第18話:『覚醒の異晶』、その輝き
ルシアンから送られた、光を放つ『招待状』を手に、リオスたちは廃墟の荒野を進んでいた。荒涼とした大地には、錆びついた鉄骨や崩壊した巨大なデータサーバーが、墓標のように立ち並んでいる。
「アデル、この結晶、本当に信用できるのか?」ミオが、リオスの隣で警戒を怠らず、周囲を睨む。
「…解析結果によれば、世界の根幹データである『アーカーシャ・クロニクル』と同期している。信じるに足るデータだ」アデルは、冷静に答える。
その言葉を信じ、一行は結晶が指し示す方角へと歩みを進めた。しかし、進むにつれて荒野のノイズは激しさを増し、世界を構成するピクセルが乱れ、奇妙な幻影が視界をよぎる。
その時、地面から轟音と共に、巨大なグリッチが噴出した。グリッチが収束した場所に現れたのは、これまでにない異質な存在だった。
それは、数多の金属片とノイズが渦巻く、巨大な龍のような姿をしている。その全身からは、システムの制御を逸脱した不協和音が絶え間なく放出されており、ミオの剣も、ソラの魔法も、その身体に触れることすら叶わない。
「なんてことだ…!これまでのノイズモンスターとは次元が違う!」ミオの剣が、龍の身体に弾かれる。
「システムが、僕たちの攻撃を認識してくれません…!」ソラの放った魔法も、虚しく空間に溶けて消えた。
リオスの「剣術熟練度ERROR」の力も通用しない。龍のグリッチに剣を振るうたび、刀身が激しく振動し、リオスの手から力が吸い取られるように感じた。
「リオス…この個体は、世界の法則から逸脱しています。通常の攻撃ではデータを破壊できません」
ルクスの冷静な声が響く。彼女の瞳に映る龍は、もはやこの世界の存在ではなく、根源的な「エラー」そのものだった。
「クソッ…!」
仲間たちが次々と窮地に陥る。ミオは吹き飛ばされ、ソラは魔力切れを起こし、アデルは解析不能なデータノイズに苦しんでいる。
その光景が、リオスの心を激しく揺さぶった。
(俺の力は、この程度のものなのか…?ゼロが、俺に託したものは、こんなに脆いものなのか…?)
絶望が、脳裏をよぎる。しかし、次の瞬間、リオスの脳裏に、かつてオプティマスから告げられたルシアンの言葉が蘇った。
『貴様のような『バグ』が、この世界にどれほどの希望をもたらせるのか…』
そうだ、俺はバグだ。世界の理に反する、歪んだ存在。だが、それこそが、この世界を救う唯一の可能性なのだ。
リオスは、手の中の『招待状』である結晶を、強く握りしめた。
「招待状だと言うなら、見せてもらおうか…ルシアン!」
その言葉が、引き金になった。
結晶が、眩い光を放ち始める。その光は、リオスの右腕に宿る「異晶」と共鳴し、リオスの全身を駆け巡った。
『UNKNOWN DATA…ACCESS GRANTED』
意識が、光に包まれる。膨大な情報が、リオスの脳内に流れ込んできた。それは、太古の戦闘の記憶。剣を構える一人の男の姿…勇者ゼロだ。
ゼロは、世界の理すら断ち切るかのような、規格外の剣技を繰り出していた。
「…これが…!」
リオスの剣術熟練度ERRORが、そのゼロの剣技を、一時的に「再現」し始めた。
「ハァアアアアア!!」
リオスの放った一撃が、龍のグリッチを真正面から貫く。それは、これまでの攻撃とは全く違う、世界の法則を無視した一撃だった。
龍の身体が、内部から崩壊していく。グリッチが砕け散り、ノイズの渦が霧散した。
最後に残ったのは、静寂と、その場に立ち尽くすリオスの姿だけだった。彼の右腕に宿る異晶は、これまで以上に強く、そして力強く輝いていた。
ノイズモンスターは消滅したが、戦いは終わっていなかった。
リオスが手にした『記憶結晶』は、その役目を終えたかのように、音もなく砕け散る。だが、その破片から、ルシアンが目指す「終焉の地」の場所を示す、新たなデータがリオスの脳内に直接流れ込んでくる。
「…これが、ルシアンからのメッセージ…」
リオスは、静かに呟いた。
新たな力を手に入れたリオスは、ルシアンとの直接対決へと続く、最後の旅路の一歩を踏み出した。