序章 神々は語る 十と一
世界が揺らぐ時、神々は集う。
無限の虚空、その中心に十一の光が浮かんでいた。
十柱の神は世界の理を司る。
炎、水、風、土、光、闇、雷、氷、命、そして時。
それぞれが世界を形づくり、人の運命を導く存在。
だが、その輪の少し外に、もうひとつの光があった。
微かに揺らぐ、形を持たぬ光。
「また選定の刻が訪れたか」
炎の神イグナスが声を上げる。
「この時代の人間どもも、我らの加護を求めている」
「ならば与えよう。新たな勇者たちを」
十柱の神々は、地上を見下ろし、輝く魂を選び取っていった。
「炎の加護を授けよう。アルト・ヴァーレン」
「氷の理を悟る者、リュシア・フォルド」
「雷の奔流を制する少年、カイ・ベルドン」
「光の慈悲を持つ者、セリア・アルフェン」
神々の声が連なり、十の加護が地上に降り注いだ。
新たな時代の英雄たちが誕生する。
しかし、輪の外にいた“ひとつの光”は、静かにそれを見つめていた。
「またお前は何もせぬのか、“無の神”よ」
「我は選ばぬ。加護も、運命も与えぬ。ただ、見届けるのみ」
炎の神が鼻で笑った。
「お前の沈黙は無意味だ。選ばれぬ者に価値などない」
無の神は何も答えない。
ただ、地上の片隅にいる小さな魂を見つめていた。
名は——リオン・グレイス。
「あの魂は?」
「記録から除外せよ。どの加護にも属さぬ“無印”だ」
「ならば、神々の名簿には不要だな」
十の光が背を向け、静寂が訪れる。
無の神だけが、ひとり呟いた。
「選ばれぬことも、また“選ばれし運命”である」
その声は、虚空の闇に溶けていった。
やがて——神々が見落としたその魂が、
世界の物語を、神々の手から奪い取ることになる。




