第75章 – 限界のその先へ(げんかいのそのさきへ)
朝日が昇り、澄んだ青空の下で黄金の光がガレオン・ゴウシンの天蓋ドームを通り抜け、訓練甲板に差し込んでいた。
船の後部にあるこの訓練スペースは、浮遊するプラットフォームのように開かれており、感応式の光壁と触れるだけで反応するパネルに囲まれている。
だが今日は、武器はない。
敵もいない。
あるのは――スポーツウェアのみ。
そして、個性豊かな仲間たちが、それぞれ自分らしい服装で集まっていた。
セレステは一番乗りで登場。
白いライクラ素材に青真珠のアクセントが入った、袖なしの上品なスポーツウェア。高く結ばれたポニーテールが、彼女に気品と力強さを与えていた。
「これ……本当に動きやすいの?」
彼女はトップの裾を引っ張りながら呟いた。
続いて現れたのはカグヤ。
黒のショート丈シャツと柔らかい忍装束風のパンツ。腕には包帯、足は裸足。
「フルアーマーで戦えるんだから、これくらい朝飯前でしょ」
皮肉めいた笑みを浮かべていた。
リシアは藤色の上下、花模様の意匠。ショーツはやや長めで、細い手袋は舞踏用のようにも見えた。
「てっきり今日はヨガかと……」
穏やかに言った。
ウェンディはまるで学術研究所の人間のような出で立ち。
ゴウシンのロゴ入り白シャツ、ふくらはぎまでのパンツ、そして5分ごとに直すスポーツメガネ。
「これ、本当にマナの物理解析に役立つの……?」
メグミは実用的なグレーのスウェットにコンプレッションパンツ。手には水筒。表情は半分楽しみ、半分諦め。
「昨日みたいに汗だくにならないといいけど……」
ヴェルはノースリーブのバーガンディシャツ、ボクシンググローブ、カーゴ風パンツという戦闘モード。
「さあ、燃えてきたよ。準備運動の段階でアドレナリン出てる!」
アンとアイオは、例によってセットで登場。
アニメから飛び出したようなカラフルなスポーツウェア。
アンはピンクに金のライン、足元は羽模様の白スニーカー。
アイオは赤のショート丈シャツに銀の星、黒ショートパンツに意味のないが「かっこいい」布ベルト付き。
「スター級の輝きで運動するわよ〜!」
アンが両手を上げる。
「いち・に・さん、魔法ウォームアップ〜!」
アイオは脚を上げようとして、すってんころり。
「いたっ!」
一同、爆笑。
壁にもたれていたプリティウムですら、あきれたようにため息をついた。
「これは……サーカスか?」
「いや――チームの構築過程だ」
ゆっくりと近づいてきたのは、ライガ。
黒のシンプルなシャツに、濃灰の厚手パンツ。肩にタオル。
武器もマントもなく、ただその“存在”だけが支配力を放っていた。
「今日は、身体と心を鍛える。武器も、魔法も使わない。
――自分自身と向き合う、訓練だ」
隊列に並ぶ皆。
セレステは腕を組み、カグヤは挑戦的な笑み、アイオはアンにちょっかいを出し、ウェンディはノートにカリカリ記録。
しかしライガは輪に入らない。
代わりに中央の石に静かに座り、目を閉じた。
「ライガ?」
メグミが問いかける。
「指導しないの?」
「まず……思い出す必要がある」
そして彼は目を閉じ――
記憶の中
幼き日の訓練場。
なめらかな石。流れる小川。
静かに座る祖父の姿。木板の上、ただ座っているだけなのに――その存在だけで空気が張り詰めていた。
「肉体は重荷の映し。心は橋。魂は燃料だ。
真に三つをそろえた者だけが――目覚める。**“フォース・ヌクレオ”**を」
教えられない。学べない。
ただ“目覚める”力。
「それは内から生まれるもの。外の力じゃない。
胸の奥にある根っこ……それが、力の本質だ」
繰り返し失敗する幼いライガ。汗だく。倒れ。息切れ。
「無理に掴むな……ただ、“出す”んだ」
現在
ライガは静かに息を吐いた。
「祖父は言っていた。フォース・ヌクレオは、人の限界を超える最も近い力。
だが、それを得る者は……ほんの一握りだ」
「ライガは……それに成功したの?」
アイオがそっと問いかける。
「いや」
立ち上がる。
「今日は、挑戦してみる。
でもこれは、俺だけじゃない。
みんなにも、その可能性がある。
力じゃない。**調和**が必要なんだ」
訓練開始
・走る
・呼吸法
・瞑想
・ストレッチ
・感覚の連携
ヴェルは持久訓練を先導し、
カグヤは獣のような動きの回避術を教え、
セレステは深呼吸と内観を導き、
アイオとアンは――「変身ダンス」という名の有酸素運動。
各自が自分の“得意”を分け合い、成長し合う。
そして、終わりが近づいたころ――
ライガは座り続けたまま、全ての雑音を遮断していた。
祖父の声が再び、脳裏に響く。
「静けさだ……忍耐だ……何より、忍耐だぞ、ライガ」
「忍耐? そんなので何も変わらない!」
「湖の水面が波打っていれば、底は見えない。
だが待てば、水は澄み、真実が見える。
心を制す者こそ、全てを制す」
その頃――
一方でプリティウムは、影の中で二刀を振るい、無言で訓練していた。
その一閃一閃が、彼の心に残る怒りと過去を切り裂くようだった。
「……平和なんていらん。ただ……結果だ」
目覚め
静かだった世界に、何かが「響いた」。
ライガの胸――心臓とは違う“何か”が、
鼓動した。
「ズン……ズン……ズン……」
透明な波動が彼から広がり、目に見えぬ輪を描いた。
「感じた?」
セレステが眉をひそめる。
カグヤがゆっくりと目を開け、
メグミが視線を上げ、
リシアが手を止め、
ウェンディの測定器がピリピリと反応し――
「これは……通常の魔力じゃないわ」
アイオは葉っぱで遊んでいたが、みんなの様子に首をかしげた。
ライガは動かない。
でもその体から、何かが変わった。
脈動。
呼吸。
細胞の奥でうごめく、“それ”。
それは、力ではなかった。
意志だった。
内側から立ち上がる、小さな火。
それが――フォース・ヌクレオ。
「それは力じゃない。
……それは、“真実”だ」
ライガはゆっくりと立ち上がる。
「今のは……何かが、確かに来た」
両手を見つめながら呟いた。
セレステがそっと寄る。
「大丈夫?」
「……ああ。まだ制御はできない。
けど……目覚めた。確かに、そこにあると感じたんだ」
カグヤが近くの岩に腰かけながら言う。
「新しい力?」
「いや」
ライガは静かに否定した。
「古い力だ。ずっと……内にあったもの。
今ようやく、それに気づけただけだ」
ウェンディは爆速でノートを取りながら、
「これ……原始的エネルギー源の顕現……すごいわ……!」
リシアが微笑み、
「第一歩を踏み出したわけね」
ライガは、拳を握りしめた。
「まだ何も分かってない。けど……
その一歩こそが、未来を変える一歩になる」
ガレオン・ゴウシンの旗が、静かに風に揺れていた。
プリティウムは壁にもたれたまま、冷たく言った。
「……その“第一歩”で、転ぶやつは多い」
ライガは微笑む。
「静けさだ……忍耐だ……」
「不可能なんてない。
意志と決意、そして――自分を信じる心さえあれば」
彼はまだ“完成”していなかった。
だが、歩き始めた。
そしてそれこそが、すべての始まりだった。
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