第91章 ― 一か八かの誓い(ちかい)
朝の光が、ミラクル・サンクタムにゆっくりと差し込み始めていた。
地中に隠された場所であるにもかかわらず、その空間には何かが変わったという“気”が満ちていた。
リュウガは、これまで以上に確かな意志をもって早朝に起き、思考を整理し、全員を召集した。
人間、アンドロイド、メイドたち、そしてスティルや数体のセンチネルロボットまでもが、巨大な円形会議ホールに集まっていた。そこには浮遊スクリーンと機械仕掛けの可動通路が設置されていた。
ヴェルは無言で戦闘用グローブを調整し、リシアは腕を組んで険しい表情を浮かべていた。クロは半分眠ったまま欠伸をし、セレステはカグヤの隣にしっかりと立っていた。アン、アイオ、ウェンディは三人並んで腰掛け、その顔には真剣さと決意が浮かんでいた。リーフィとサフィ、そしてパールの姿もあった。
プレティウムは腕を組み、静かにリュウガを見つめていた。
リュウガは一歩前に出た。
その存在感だけで、場の空気が引き締まった。
「皆を集めたのは…もう後戻りができないからだ。」
彼の声は明瞭で、迷いは一切なかった。
「これから来る戦いは…簡単じゃない。テオ王国はすでに、ここに我々がいることを察知している。まだ発見はされていないが、それも時間の問題だ。」
緊張が会場を包む。
「やつらは我々を排除しようとしている。
それは、我々が過去に何をしたからではなく――
我々が“何を象徴しているか”が理由だ。
我々は“希望”だ。
腐敗した体制の中に灯る火花。
そしてその火花が燃え広がれば…やつらの闇を焼き尽くすだろう。」
カグヤは静かにうなずき、ヴェルは不敵な笑みを浮かべる。
「だが、これは俺ひとりでは成し遂げられない。」
リュウガの声に力がこもる。
「どれだけ強くあろうと、どれだけ望もうと…俺一人では不可能だ。本気で世界を変えるには、“全員”の力が必要なんだ。
だからこそ…これは『一か八か』の戦いだ。
進めば、もう引き返せない。」
彼はプレティウムを見つめ、まっすぐに言った。
「…君が必要だ、プレティウム。
決して屈せず、正義のためなら手を汚すことも恐れない人間が。
俺を叱咤し、俺の背を守ってくれる人間が。」
プレティウムは目を細め、冷静な声で答えた。
「俺は“同盟”でここにいるわけじゃない。俺は“信念”で動いている。
もし貴様が本気で…あのクソどもを終わらせるつもりなら――
俺の剣、俺の力、俺の怒りは、お前のものだ。」
リュウガは、深くうなずいた。
「…ありがとう。」
そして彼は皆を見渡した。
「セレステ――
君はもう、居場所を探すだけの存在じゃない。
君は“導く者”になった。
誰かに証明する必要はない。ただ、自分らしくあればいい。」
セレステは小さく笑いながら答えた。
「じゃあ…100%出すね。あなたのためにも、それ以上でも。」
「ヴェル、カグヤ、リシア――
君たちは、俺の力であり、剣であり、盾だ。何も言わなくても分かってる。」
「当然でしょ!」
ヴェルが拳を叩きつけながら叫ぶ。
「誰だと思ってんの?」
「私は全部あなたのものよ、リュウガ♪」
リシアが色っぽく笑う。
「最後まで共にある。」
カグヤはただそれだけを、真っ直ぐな声で言った。
リュウガは、アン、アイオ、ウェンディの方へ目を向けた。
「君たちは…想像を絶するものを経験してきた。テオの影に囚われていた。
それでも、今ここにいる。自由な意思を持ち、声を上げることができる。
だからこそ――
その“声”を、“叫び”に変えてほしい。」
アンが手を高く掲げて言った。
「じゃあ、叫んでやろうじゃない! あたしたちのためにも、みんなのためにも!」
アイオは目を輝かせながらうなずいた。
「私…助けたいの。あんな目にもう誰も遭ってほしくない。私の知識と記憶で…救いたい。」
ウェンディは、娘の手を握りながら静かに言った。
「もう逃げないわ。今度は、戦う。
娘たちの明日のために…まだ怯えている人たちのために。」
アンドロイドたちも反応した。
「サフィと私は、すでに決めているの。」
リーフィの声は穏やかだったが、意志は揺るがなかった。
「この場所、この物語を…繰り返させはしない。」
「私たちは助手なんかじゃない。」
サフィが続けた。
「守護者よ。共に戦うわ。」
そして、スティルも機械的な声で答えた。
「支援コマンド確立。目標:正義の防衛。」
全員が揃った。心はひとつ。
リュウガは、最後に声を張り上げた。
「じゃあ、動くぞ!
隠れてる時は終わった!
今こそ、行動の時だ!
テオの支配を――根底から揺るがす!!」
その瞬間、エネルギーが場を満たした。
誰もが拳を上げ、歓声を上げた。
決意の笑顔が交わされ、かつて“バラバラ”だった集団は、いまやひとつの――
心を持つ軍隊 となった。
そしてリュウガは、
すべてか、何もかの未来へ――
その第一歩を踏み出した。
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