第30話:『神の座』、最後の決戦
オプティマスから告げられた最後の目的地、『神の座』へ向かうリオスたち。そこは、エーテルニアという巨大なシステムの、心臓部とも呼べる場所だった。周囲を漂うのは、システムの根幹を成す、純粋なデータ粒子。それは、かつてリオスが「記憶の庭」で見た、プログラムの光とは全く違う、圧倒的な存在感と静謐さを放っていた。
「ここが…システムの心臓部…」
ミオが、息をのんで呟いた。その場の空気は張り詰め、彼らの存在が、この巨大なシステムにとって、どれほど些細なものかを思い知らされる。
リオスの右腕の「異晶」が、強く鼓動を打つ。ルクスと一体になったことで、彼はこの場所が持つ意味を本能的に理解していた。ここを破壊し、再構築することで、エーテルニアは、そして現実世界は、救われる。しかし、その代償として、彼ら自身の存在が消滅する可能性もある。
「みんな…」
リオスは、決意の表情で仲間たちを見つめた。
「怖くない、と言えば嘘になる。俺だって、消えるのは怖い。でも…俺たちがこの旅で築き上げてきたものは、消えない。俺たちが、この世界で生きた証は…消えないんだ!」
リオスの言葉に、ミオ、ソラ、アデルは、力強く頷いた。
「ああ、そうだ。俺たちが、この旅で得たものは、この世界で生きた『証』そのものだ!」
ミオは、双剣を強く握りしめた。
「リオス君と、みんなと、一緒に生きてきたこの時間が、僕の全てだ。それが、未来へと繋がるなら…僕は怖くない!」
ソラの瞳が、強く輝く。
「この世界のシステムを解析し、この旅で得たデータ…すべてを未来へと託す。それが、僕の使命だ」
アデルは、冷静な口調で、しかし揺るぎない決意を語った。
その時、『神の座』の中心から、巨大な光の柱が立ち上がった。それは、エーテルニアのシステムを構成する、最も純粋なデータそのもの。そして、その光の柱の中に、一人の人物が立っていた。それは、勇者ゼロだった。
「…ゼロ…!」
リオスは、思わず叫んだ。しかし、ゼロの身体は半透明で、その表情は、彼が記憶の中で見た熱血漢のそれとは全く違っていた。彼は、深く悲しみ、そして疲労困憊の表情を浮かべていた。
「…よく来たな、未来の光よ」
ゼロは、虚ろな目でリオスを見つめた。
「私は…この世界の真実を知りすぎた。そして、この絶望に、打ち勝つことができなかった…」
ゼロの言葉は、リオスの心を深く抉る。彼は、人類を救うためにこの世界に残ったが、現実は、彼の想像をはるかに超える絶望に満ちていた。現実世界の「深淵の粒子」は、彼の肉体を蝕み、この世界のシステムにまで干渉しようとしていたのだ。ゼロは、人類を救うために、自らの意識をこのシステムの根源に固定し、最後の砦として戦っていたのだ。
「私は、最後の力を使い、この世界のシステムを再起動しようとした。しかし、私の力だけでは、システムを再構築することはできなかった…」
ゼロは、絶望的な声で語る。
「…私の『想い』は、この絶望を打ち破るには、あまりにも弱すぎた…」
ゼロの瞳から、一筋の光の涙がこぼれ落ちた。彼は、孤独な戦いの中で、自分の『信念』が揺らいでいくのを感じていたのだ。
「違う!ゼロ!お前の想いは、俺が受け継いだ!そして、俺には…仲間がいる!」
リオスは、力強く叫んだ。彼の右腕の「異晶」が、再び強く輝き始める。それは、ゼロの『想い』と、ルクスの『希望』、そして仲間たちとの『絆』が一つになった、究極の光だった。
「俺は、お前が諦めた希望を、証明してみせる!俺たちが、この世界で生きた『証』を…未来へと繋ぐんだ!」
リオスの叫びに呼応するように、ミオ、ソラ、アデルも、それぞれの力をリオスへと集中させる。
「行け、リオス…!それが、俺たちの、最後の希望だ!」
ゼロは、最後の力を振り絞り、リオスに語りかけた。
リオスは、仲間たちの力を受け止め、大剣を強く握りしめた。彼の剣は、もはや単なる武器ではない。それは、ゼロの『想い』、ルクスの『希望』、そして仲間たちとの『絆』が一つになった、『未来を切り開く剣』だった。
リオスは、その剣を『神の座』へと振り下ろした。
その一撃は、世界の根源を貫き、壮大な光を放った。
それは、世界の終焉を告げる光か。
それとも、新たな世界の始まりを告げる光か。
物語は、クライマックスへと向かう。