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第2話 遠征試験と、暴走する加護

魔導学園セレスティアでは、年に一度、勇者候補生たちによる遠征試験が行われる。

 目的は、実戦を通して加護の制御を学ぶこと。

 だが、生徒の中にはすでに自らの力を“神の証”として誇示する者も多かった。


 リオン・グレイスもその一行に同行していた。

 補助員として。

 彼の役目は、戦うことではない。戦う者たちを、ただ支えるだけ。


「おい、無印。補給物資の確認をしておけ」

「はい」


 答えながら、リオンは荷車の奥に積まれた触媒石を整える。

 その手つきは慣れていた。

 何度も訓練を見てきた。何度も、壊れた魔法陣を修復してきた。

 けれど、彼自身がその中で目立つことは決してなかった。


 夕刻。

 一行は学園から南へ三十キロ、魔獣の巣食う《オルデン森林》の入口へ到着した。

 森の中は霧が深く、木々の間には魔力の瘴気が漂っている。


「……妙だな。魔力の流れが濁ってる」

 セリア・アルフェンが眉をひそめた。

 光の加護を受けた彼女の感覚が、何かの“異常”を告げている。


「試験は予定通り続行する!」

 炎の加護を持つアルトが前に出る。

 リオンの視線が、わずかに彼の背を追った。


 ……流れが、不安定だ。

 彼の中で何かがざわめいた。

 まるで、見えない波が世界の奥から押し寄せてくるような感覚。


 その時だった。


 ――グォオオオオォォッ!!


 木々をなぎ倒して、黒い狼の群れが現れた。

 魔獣ダークハウンド

 通常の個体よりも大きく、目が赤く濁っている。


「来た! 炎よ、我が剣に宿れッ!」

 アルトが詠唱を放つ。

 瞬間、彼の剣が灼熱の炎を纏った。

 しかし次の刹那、その炎は制御を失い、周囲の木々へと燃え移った。


「なっ……!? なぜだ、止まらねぇっ!」

「加護が暴走してる!?」

「距離を取れ、全員退避!」


 候補生たちが混乱の中で散り散りに逃げる。

 炎の奔流が森を焼き尽くし、空を赤く染めていく。


 リオンはその中心に立っていた。

 燃えさかる炎を前に、ただ静かに目を閉じる。


「……また、乱れてる」


 彼の声は風に溶け、次の瞬間——

 全ての音が消えた。


 炎の爆ぜる音も、叫び声も、何もかも。

 世界が“無”に包まれる。

 燃え広がる炎が、音もなく掻き消えていく。


 ただ、静寂だけが残った。


「……リオン?」

 セリアが呆然と彼を見つめる。

 周囲の生徒たちは膝をつき、震えていた。


 誰も理解できなかった。

 神の加護を受けぬ者が、神の炎を打ち消したことを。


「君は、いったい……何者なの?」

「……ただの補助員ですよ」


 リオンはそう答え、背を向けた。

 だが、彼の掌にはまだ微かに、冷たい“空白”の力が残っていた。


 その夜。

 遠征地から戻った一行を、学園長は険しい表情で迎えた。

 机の上には、古びた石碑の記録が広げられている。


『十の加護が揺らぐ時、無の神が目覚める。』


 ——神々の物語が、静かに動き始めていた。

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