表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/324

第74章 – 過去の影、未来の光(かこのかげ、みらいのひかり)

夜が更け、ガレオン・ゴウシンでは、浮遊する灯りが一つ、また一つと穏やかに光を落とし、まるで静けさを理解した蛍のように眠りの合図を送っていた。


上層デッキ。セレステは静かに星々を見上げていた。

月のように白い髪が背にふわりと流れ、その瞳には疑念だけでなく――決意の炎が宿っていた。


背後から足音。イーオンが一歩踏み出し、彼女の背に声を投げた。


「……復讐を求めてはいけない」


彼女は振り向かない。風がそのマントを揺らした。


「復讐は底なしの井戸だ。底にたどり着いたと思ったときには、ただ闇が待っている。

……私はそれを、身をもって知っている」


セレステは目を閉じたまま、静かに言った。


「じゃあ、愛する者を殺され、幼少期を奪われ、笑いながら消えていった相手に、どうすればいいの?」


イーオンは沈黙した。


彼女は振り返り、まっすぐに彼を見つめた。


「私は、正義を求めてるんじゃない。赦しを求めてもいない。

ただ……答えが欲しいの。

その過程で、彼と向き合う必要があるのなら――私は、恐れない」


イーオンはその瞳の強さに、誇らしさと悲しみの両方を感じていた。


「ならば、一つだけ頼む」

そう言って、彼は一歩近づいた。

「もし心が闇に飲まれそうになったら――自分が誰か、思い出してくれ。

……君は一人じゃない」


セレステはゆっくりとうなずいた。

星は静かにまたたいていた。


翌朝 – 食堂

朝、食堂には焼きたてのパン、温かいフルーツ、そして薬草茶の香りが広がっていた。

大きなテーブルを囲み、みんなが揃っていた。


その前に立ち、ライガが声を上げた。


「みんな、聞いてくれ。今日は……ある重要なことについて話す」


一同が静まり返る。

アンとアイオは互いに視線を交わし、何かを予感していた。


ライガはテーブル横の投影装置に手をかざし、ホログラムが浮かび上がる。

そこには、テオ王国の境界線で発見されたアンとアイオの姿――奇妙な服装、不自然な言動、そして不安定なエネルギー。


「初めて君たちに会ったとき……君たちは“君たち自身”ではなかった」

ライガは彼女たちに向けて静かに言った。

「まるで……何かの“役割”を演じているようだった」


「ヒロイン役……だったもんね」

アンが照れたように笑う。


「そう。しかも、君たちだけじゃない」

ライガはウェンディに視線を向けた。

「君も一時期……“誰かの思考”に影響を受けていたようだった」


ウェンディはゆっくりうなずく。


「最初は気づかなかったけど……思考がどこか“塗られている”感覚があったの」


「そして、これらはすべて――テオ王国の周辺で起きたことだ。

偶然とは思えない。あの国には……秘密がある」


奥でプリティウムが腕を組む。


「つまり、お前はこの大陸でもっとも閉ざされた王国へ、壊れかけた記憶を頼りに進もうとしてるのか?」


ライガは真っすぐに見返した。


「記憶だけじゃない。

痕跡だ。彼女たちが持つ“この世界に属さない何か”……その足跡を、俺は見てきた」


食堂に沈黙が広がる。


その時、アイオが口を開く。


「ライガ……少しだけ、二人きりで話せる?」


ライガはうなずき、二人はそっと席を立った。


ガレオン・ゴウシン内 私室

ライガは魔導タブレットを起動し、一枚の風景を空間投影した。


富士山――雪を被った堂々たる山の姿と、麓に咲き乱れる桜。


アイオの瞳が見開かれる。


「……これ……富士山!? ここ……私、行ったことある!」


ライガは静かにうなずく。


「やっぱりな。

……君はこの世界の人間じゃないんだろ?」


アイオは黙ってうなずいた。


「私は……**日本にほん**から来た」


「どうやって……?」


アイオは少し笑みを浮かべながら、懐かしそうに語り始めた。


「学校に行く途中だったの。駅の近くを走ってて……空が突然、割れた。

鏡みたいに。

胸に何かが引っ張られる感覚があって……次の瞬間、真っ白になった。

目覚めたら……ここにいた。

記憶も何もなくて……名前すら曖昧だった」


ライガは腕を組み、彼女の話を黙って聞いていた。


「覚えてる? 君たちが最初に現れたとき……“変身”していた。

まるで演じてるようだった。ヒロインのように」


アイオは微笑みながら、目を輝かせる。


「もちろん覚えてるよ!

だって……**魔法少女まほうしょうじょ**が大好きだったから!」


ライガは思わず小さく笑った。


「昔から?」


「うん、ずっと!

可愛い衣装、光るステッキ、決めゼリフ……全部が夢だった。

それが“現実”になった時、私はもう……自分が主人公だと思った」


ライガは彼女の頭に手を乗せた。


「君のその想いを、誰かが利用したんだ。

その“夢”を枠にして、君を閉じ込めた」


アイオはうつむく。


「でも……もう、私は閉じ込められてない。

今はここにいる。アンもいる。みんなも。……そしてあなたも」


彼女は微笑んだ。子どものように、でも強く。


「私、また変身できる日が来たら……

もう誰かに決められた“役”じゃなくて、自分の意志でヒロインになる。

自分のために」


ライガはうなずき、その髪をやさしく撫でた。


「その時が来たら、俺がそばにいる。

もう、誰にも君を操らせはしない」


アイオの目に涙が浮かんだ。


「ほんとに……?」


「約束する。君が“魔法少女”だからじゃない。

君が俺たちの“家族”だからだ」


そして、富士山を映した空間の下――

同じ世界から来た二人の心が、ようやく一つの場所にたどり着いた。


生まれた場所ではなく、

**受け入れられる場所こそが――“本当の家”**なのだと。

読んでくれて、ありがとう。


……本当に、ありがとう。


評価ポイントも、コメントも、ブクマも……

欲しいとか、強くは言えません。


でも。


もし、ほんの少しでも「良かった」と思ってくれたなら——


その小さな気持ちを、☆にしてくれたら嬉しいです。


この物語を、もっと多くの人に届けるために。

静かに、でも確かに、願っています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ