第17話:『仲間との再会』、そして『招待状』
転送サークルを抜けたリオスとルクスは、見慣れない森の奥に降り立った。
「…ここが、エーテルニアか」
ルクスの言葉に、リオスは改めて周囲を見渡す。そこには、先ほどまでいた、プログラムが星のように輝く非物理的な空間とはかけ離れた、土と緑の匂いがする現実の世界があった。
リオスは胸に手を当て、安堵の息を吐く。
(…無事に戻ってこれた。みんなは、どこに…)
その時だった。森の奥から、駆け寄ってくる三つの人影があった。
「リオス!無事だったのね!」
ミオの声だ。その隣には、ソラとアデルの姿もあった。彼らは、リオスを心配し、捜し回っていたのだ。
「リオス!無事だったのね!」ミオが安堵の表情でリオスに抱きついた。「…でも、その子は?」
ミオが視線を向けた先には、リオスの隣に立つ、銀髪の少女、ルクスがいた。彼女の髪は、特定の単一の色ではなく、内側から淡く光を帯びたような、幻想的な色合いをしていた。透き通るような白を基調としながら、ごく微かに淡い青やミントグリーンの光が揺らめいているように見える。アデルとソラも、見慣れない彼女に警戒の色を浮かべている。
「リオス。そちらの方は?」アデルが理知的な声で問いかける。
「ああ、この子はルクスだ。俺の、パートナーだ」リオスは、仲間たちにルクスを紹介した。「ルクス、みんなに会えてよかったな」
リオスの言葉に、ルクスは感情のない表情のまま、少しだけ頭を下げた。
仲間たちの温かい声に、リオスは胸がいっぱいになった。改めて、この絆こそが、偽りの世界で戦う自分の力なのだと実感する。そして、彼は、オプティマスから告げられた真実を語る決意を固めた。
「…話したいことがあるんだ。この世界のこと、そして『闇を視る者』のことだ」
場所を移し、リオスは、オプティマスから告げられたルシアンの真の目的――人類を「真の絶望」へと導くことが彼なりの「救済」だと考えている、という衝撃的な事実を仲間たちに語った。最初は信じられないといった様子の仲間たちだったが、リオスの熱意のこもった言葉に、彼らの表情に決意の色が灯る。
「…真の絶望、だなんて。そんなの、絶対に許せない!」ミオが怒りを滲ませて言った。
「僕たちの生きてるこの世界を、勝手に終わらせるなんて…そんなこと、させません!」ソラも、震えながらも強い口調で言った。
「ああ。例えそれが、誰かの考える『救済』だとしても、俺たちの生きているこの世界を、勝手に終わらせるなんて、許せるはずがない」リオスは、強く頷いた。
仲間たちの言葉に、リオスの心は再び満たされた。ルクスは、そんな彼らの絆を静かに見つめながら、自身の瞳に映るデータに、リオスが持つ「希望」のアルゴリズムが、さらに強く輝いていることを確認していた。
「ルシアンの手がかりを探す必要があるな」アデルが思考を整理するように言った。「彼の活動は、世界の『歪み』が強い場所で活発になる傾向がある。最も可能性が高いのは、西部の『廃墟の荒野と境界領域』だ」
「ああ、その場所なら私も知っているよ」ミオが真剣な顔で言った。「最近、その地域に『闇を視る者』が現れたって、ギルドの噂になってたんだ」
目的地が決まった。一行は、ルシアンが待つ、危険な西部へと足を踏み入れた。
廃墟の荒野は、その名の通り、荒廃した大地がどこまでも広がる場所だった。乾いた風が吹き荒れ、錆びた金属の残骸や、システムが生成したであろう謎の構造物が、無数のノイズを放っている。この場所が、システムの不完全な部分であると、肌で感じ取ることができた。
その時、一行の目の前の空間が、まるでバグが走ったかのように、大きく歪んだ。視界に一瞬だけ、ノイズ混じりのシステムメッセージが表示される。
『UNKNOWN DATA ERROR』
そして、歪んだ空間から、一人の男が現れた。彼は、システムを意図的に操作する能力を持つ《システム・ブレイカー》であり、「闇を視る者」の一員だと名乗る。
「…ようこそ、『希望の光』よ」
男は、嘲笑うかのような不敵な笑みを浮かべ、リオスにこう告げた。
「ルシアン様からの伝言だ。貴様のような『バグ』が、この世界にどれほどの希望をもたらせるのか、試してみたいそうだ」
男は、手の中の光る結晶をリオスたちに示し、挑発的に言った。
「これは、ルシアン様が貴様のために用意した『招待状』だ。この奥にある、『アーカーシャの記憶結晶』を探し出すというクエスト。これは、貴様が持つ『異晶』の能力でしかクリアできないように仕組まれている。さあ、どうする? 招待を受けるか?それとも、尻尾を巻いて逃げ帰るか?」
リオスは、これがルシアンの罠である可能性が高いと直感した。しかし、この機会を逃せば、ルシアンの真意にたどり着くことはできないかもしれない。仲間たちはリオスを心配し、固唾をのんで見守っていた。
リオスは、男の挑発に臆することなく、まっすぐと彼を見据えた。
「俺は、ゼロの続きをやる。ルシアンが何者であれ、俺は、この世界の真実を確かめる。その招待、受けさせてもらう」
リオスの強い決意を聞くと、男は満足そうに口角を上げた。
「…ふん、良い返事だ。ならば、健闘を祈る」
男は、リオスたちの手の中にある結晶に力を込めると、再び空間を歪ませ、姿を消した。残されたリオスたちの手には、先ほどよりも強く光を放つ、奇妙な結晶が握られていた。
旅は、新たな局面を迎える。ルシアンが仕掛けた罠と、アーカーシャ・クロニクルに隠された記憶の真実が、リオスを待っている。