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第12話:虚空の砂漠にて、最初の鍵

ヴァイスの消滅が引き起こしたデータの奔流に飲み込まれたリオスが、次に意識を取り戻したのは、荒涼とした大地の上だった。

辺りには、瓦礫一つない。地平線の彼方まで広がるのは、砂漠……ではない。無数のプログラムコードが、砂のようにさらさらと流れ続けている「データの海」だった。空には、まるで星のようにきらめくデータが奔流となって渦巻き、不気味な輝きを放っている。

「……アデル!ミオ!ソラ!」

リオスは、最後に見た光景を思い出し、叫んだ。彼は、仲間たちと別れた帝都グリムヴァルトがあった場所へと戻ろうと、力の限り走り出す。

「無駄だ」

リオスの横に立つルクスが、感情のない声で呟く。その表情は、この異質な空間を当然のものとして受け入れているかのようだった。

「お前が最後にいた帝都グリムヴァルトは、システムの中心核を失い、崩壊している。そして、お前たちが飲まれたデータの奔流は、お前たちを無作為にこの世界のどこかへと転送した。仲間を探すために帝都に戻るという選択肢は、最早存在しない」

ルクスの言葉は、リオスを突き放す。彼は足を止め、胸の奥に燻る喪失感と、仲間を探す場所すら失ってしまったという絶望に苛まれる。

「じゃあ……どうすればいいんだ?このままじゃ、俺は……」

「そのようにシステムが乱れた状態では、仲間たちの痕跡を辿ることはできない。だが、方法がないわけではない」

ルクスは、リオスの持つ「異晶」に視線を向けた。

「お前の異晶と共鳴する『世界の鍵』だけが、この世界の歪みの中でも、唯一安定した道標となる。鍵を見つけ、この空間を安定させることが、仲間たちのいる場所へと続く道を示す。お前は、この孤独な旅路を、『仲間を探すための唯一の手段』として進むべきだ」

ルクスの言葉は、リオスを孤独な旅へと導く、冷たい現実だった。しかし、同時に、それは失われた希望を再び灯す光でもあった。リオスは、仲間たちと再会するための、唯一の手がかりを見出したのだ。

彼は胸の奥に渦巻く感情を抑え込み、ルクスの後を追う。


旅を始めて数時間、二人の前に、空から不気味な黒い光が降り注ぎ始めた。それは、ヴァイスとの戦いの最中に帝都で目撃した「深淵の粒子カオス・ダスト」と酷似している。粒子が地上に落ちると、周囲のデータを吸収し、これまで遭遇したノイズ・アブソープションとは一線を画す、より生物的で禍々しい姿へと変質していく。

「これは……ノイズ・アブソープションじゃない。まさか、現実世界の魔物……?」

リオスが驚きに声を漏らすと、ルクスが冷静な声で説明した。

「違う。これは、世界の歪みが現実と仮想の境界を曖昧にしている証拠。現実世界の『深淵の粒子』が、エーテルニアのシステムに干渉し具現化した、新たなノイズ・アブソープションだ。これまでの個体よりも、はるかに危険だ」

その言葉通り、変質したノイズ・アブソープションは、リオスの剣術を容易く見切り、ルクスへと襲いかかった。リオスは、自分の力が暴走し、何かを破壊してしまうことを恐れ、攻撃をためらってしまう。

「リオス!ためらうな!」

ルクスの声が響く。彼女は冷静に身をかわしながら、リオスに訴えかける。

「その力は、破壊するためだけにあるのではない!お前の『異晶』は、世界の真実を読み解く鍵だ!私がお前の力を安定させる、お前は全力で切り開け!」

ルクスの言葉を信じ、リオスは剣を構える。彼女は『観測者』の力で、リオスの暴走しがちな力を一時的に安定させ、ノイズ・アブソープションの弱点をリオスに提示した。

「行くぞ、ルクス!」

「…………」

ルクスは何も言わなかったが、その瞳は確かにリオスを見つめていた。

リオスは、ためらいを捨て、全力を開放した。彼の剣術が、ルクスが提示した弱点を正確に貫き、二人の連携によって、変質したノイズ・アブソープションは、光の粒子となって消えていく。

戦闘後、リオスの「異晶」の力が、データ砂漠の中に埋もれていた、勇者ゼロが残したメッセージと共鳴した。

空間が歪み、古代の遺跡の幻影が姿を現す。その最深部には、勇者ゼロのメッセージが刻まれた石碑があった。リオスはメッセージから、ログアウトに必要な「世界の鍵」が3つあること、そして最初の鍵がこの場所に隠されていることを知る。

メッセージを読み終えたルクスは、リオスに何かを問いたげな視線を向ける。それは、彼が勇者ゼロと同じ「希望」を持っていることを再確認した、複雑な感情の現れだった。

遺跡の奥深くで、リオスとルクスは《真実を映す鏡》を発見する。鏡は、エーテルニアの住民が見ている「虚構」の姿ではなく、「真実の姿」を映し出す不思議なアイテムだった。


鏡を手に入れたことで、リオスとルクスはデータ砂漠のシステムを一時的に安定させ、ついに脱出に成功した。

「……これが、真実……?」

リオスが鏡を覗き込むと、彼の視界に、彼自身の記憶にはないはずの映像が断片的に流れ込む。

燃え盛る空、崩壊する都市、強大な魔物に蹂躙され、絶望的な表情を浮かべる人々の姿──それは、人類がエーテルニアに精神を隔離される直前の、現実世界の最後の光景だった。

しかし、その絶望的な映像の片隅に、三つの小さな光が揺れているのが見える。それは、帝都で離ればなれになった仲間たちの、かすかな絆の光だった。

リオスは、この映像が「過去の人類が経験した絶望」であることを本能的に理解する。その映像は、彼の心を深く侵食し、胸を締め付ける。

ルクスは、そんなリオスの横顔を静かに見つめ、告白するように語り始めた。

「それは、人類がエーテルニアへ精神を隔離される直前の『現実の記憶』。システムが人類の魂に刻んだ『警告』だ。そして、あの光……それが、お前の『絆』だ。奴らはまだ、この世界のどこかに存在している」

リオスは、自分たちが安穏と暮らしていた世界の裏に、このような悲劇があったことを知り、言葉を失う。だが、仲間が生きているという確かな光が、彼の胸に希望を灯した。

「……この旅は、俺たちだけのためじゃないんだな」

リオスは、鏡に映る絶望の記憶を直視し、新たな決意を固める。

「俺は…逃げない。この力は、世界を壊すためじゃない。みんなの、そしてあの人たちの希望になるためにあるんだ…!」

鏡から得た情報とルクスの知識から、次に必要な鍵《絆を紡ぐ糸車》が「レムナント大陸」に隠されていることが示唆された。

リオスは、仲間との再会という個人的な目的から、現実世界への帰還という壮大な使命を帯び、ルクスと共に新たな旅へと出発するのだった。

 

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