母様を探さないと。
ダッ!と駆け出す私。
お母様、お母様。何処にいるの?
それだけを胸に私は闇雲に暗い森の中を走り続けた。
「お母様っ!」
ようやく見つけたお母様にそう声をかける
「──貴様を殺すことになるとはな」
ズバッ!と一閃。
大鎌を持った女がお母様を切り裂いた。
ドサリッと仰向けに倒れるお母様。
「──お母様っ!?」
絶叫とも言える声で叫ぶ私。
同時に駆け出して大鎌女に一閃を浴びせる。
ギンッ!
と容易く止められてしまった。
「ほう、たしかにこれは...」
私のアヤメをみて意味深に呟く。
「あぐっ!」
私を蹴り飛ばす大鎌女。
「まぁいい。親子のお別れを邪魔するほど無粋ではない。目的は達した」
それだけ言い残し、空間に穴を開けるように切り裂く。
そしてそのままその中へ消えていってしまった。
「お母様!お母様っ!」
バッ!と飛びつくようにしてお母様の手を握る。
「舞桜...ごめんね。こんなところ見せちゃって。
ホントは見せる気なんて無かったんだけど...」
ゴポリ、とお母様の口から血が溢れ出てくる。
「喋らないでください、お母様!」
肩から腰にかけてバックリと切り裂かれている。
誰が見ても分かる致命傷だ。
嫌だ、嫌だ。
このままお母様が死んでしまうなんてっ!
そんなのは絶対にっ!
ねぇ神様っ!こんな時くらい、こんな時くらいなにかあっていいじゃんか!
私は今までこうして人形として頑張ってきた!
だったら今くらい私の願いを叶えてよっ!
血溜まりの中、手を合わせ神に祈る。
「大丈夫よ。舞桜」
優しく微笑むお母様。
「大丈夫。あなたなら、もう私がいなく、ても。幸せを掴める、わ」
そっと私の頬をなでる。
手が、少しずつ冷たくなっているのが分かる。
それがお母様のタイムリミットであると、そう実感させてくる。
ポツポツと雨が降り始める。
もう時間がない、とそう強調するように。
「おかぁ、さん」
ギュッと強く、強く握り返す私。
「舞桜。
──大好きよ。愛してるわ」
それだけ言い残しパタン、と完全に力を失い頬に当てられていた手が地面に落ちる。
握っていた手から完全に温もりが消える。
「あぁ...あぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
私の悲鳴は強くなる雨にかき消されていく。
お母様の死体を抱きしめる。
認めたくなくて、信じたくなくて。
でもそれは、冷たくなったお母様を感じることで、たしかに死んだのだ。と、より強調するだけだった。
雨が頬を伝う。
実の母親が死んだというのに人形である私は、涙を流すことすら許されないの...?
ゆっくりと空を見上げる私。
世界がぼやける。
私の代わりに雨が顔をぐちゃぐちゃに濡らしてくれる。
私の代わりに泣いてくれている。
──そんな気がした。
この日から私は心から誓う。
大切なものを失わないように、絶対に守り抜くことを。
手遅れにならないように近くに居続けることを。
何をしてでも大切な2人の日常を守ることを。
それがお母様を助けられなかった私にできる罪滅ぼしだと、そう思ったから。
***
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
このお話は『緋眼の舞姫』の外伝として、
舞桜が「好き」という言葉を口にしなくなった夜を描いたものです。
本編では、少し時間が流れたあとの舞桜たちが、
現代の東京で除霊師として日常と戦いのあいだを生きています。
もし続きを見てみたいと思っていただけたら、
本編ものぞいてもらえるととても嬉しいです。




