第69章(終幕)― 線を越える決断
森の奥深く――
戦闘は、まさに極限へと達していた。
地面はもはや土ではなかった。焦げた根と煙を上げるクレーター。
三者の衝突から生まれた魔力の嵐が、森の端を炎で染めていた。
エオン――忘れられし真実の守護者は、燃え上がる炎の中で突撃する。
剣を振るえば、炎が弧を描く。
クラァァンッ!
敵は旋回し、その勢いを利用して斬撃をいなす。そして、上から振り下ろされた一撃を、エオンはかろうじて防ぎながら、焦げた地に足を踏みしめて後退した。
リエルは側面から突進。
緑の閃光のように飛び上がり、空中で回転して剣を突き下ろす。
「時裂き(トキサキ)!!」
刃は空間を切り裂き、純粋なエネルギーの弧を描く。
だが――黒い閃光が走り、敵は消えた。
「――なっ……!?」
リエルが振り返ると、すでに敵は背後にいた。
ギィィンッ!
剣を交差させて間一髪で防御。だが、肩の装甲が切り裂かれ、リエルは回転しながら倒れ、倒木に叩きつけられた。
「リエル!!」
エオンが叫ぶ。
その怒りに応えるように、彼の鎧が咆哮する。
炎が唸り、剣が真紅の渦を纏う。
「真実の拳ッッ!!」
エオンの剣は、ハンマーのように横一文字に振り抜かれ、
衝撃波が森を薙ぎ払った。
ドォォォォン!!
一瞬の静寂。
煙の中から――敵が姿を現す。
コートの端が焼け落ち、左腕が震えていた。
だが、立っていた。
「……まだ倒れないのか」
リエルが息を切らしながら呟く。
「いや……今、ようやく本気を出してきた」
エオンの表情が険しくなる。
敵は両手で剣を構え、その刃は細く、長く、振動するように形を変える。
空間が歪み、空が音を失う。
そして――
ザッ!
異常な速さの斬撃。
エオンがかろうじて防御するも、10メートル後方に吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。
リエルは咄嗟に立ちふさがり、緑のバリアを展開する。
「師匠には触れさせない!!」
だが――黒剣は容易くバリアを貫通し、まるでガラスのように砕けた。
リエルは自分の剣で受け止めるも――
バキィィィン!
剣が、真っ二つに折れた。
「ぐあああっ!!」
吹き飛ばされ、大地を転がりながら土に深い溝を残す。
エオンが立ち上がろうとする。唇から血が滲む。
「……リエル! もうやめろ……これは“任務”じゃない……処刑だ」
しかし、敵は止まらない。
静かに、確実に歩を進める。木々がその歩みに屈し、暗い気配が地を覆う。
剣が、死の歌を奏でていた。
リエルは膝をつきながら歯を食いしばる。
「……ここで死んだら……誰にも伝えられない……俺たちが、何を見つけたかを……」
エオンは一瞬だけ目を伏せ、そして再び炎のような瞳で言った。
「……ならば――死なない」
彼は剣とは逆の手を広げ、全身の魔力が唸りを上げて放出された。
その瞳が完全に光で満ちる。
「――真理解放――守護核、起動!!」
金の紋章が足元に出現し、剣が閃光に包まれる。
鎧は燃える黎明のように輝き、森全体が震えた。
リエルもそれに応えるように叫ぶ。
「……真実のために、声なき者たちのために――
翠の源泉、目覚めろ!!」
彼の鎧もまた変化し、水晶のように透き通る光を纏った。
生きた結晶のように鼓動し、力を放つ。
だが――敵は、待たなかった。
一歩。
もう一歩。
そして――
その瞬間――空を裂くような音。
シュゥゥゥゥゥゥン!!
七つの光が、空から降りてきた。
七台のエンジンが咆哮し、七本の光の矢が空を切る。
ゴシン号の降下チームが、ついに到着した。
デザート・サンダー:突破口を切り裂く重装甲。
ウィンド・チェイサー:風のように舞い、月光を反射する。
モーター・ブレイザー:炎の尾を引く流星の如し。
チューン・スター:旋律のごとく森を駆ける美しき光。
赤、金、銀の三台:それぞれが特異な輝きを放ち、空から舞い降りた。
それぞれの車両内で――
リュウガ、仲間たちの目は一点を見つめていた。
アイオがモニターを覗き、叫ぶ。
「……あそこ! 誰かが殺される……!!」
リュウガは、燃えるような瞳で通信機を握りしめる。
「全車両に告ぐ――
即時支援体制に入れ! ここで……彼らを死なせはしない!!」