第71章 – 星の記憶(メモリアス・ステラリス)
煙は晴れ、
森の生き物たちの声が少しずつ戻り始めていた。
まるで世界そのものが、再び呼吸を始めたかのように。
その静寂の中、セレステはゆっくりと目を開けた。
「……ここは……どこ……?」
彼女は即席の毛布の上に寝かされていた。
周囲には心配そうな顔が並ぶ。
リュウガがひざまずいて彼女の手を握り、
ウェンディ、メグミ、アイオ、アン、カグヤが見守っていた。
「セレステ!」
リュウガが声を上げた。
「大丈夫か!?」
セレステはゆっくりと起き上がる。
息はまだ荒いが、その目には痛みはなく、ただ困惑と――何か別のものが宿っていた。
「うん……大丈夫……」
かすれた声でそう答えた。
「どうして倒れたのか……わからない……」
その時、イーオンとリエルが近づいてきた。
歩みは慎重だが、落ち着いている。
イーオンは手袋をしたまま、威厳を保ちながら立っていた。
「君は……記憶を見たんだ。大切な記憶をな」
セレステは彼の目を見た。
その瞬間、心の奥で何かが風に舞う葉のように揺れた。
「……あなたの顔……声……
子どもの頃に見た気がする……私たちを守ってくれた姿……」
イーオンは微笑んだ。
「そうだ。私はそこにいた。
君はまだほんの幼子だったが……私にははっきり覚えている」
「以前から知ってたってことか?」
リュウガが問いかける。
イーオンはうなずいた。
「そうだ。だが――まずは正式に自己紹介をしよう」
彼は一歩前へ出て、胸に手を当てて、礼儀正しく一礼した。
「私はイーオン。**星位騎士**の一人。
聖星帝国に仕える者だ」
リエルもそれに倣い、横に並ぶ。
「そして私はタルミオン・リエル。イーオン様の弟子であり、
同じく星の騎士団に所属しています。
ただし、最近は独自に行動していましたが……」
その場に沈黙が走る。
「聖星帝国」という言葉が、空気に重く響いた。
セレステは視線を落とし、服をぎゅっと胸元で握った。
「その名前……夢の中で聞いた気がする……。
けど……口に出したことはなかったのに……」
イーオンは優しく微笑む。
「本当の記憶は消えない。ただ――眠っているだけだ」
リュウガはあたりを見渡し、警戒心を取り戻す。
「ここじゃ落ち着かない。
……場所を移そう」
そう言って彼は手を掲げた。
すると、転移魔法陣が足元に現れ、青白い光が全員を包み込む。
リエルが驚いて飛びのいた。
「なっ、何だこれは!? 詠唱なしでこの規模の転移魔法だと!?!?」
イーオンも眉をわずかに上げ、感心したように言う。
「……興味深い。この少年、想像以上に秘めているな」
光が瞬時に全員を包み――
一瞬後、彼らはガレオン・ゴウシンの中央ナビゲーションホールに転移していた。
温かな照明、清潔な金属の床、浮遊する制御用の魔晶。
魔法と技術が融合した空間。
「ここは……本部か?」
リエルが目を見開く。
「それ以上のものさ」
リュウガが横目で笑う。
「俺たちの動く家だ」
だが、次の瞬間、空気が張り詰める。
上階の通路にプレティウムが現れたのだ。
腕を組み、鋭い視線を投げる。
「……何が起きている?
そいつらは誰だ?」
彼はイーオンを見るやいなや、即座に防御バリアを展開した。
「お前……その鎧、歩き方……間違いない。
星の騎士団か。
帝国の密偵か? まさか我々を――」
リエルは緊張し、前に出た。
「違う! 我々も襲撃された側だ! 敵じゃない!」
リュウガが手を上げて制止した。
「プレティウム、落ち着け。
礼を尽くして名乗ったんだ。構えるな」
「甘いな、リュウガ。
戦争の火種は、いつも礼儀の仮面を被って現れる」
場が張り詰めていく。
その時――
静かで、けれど芯のある声が響いた。
「お願い。もうやめて」
アイオだった。
彼女はプレティウムの前に立ち、真っすぐにその瞳を見つめた。
「ここでまた争うのは……いやだ。
もう、今日は充分でしょ……?」
場が静まり返る。
プレティウムは彼女を見つめ――
そして、ゆっくりとバリアを下ろした。
「……お前が言うなら、従う」
カグヤが眉をひそめた。
「あなたが感情で動くなんて……意外ね」
プレティウムは鼻で笑い、腕を組み直した。
「後悔させるなよ」
その瞬間――
グゥゥゥゥゥ~~~
みんなの視線がクロウに向く。
彼女は腹を押さえ、苦笑しながら言った。
「……ごめん。昨夜から何も食べてないの」
アンとアイオが吹き出し、
ウェンディも口元を押さえて笑った。
リュウガは腕を組み、肩の力を抜いた。
「じゃあ、まずは飯だな。
星とか帝国とか記憶の話は――そのあとだ」
仲間たちは、笑いながら食堂へと歩き出す。
その中で、セレステは一人、
パネルのガラスに映る自分の姿を見つめていた。
その顔が――今までになく、はっきりと見えた。
彼女の中で、何かが目を覚ましたのだった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!
作者はまだまだ無名ですが、いつかランキングに載って、多くの人にこの物語を届けたいと思っています。
そのために、どうか……
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