第67章 ― 線を越える決断
ゴシン号の管制室に映し出された映像は、鮮明で――そして不穏だった。
付近の森は単なる小競り合いの舞台ではなかった。いくつかの地点で同様の活動が確認されていた。戦闘の痕跡、戦術的な動き、そして機械兵による包囲が、複数の“人物”を狙っていた。
「これは普通の奇襲じゃない」
リュウガは眉をひそめながら、戦術マップを見つめて言った。
「無差別攻撃じゃない。包囲された集団がいくつもある。狙いが明確だ」
クロが画像を拡大しながら頷いた。
「少なくとも三か所で、あの灰色のコートを着た部隊が孤立した個人を包囲してる。……最初から特定の“標的”を追っていたのかも」
その時、扉が勢いよく開き、アンとアイオがウェンディと共に駆け込んできた。
「廊下まで聞こえたよ!」
アンが叫ぶ。
「何かあったの!?」
アイオはすぐにスクリーンに目を向けた。
「人がいる!囲まれてる!助けに行かなくちゃ!」
「アイオ……」
セレステが抑えようとしたが、アイオは強い光を宿した瞳で遮った。
「助けられるのに、助けないなんて……そんなの、私たちらしくない!誰だって、命は大切でしょ!」
その場が静まり返った。聞こえるのは、少女の荒い呼吸だけ。
プレティウムが、いつもの冷たい声で言う。
「我々には関係ない。テオでの任務だけで十分だ。他国の問題に首を突っ込むべきではない」
だが、アイオは彼をじっと見つめ、声を震わせながら叫んだ。
「……じゃあ、私たちは何のために強くなったの?ただ見捨てるため?あなたが動かないならそれでいい。でも私は行く!」
その言葉に、プレティウムですら一瞬言葉を失った。
リュウガは小さく笑い、皆に視線を向ける。
「……行くぞ。俺は賛成だ」
セレステはすぐに頷く。
「もちろん。私は見ていられない」
カグヤも一歩前に出て、微笑みを浮かべる。
「少しは剣も振るいたいしね。最近なまってたし」
ヴェルは手袋を締め直しながら言った。
「その顔……もう決めてたわね、アイオが言った瞬間から」
リシアは弓を持ち上げる。
「正義のために戦うの、大好きなの。今回は文句なし」
メガミも深く息を吸ってから、力強く頷いた。
「……私も、黙ってなんかいられない」
リュウガはメインパネルに向き直り、指示を出す。
「システム、降下準備。最も近い戦闘区域へルートを指定」
「計算中……目標地点までの距離:3.8キロメートル。
推奨高度:600メートル。
降下プラットフォームへのアクセスを開放します」
「全員、プラットフォームへ!急げ!」
◆ 降下プラットフォーム ― 数分後
扉が開かれ、夜の冷たい空気がなだれ込んできた。下方には、月明かりに照らされた密林が広がっている。
そこに並ぶは、異世界の乗り物たち――
デザート・サンダー:重厚で装甲の厚い車両
ウィンド・チェイサー:ピンク色で流線型、俊敏なマシン
モーター・ブレイザー:荒々しく唸るエンジンを積んだ猛獣
チューン・スター:音楽モチーフの光る優雅な車両
そしてさらに3台:
赤のスポーツタイプ、鋭く獰猛なデザイン
金色の高級感ある車両、まばゆい光沢
銀色の細身のマシン、まるで槍のような形状
ウェンディは目を見開いた。
「この車……どこから来たの?」
カグヤが得意げに微笑んだ。
「異世界のものよ。この世界には存在しない。でも一度乗れば……わかるわ」
ウェンディは驚きと感動を隠せず、ただ呟いた。
「まるで夢みたい……」
リュウガはまだ入り口にいたプレティウムに声をかける。
「来るか? それともゴシンの留守番か?」
プレティウムは長いため息をついて言った。
「……ここに残る。空からの動きも見ておく必要がある」
「了解」
リュウガは頷き、皆に声をかけた。
「乗れ!配置につけ!」
ヴェルはデザート・サンダーへ。砲台を調整し始める。
セレステはウィンド・チェイサーに乗り込み、プリズム制御盤を確認。
リシアとメガミはチューン・スターに同乗し、追跡装置と支援魔法の準備をする。
カグヤは金色の車の運転席に座り、鋭い目つきで前を見据える。
リュウガは赤いマシンへ。マントをなびかせながら座席へ収まった。
一方、アンとアイオはモーター・ブレイザーの前で困っていた。
「ど、どうやって運転するの!?」
アンが叫ぶ。
「座席に届かないよ~!」
アイオが必死にペダルを踏もうとする。
その時、通信機からリュウガの声が響く。
「大丈夫だ、2人とも。言ってみて。“ターボパワー、自動モード”って」
「ターボパワー……?」
アンが聞き返す。
「自動モード……?」
アイオが真似をする。
「ターボパワー! 自動モード!!」
二人が叫ぶと――
モーター・ブレイザーが轟音と共に起動した!
ダッシュボードが光り、座席が自動で調整され、操縦がAIガイドモードに切り替わった。
「やったぁ!!」
アンが歓喜の声を上げる。
「動いたよ!ホントに動いた!」
アイオが笑顔で叫んだ。
「30秒後に降下開始」
「29……28……」
全員がシートベルトを締め、姿勢を整える。
「15……14……」
ウェンディは深呼吸し、鼓動の音を感じていた。
「8……7……6……」
リュウガは一瞬だけ目を閉じる。アイオの言葉、その決意――それが彼の背中を押していた。
「3……2……1……」
「降下開始!」
次々と車両が降下プラットフォームから飛び出す。
エネルギーレールを走りながら、光のしぶきを上げて地上へ向かって加速する。
下では、大地が震えていた。炎が燃え上がる。
そして――七台の異界の機械が轟音と共に突入する。
これは、ただの介入ではない。
――戦の幕開けだった。