モンスター
先日、中学のOB定期演奏会で吹奏楽部の男性の先輩たちに何度目かの謝罪をされた。
「あんなモンスターを生んで申し訳ない」
定期演奏会ごとに何度も謝罪を受ける。
先輩は悪くない、むしろしつこいほどに好意を伝える吾郷という同級生が問題なのだ。何度も交際は出来ないというのに会えなくてもここ五年はSNSで年に一回「好きだ」と言われる。交際をして欲しいと同等だが、ごまかし続けて二十年。私は結婚する。
これが最後の付き合いだ。これで終わりだと思っていても会社からの帰り道も怖い。
吾郷がこれまでしてきた行為、これは中学から含めると『帰りについてくる』や『SNSでの一方的なDM』と『年に一回の好意』で私はそれらがより過激なストーカー行為に発展することを知っている。
先日、従姉妹がサックスを吹いているから色々教えて欲しいとDMが来た。気持ち悪くて彼氏に投げると二回のやり取りで返信は消えたという。
何かあったら彼氏に投げる。吾郷は静まる。もう送って来ないと安心しつつも、どこか不安だ。
元々、内気で非活発的な吾郷はこちらが笑いかけても冗談を言っても憮然とするばかりだった。吾郷が私に好意を持っていると知っても意味が分からなかった。
先輩たちは面白がって、吾郷の心を不用意に触った。それが吾郷にとって後ろ盾を得たと感じさせるに至ったのだ。
吾郷のXは非公開ではない。私は自身の安全確保の為に吾郷が知らないアカウントで吾郷の動向を探っている。これまで私や私以外に危害を加えていることはない。温泉に行った。友達と焼き肉に行った。新年のあいさつ。近くの銭湯がもう少しで潰れる。特に思い出の場所だとポストしてあった。
その銭湯は家のお風呂が壊れた時に母と行った銭湯で、なぜか銭湯の前に吾郷がいた。寒気がする。
インターフォンが鳴った。彼氏かしら、鍵を忘れて行ったと連絡が無かったけど。
扉を開けても誰もいない。子どもが押したのかな。
下を見ると一枚の紙片が落ちていた。
「いつも見てくれてありがとう。僕も君を見ているよ。銭湯一緒に行こうよ」
喉の奥から出た悲鳴。誰が来たのか分かる。どこから知ったのか、先輩なわけはない。盗聴器を仕掛ける人をいれた覚えがない。ポストを見たのか。それともアイツも匿名アカウントで見ているのか。
帰宅した彼氏と相談して、しばらくは早く帰って来てもらうとした。
吾郷の影はちらつく。買い物も彼氏と行くことが増えた。気配を感じて何度も振り返る。警察にはいたずらだろうと言われたが、私からしたらストーカーだ。
彼氏の知り合いの探偵に動いてもらった。
報告に私は眉をひそめた。
吾郷は結婚して、遠い地方にいる。ポストした時、吾郷は北海道にいた。関西の銭湯の情報を仕入れても、あの紙片を置いた時は出張で旭川にいたらしい。
私は内なる敵を見つけた。
犯人は複数の可能性、生活を知っている。
私は定期演奏会の参加を辞めて、彼氏の実家で暮らしている。




