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第13話:レムナント大陸、旅の始まり

鏡の力で、虚空のデータ砂漠にレムナント大陸へと繋がる「データパス」が出現した。虹色に揺らめく不安定な光の道を、リオスは必死に駆けていく。胸の奥には、鏡が映し出した、遠く離れた仲間たちの「絆の光」。それは、絶望の淵に突き落とされた彼にとって、唯一の希望だった。

「このパスは、一時的なものだ。急げ」

ルクスは、リオスとは対照的に、冷静にパスの安定性を観測している。その表情に、感情の揺らぎは一切ない。二人の間にある、埋めがたい距離が、この空間の異質さを際立たせていた。リオスは、彼女がなぜ自分に協力するのか、その真意を未だ掴めずにいた。彼女の言葉はいつも論理的で、感情の欠片もない。まるで、自分自身がこの世界のシステムの一部であるかのように。

パスを抜け、リオスたちの足が新たな大地を踏みしめた瞬間、彼の視界に、帝都グリムヴァルトとは全く異なる光景が広がった。

古びた遺跡が点在する、鬱蒼とした森。降り注ぐ木漏れ日、さえずる鳥の声。その全てが、まるで生きているかのようにリオスの五感に訴えかけてくる。帝都の人工的な美しさとは違う、根源的な生命の鼓動が、この世界には満ちている。しかし、時折空に走るノイズの光が、この場所が完全な現実ではないことを示唆していた。

「ここが……レムナント大陸」

ルクスの言葉で、リオスは改めてこの場所が、仲間たちへと続く道標であることを再認識する。絶望的なデータの海を越え、ようやくたどり着いた新世界。しかし、仲間たちの姿はどこにもない。再び襲いかかる孤独感に、リオスは唇を噛みしめた。彼は、アデルの頼もしい笑顔、ミオの明るい笑い声、そして、ソラの無邪気な声を聞きたくてたまらなかった。あの時の自分に、仲間たちの手を決して離すなと、何度叫びたいと思ったことか。

手がかりを求めて、鬱蒼とした森を抜け、二人は一軒の村にたどり着いた。しかし、村には人の声がなく、まるで時間が止まったかのように静かだ。村人たちはそこにいるが、表情がなく、ただ虚ろな目で一点を見つめている。彼らの瞳には、何の色も映っていなかった。生きているようには見えるが、まるで精巧な人形のようだ。

「……何だ、これは」

リオスは、村の異様な雰囲気に息をのんだ。ヴァイスとの戦いでは見たことのない、静かで不気味な光景だった。彼は、人々の心そのものが壊れてしまったかのような錯覚に陥った。

「この村は、ノイズに侵食されている」

ルクスは、淡々と告げた。

「彼らは、システムの歪みによって感情を失い、この場に固定されてしまっている。彼らの意識は、生きたまま世界から切り離されている状態だ」

リオスは、感情を失った村人たちの姿に、ヴァイスが言っていた「ノイズ」という言葉を思い出す。それは、世界の秩序を乱す存在として排除すべき敵だと教えられてきた。だが、目の前にいるのは、彼らと同じようにこの世界に生きる人々だ。彼らを敵として切り捨てることなど、リオスにはできなかった。彼は、ただ仲間を探すだけでなく、この世界の歪みを正し、人々を救うという使命感を強く抱く。

その時、村の近くにそびえ立つ「賢者の塔」が、不気味な光を放ち始めた。塔の頂上から立ち上る黒いノイズの渦が、この村の異変の原因であることを雄弁に物語っている。塔全体が、まるで巨大なノイズの塊のように見えた。その存在感は、リオスの心を重く圧迫した。

ルクスは、リオスの持つ異晶に視線を向け、再び口を開いた。

「この大陸の鍵《絆を紡ぐ糸車》の封印を解くには、賢者の塔のシステムにアクセスする必要がある。そして、この塔のシステムを正常に戻すことが、村人たちの失われた感情を取り戻す、唯一の方法でもある」

リオスは、固く拳を握りしめた。彼の心の中で、仲間たちとの楽しかった記憶が、鮮明に蘇ってくる。笑い声、怒り、悲しみ、そして、共に戦った喜び。それらの感情が、今、目の前にいる村人たちから失われているのだ。仲間たちもまた、どこかで同じような苦しみに直面しているのかもしれない。そう思うと、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。

「俺は、必ず賢者の塔を攻略する。村人たちの感情を取り戻してやる。そして……」

リオスは、胸に手を当て、心の奥で輝く絆の光を感じた。

「みんなとの、絆を取り戻してやる!」

リオスは、ルクスと共に賢者の塔を目指すことを決意する。彼の心には、決して途切れることのない「絆」が、たしかに繋がっていた。そして、ルクスは、初めてリオスの言葉に、システムでは定義できない『希望』という不確かな可能性を観測するのだった。

 

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