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第84章 ― 紫の閃光(むらさきのせんこう)

ミラージュ・サンクタムの静けさは永遠のようだった。

人工自然と機械の調和が織りなすその静寂は、

まるで何者にも乱されることのない完璧な楽園のように見えた。


しかし――

その夜、脆く作られた幻想がついに裂けた。


ひとつの音が空気を裂いた。

**「パシィ」**という電流のような鋭い音。

それは主回廊のひとつを貫いた。


「……今の、聞こえた?」


読書室で本をめくっていたヴェルが顔を上げる。

隣にいたリシアも緊張を見せた。


クロは、黙ってうなずいた。


その瞬間、警報は鳴らなかったが――

全てのライトがわずかに瞬いた。


まるでシステムが、何かの侵入を抑え込もうとしているようだった。


サンクタムの中心部、空中庭園の近く。

誰にも感知されることなく、その姿は現れた。


その存在は――

優雅にして威圧的。


夜のヴェールのような紫の長髪が、肩から流れ落ち、

フクシア色の瞳が人工の光を受けて妖しく輝いた。


黒と金属のラインが走る、ぴたりとしたスーツ。

一歩進むたびに、まるで建物そのものが反応しているかのような低い残響音が響いた。


唇が、嘲るように歪む。


「ふふん…ずいぶんと、哀れな集まりね」


その声は、絹のように滑らかでありながら、鋭く切り裂く冷気を孕んでいた。


全員が即座に振り返る。

最初に反応したのはリーフィーだった。


「……あなたは、ここに入れるはずがない。

クリスタル。あなたにサンクタムへのアクセス権限はないはずよ」


来訪者――クリスタルは片眉を上げ、挑発的に笑った。


「許可?フン、聞き飽きた。

私は許可を得に来たわけじゃない。

ここに来た理由は、あんたたちとは関係ないことよ」


足音に導かれるように、ライガが現れる。


彼の視線は、鋭くクリスタルを捉えていた。

その気配、歩き方、視線――どれも正常ではなかった。


「……お前は人間じゃない」

ライガは静かに言う。

「けれど、完全な機械でもないようだな」


クリスタルは、彼を一瞥し、軽く鼻で笑った。


「余計なお世話よ、小僧。私はお前のために来たわけじゃない」


「だがここに来た以上――俺の問題でもある」

ライガの声は冷たく、だが鋼のようにまっすぐだった。

「この場所で暴力は許されない。それがここのルールだ」


リーフィーが前に出て、手を広げる。


「クリスタル……まだ戻れる。

戦いのための場所じゃない。ここは、誰もが癒されるために――」


だが、彼女は首を横に振った。


「……私は対話しに来たわけじゃないの」


その瞬間――


彼女の右腕が変形した。


花が開くように、皮膚がめくれ、

中からは赤い光を帯びたランス状の武装が現れた。


リーフィーが凍りつく。


「やめなさい、クリスタル――!」


「お前に止められると思ってるの?」


「……なら、出ていけ」


ライガの声が低く響いた。


次の瞬間。


“音が消えた”。


ライガの姿が、一瞬で視界から消える。


クリスタルが反応する間もなく――

ライガの拳が彼女の腹部に突き刺さる。


彼女の体は吹き飛び、

サンクタムの入口の一部に激突した。


構造体が軋む。


「――あ、ありえない…!」


カグヤが呆然と立ち上がる。


「たった一撃で……!?」


リシアが息を呑む。


ウェンディは即座にアンとアイオを抱き、壁の裏へと退避。

プレティウムは、じっとライガの背を見つめた。


「……あの少年は、もう以前のライガじゃないな」


ゆっくりと立ち上がるクリスタル。

口元からは、小さな光の火花が漏れていた。


「へぇ……いい力。気に入ったわ」


ライガは前に出る。

彼のオーラが、風を巻き起こし、上着がはためいた。


「ここは“戦場”じゃない。

誰かを傷つけに来たのなら、今すぐ出て行け」


だが、紫の女は笑った。


「なら見せてみなさい、ライガ。

なぜ皆が、あなたに惹かれるのか――

その**本気マジ**を」


そして、空気が凍った。


戦いが始まる。


人と機械の境界を越えた二人。

存在そのものが交錯する、静寂の破壊者たち。


サンクタムに流れる平穏は、

再び――引き裂かれた。

挿絵(By みてみん)

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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