第95章 ― 英雄の目覚め(えいゆう の めざめ)
街は「灰の世界」のヴェールに包まれて、眠っていた。
沈黙に包まれた通り、点滅する照明、空虚な顔つきの人々…。
テオ王国の市民たちは、無限ループに囚われた人形のように、囁くような声で繰り返し同じ言葉を話しながら歩いていた。
その光景は、完璧すぎて不気味なほど人工的だった。
だが、その支配の霧の中を、ひとつのチームが迷いなく進んでいた。
リーフィ、緑髪のアンドロイドが先頭に立ち、
その隣を、水色に輝くサイバーアーマーを纏ったアズが並ぶ。
アズの動きに合わせ、スーツは静かに光を放った。
アン、アイオ、そしてウェンディも共に歩いていた。
ウェンディはリュウガから受け取った特製の武器を手にしていた。
その武器は、霊的エネルギーと共鳴するよう調整されていた。
「…一般市民の姿はなし」
アズがビジョンを確認しながらつぶやく。
「この区域はクリアだけど、長くはもたないわ。」
「この王の支配者は、どこにいるのかしら…」
ウェンディが静かに言った。
「私たちは、彼らに使われていた…
記憶の中に、何か手がかりがあるかもしれない。」
アンの声は冷静で大人びていた。
リーフィが頷く。
だが、その直後、空気の流れが一変した。
待ち伏せ――!
「危ない!」
アズが叫ぶと同時に、雫のようなバリアを展開。
空からエネルギーの刃が降り注ぎ、路地という路地から兵器化された兵士たちが出現。
アンは即座に、リュウガから教わった魔法を展開。
足元に金色の魔法陣が浮かび、転移魔法が発動した。
「しっかりつかまって!」
だが転移先にも罠が待っていた――
ウェンディは即座に反応し、武器を構えて叫ぶ。
「遮蔽に入って!」
リーフィが前に出て、盾で敵の攻撃を受け止める。
その時――
遠くの通りに、一人の男性がフラフラと歩いてくるのが見えた。
「灰の世界」の影響を受け、無表情のまま、銃弾の交差する地帯へ向かっていた。
「誰かいるわ! 交差点に入っちゃう!」
ウェンディが叫ぶ。
「危険よ! 行かせるわけには――!」
リーフィが止めようとする。
だが、ウェンディはすでに駆け出していた。
防御を捨てて、男のもとへ向かう。
――ズドン!
敵の銃弾が、ウェンディの脚を貫く。
「ママぁぁ!!」
アンの絶叫が響く。
「リーフィ、シールド最大展開!」
アズが命じ、バリアを追加展開。
激痛に耐えながら、ウェンディは止まらなかった。
その目には揺るぎない信念の炎が宿っていた。
「…誰一人、もう死なせない。
例え操られていても…人は人よ!
私は母親として…守る者として、止まらない!」
アンの瞳に涙が溢れる。
「…ママ…私、あなたみたいになりたい!」
敵の銃口が男に向けられる。
だが、ウェンディは負傷した足で跳躍し、魔法の光に包まれた。
胸元から放たれる、眩い光――まるで暁のごとく。
その瞬間、奇跡が起きた。
空から、白と赤のスーツ、金のプレートを纏ったウェンディが舞い降りた。
それは彼女の新たな姿――レスキューモード。
手にしていたのは、機能複合型の武器:
《レスキュー・シフト・モードガン》。
「――プロトコル保護、起動!」
次々と放たれる銃弾を避け、正確に敵を無力化していく。
「今よ! ラインを押し戻して!」
ウェンディの指示に、アンも参戦。
アンの髪が光を帯び、盾のように仲間を守る。
アイオは肉体強化魔法を発動し、拳で敵を粉砕していく。
「…増援よ!」
アイオが叫ぶ。
「――爆裂バブル!」
アズが魔力の泡を放つ。
アイオがその泡を蹴り、両側で爆発!
増援部隊を一掃。
「――メガモード、起動!」
ウェンディのスーツが紫に染まり、バイザー付きヘルメットが現れる。
腕から、光剣が展開。
「――ライザーモード!」
拳が音波共鳴の武器に変形。
リーフィも加勢。ウェンディとの連携は、まるで長年の戦友のよう。
「アズ、拘束フィールド! アイオ、集中魔法、準備!」
アズが巨大な魔力球体で敵を閉じ込め、アイオがその中で魔法をチャージ。
「――今よ、ウェンディ!」
ウェンディがその球体を斬り裂き、蓄積されたエネルギーがミサイルの雨となって飛び散る。
「アン、バリア!」
アンの黄金の髪が展開し、光の盾となって仲間を守る。
――沈黙が戦場を包んだ。
ウェンディは、呼吸を整えながらゆっくりと武器を下ろした。
そのスーツが、やさしく輝いていた。
アンは感動で涙を浮かべながら言った。
「ママ……すごかった…」
ウェンディは照れながら目を伏せた。
「……こういう服、慣れてないの。でも……あなたたちのためなら、何度だって着るわ。」
その頃、別地点で戦っていたリュウガの通信端末が震えた。
[警告:覚醒確認]
《ウェンディ ― 第一次救助ユニット》
彼は静かに、しかし確かに微笑んだ。
「……よくやったな。」