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第76章 – テオ王国の残響(テオおうこくのざんきょう)

霧の絶え間なく流れる山々の奥――

テオ王国の最深部。

静かに脈打つ力の中心が、沈黙のまま眠っていた。


装飾も紋章もない石の玉座。

冷え切った広間の中央に据えられ、かすかな魔力の結晶たちが天井から淡く照らしていた。


その玉座に腰掛けるのは、剛直な威厳をまとった男。

軍服調の黒マントに身を包み、表情のない金属製の仮面が、その顔を覆っていた。


それは魂の割れた鏡のように冷たく――ただ沈黙を映していた。


目の前にひざまずくのは、ひとりの自律兵士オートマトン


「――最優先報告」

無機質な声が響く。


「ゴーレム部隊、壊滅。戦術部隊、無力化。

外部からの干渉を確認。森林にて戦闘クラスの対象を二名確認。

高等技術と未分類兵装の痕跡あり。

外部勢力による介入の可能性――高」


男は返答しなかった。

まるで彫像のように、動かず、沈黙していた。


――だが、次の瞬間。


静かに立ち上がる。


その影は、細くも圧倒的で、空間を締めつけるような圧を放った。


男は片腕を伸ばし――

兵士の首を、引きちぎった。


自律兵士の身体が、金属音を立てて崩れ落ちる。


「……容認できん」


その声は、遠雷のような残響を持っていた。


男は空中にホログラム式の操作盤を呼び出す。


無数の映像が浮かび上がる。

ライガ、セレステ、カグヤ、アイオ、アン、ヴェル、リシア、メグミ、ウェンディ――

すべての顔が、鮮明に映る。


「……ついに、揃ったか」


そして、拳を握り締める。


「――ならば、始めよう」


その時、闇の中からフードをかぶった影が現れる。


「エコー9計画、起動いたしますか?」


男は首を振った。


「まだだ。……まずは、奴らの“目的”を知る」


その声は氷のような残響を伴っていた。


「全区域、最大監視。

正面からは当たるな。

観察せよ。解析せよ。

そして――“執行”せよ」


ガレオン・ゴウシン 夜明け前

空を滑る巨大な翼のごとく、ガレオン・ゴウシンは静かに飛行していた。

その進路の先には、未知と謎に包まれたテオ王国の地があった。


操縦デッキに立つライガは、遠くの地平線を見つめていた。

その視線は、霧の向こうに何かを“感じていた”。


隣で、プリティウムが拳を握る。


「……あの土地は気に入らん」


「誰も気に入ってない」

ライガは視線を外さずに応える。

「――だが、向かう」


一方、エオンは黙したまま。

その肩には、長い記憶の重みが乗っていた。


休憩室

柔らかい椅子に座るウェンディは、温かいティーカップを両手で包んでいた。

香り立つチェリーティーの湯気が、彼女の視界に霞をかける。


隣では、アンが彼女の腕に頭を乗せていた。


「ママ……本当に危ない場所に行くの?」


ウェンディは微笑み、娘の髪を撫でる。


「そうよ、アン。……でも、あなたはひとりじゃない」


「ママも、でしょ?」


「ええ」

ウェンディは、少しだけ笑って頷く。


「勇敢な娘が、ママを守ってくれるからね。……アクセルに足届かないけど」


アンはほっぺをふくらませた。


「それは車が大きいからでしょ! 私のせいじゃないもん!」


「でもね、小さなアン――」

ウェンディは娘の鼻を優しくつまむ。

「あなたの心は……世界でいちばん大きいわ」


アンは、母の目をまっすぐ見つめる。


「ママ……ママも昔、子供だったの?」


ウェンディは一瞬目を見開き、やがて懐かしさのこもった微笑みを返す。


「もちろんよ。宇宙船や機械を夢見てた女の子だったわ。

……そして、家族を持つのも夢だった」


彼女は娘を抱きしめる。


「いま、最高の家族がいる」


アンはぎゅっと抱き返し、胸に顔をうずめる。


「ずっと一緒にいてね」


ウェンディは目を閉じる。


「約束するわ、愛してる。……空の果てまで」


それは、戦いとも脅威とも無縁の、

母と娘だけの永遠の瞬間だった。


操縦室

ライガは航行データを調整し、進路を確認。


「降下ポイントまでの予測時間は?」


通信パネルに現れるクーロのホログラム。


「残り時間:3時間12分。現在の速度は最適。

ステルスレベル:88%」


その隣、クッキーをもぐもぐしていたアイオが手を挙げる。


「テオに……アイスってあるかな?」


戻ってきたウェンディが眉を上げる。


「アイスの可能性:低。狂った兵器の可能性:高」


プリティウムは舌打ち。


「ちょうどいいタイミングで、最悪だな」


ライガは皆を振り返る。


「――全員、聞け。

テオは“普通”の場所じゃない。

古い嘘、操作、記憶の改竄。

そこにあるのは、真実と欺瞞の交差点。

……俺たちがそこへ行く理由は、一つ」


その言葉の続きを、誰も口に出さなかった。


だが、全員が理解していた。


そこに、答えがある。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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