第6章 影と審判の舞踏
月の下――罪は数えられる。
仮面は剥がれ、
影は舞い踊る。
そして裁きは――剣のように振り下ろされる。
リュウガは、コルヴスの前にひざまずいた。
その視線は、鋼のように揺るぎなかった。
そして――
彼は、最も危険なスキルのひとつを発動した。
《眼孔 – フクロウの眼》
視覚を歪め、真実を語らせる瞳。
抗えぬ洞察。逃れられぬ審問。
「――誘拐された人々は、どうした」
声は静かだった。
だが、それを拒む術はなかった。
コルヴスの身体が震える。
その意志は、催眠のごときオーラに砕かれていく。
「……“商品”を……集めて……上層に引き渡していた……
力ある村人たちですら……分け前を求めてくる……」
リュウガの目が細くなる。
「……お前の主は、誰だ」
「……あれは……男だ……
影の中の操り人形使い……
誰一人……抗えない……」
「カグヤの両親は?」
コルヴスの唇が歪み、残酷な笑みを浮かべた。
「まだ生きている……
だが――今は“対価”の一部だ」
「もう、我慢できない――!!」
カグヤが怒りを爆発させた。
彼女の両手に炎が灯る。
今にも、コルヴスに致命の一撃を放とうとしていた。
「私の両親を――侮辱するな!!」
「カグヤ、やめてっ!」
セレステが金色の槍で間に入る。
「そんな奴に、これ以上の価値はないわ!」
リュウガが、静かに息を吐いた。
「……裁きは、すでに下された」
三人が背を向けかけたその時――
コルヴスが、ブーツから短剣を抜いた。
そして、最後の咆哮。
「リュウガァァァァ――呪ってやる!!」
カグヤとセレステが、同時に反応。
怒りと冷静が交差した――連撃。
その一撃が、コルヴスの防御を貫いた。
ドサッ。
コルヴスが地面に倒れる。
沈黙。
――そして、終わり。
闇の集会
その場所から数キロ離れた場所――
黒曜石のような漆黒の馬車が、古びた洞窟の前で静かに止まった。
その扉に刻まれた黄金の紋章が、全てを物語っていた。
黒い手
馬車から降り立ったのは、長身の男。
黒地に深紅の刺繍が施されたローブ。
ベルベットのマント。
そして――金色の仮面。
その名は――アークトゥルス。
彼の隣にいたのは、血のように赤い瞳を持つ蒼白な少女。
黒いレースのドレスをまとい、
その周囲には、人型の影がうごめいていた。
彼らの後ろには、次々と別の馬車から降りてくる――
貴族、富豪、腐敗した商人たち。
この国の裏を操る者たち。
堕ちた上流階級。
「ようこそ、同志たちよ」
アークトゥルスが声を張る。
「その忠誠は、必ず報われる。
今宵、我らは支配をさらに強固なものとする」
一人の貴族が口を開いた。
「冒険者ギルドだけが、我らの障害だ。
……壊滅させねばならぬ」
アークトゥルスは静かに微笑んだ。
「すでに“内通者”は動いている。
ギルドは――必ず崩れる」
その隣で黙っていた少女が、
初めて口を開いた。
「もし――奴らが邪魔をするのならば……」
彼女の瞳が赤く燃える。
「わたしがすべて、消し去ってあげるわ」
介入
そのとき――
洞窟の天井から、ひとつの死体が落ちてきた。
コルヴス。
貴族たちは叫び声をあげ、顔を青ざめさせて後退する。
そして、三つの影が高所から静かに降り立った。
リュウガ。カグヤ。セレステ。
月の光が、彼らの揺るがぬ表情を照らしていた。
「――どうやって入った!?」
一人の貴族が叫ぶ。
だが、アークトゥルスは静かに微笑んだ。
「ようこそ、レディ・カグヤ。
君が来ることは分かっていた」
カグヤが手を掲げる。
囚われていた人々が、闇の奥から現れる。
その中には――
彼女の両親もいた。
「救出完了だ!」リュウガが宣言する。
「アークトゥルス――今度こそ逃がさない!」
囚人たちは歓声を上げ、
自由を取り戻した涙に頬を濡らしていた。
「もう奴隷には戻らない!」
「首輪を……破壊しただと!?
そんなの……不可能だったはずだ!!」
一人の貴族が絶叫する。
リュウガは落ち着いた声で答える。
「どんなものにも、必ず“欠点”はある。
必要なのは――意志だ。」
アークトゥルスが手を上げた。
「……最後の警告だ。
人質を渡せ。さもなくば――死ぬことになる」
だが、リュウガは一歩も退かない。
「……もう決めたんだ。
今夜――俺たちは闘うと。」
最終決戦
最初に動いたのは――カグヤだった。
「私は“影の忍”――メデューサの光!
今宵、闇より貴様を斬る!!」
その一閃。
毒をまとう刃がうなり、見張りの兵士を二人、一瞬で葬った。
セレステは槍を旋回させ、三人の敵を鮮やかに打ち倒す。
「さあ――最後の幕を開けましょう!」
リュウガは、アークトゥルスへとまっすぐに向かっていく。
だがその前に――
紅い瞳の少女が立ちはだかる。
手には双剣。
「……逃げ場などないぞ」
アークトゥルスが唸る。
「気取った顔で隠れてるやつほど――一番醜い」
リュウガが剣を抜く。
「お前はただの――偽物だ」
少女が飛びかかる。
リュウガはかわし、瞬時に反撃。
「天龍の金剛拳!」
流れるような一撃――
鋭く、速く、そして炸裂。
少女は吹き飛ばされ、宙に舞う。
アークトゥルスが眉をひそめる。
「その魔法は……何だ?」
「お前を超えた力だ」
リュウガが低くつぶやく。
「龍翔・天撃!」
一瞬の閃光。
少女は倒れ、二度と動くことはなかった。
アークトゥルスが毒の短剣を放つ。
リュウガはすかさず避け、瞬間転移で背後へ。
「ゲームオーバーだ」
「絶望の牙!」
リュウガの秘奥義が炸裂。
アークトゥルスの身体が貫かれる。
彼は膝をつき、動けなくなった。
「……我こそはアークトゥルス……“黒い手”の支配者……」
「もう違う」
リュウガは砕けた首輪を掲げる。
「――その背後にいるのは誰だ?」
アークトゥルスが血を吐きながら、不気味に笑った。
「……フォルテル王国(Fortel)だ……」
その瞬間、リュウガの背中に悪寒が走る。
――幻視。
闇の城。
謎の魔導士。
頭に響く声。
「お前は……我らの“剣”となるのだ……」
「……フォルテル……思い出した」
リュウガの目が鋭くなる。
「――そこが、次の目的地だ」
解放
倒れた少女――
紅い瞳の**“あの娘”**が意識を取り戻す。
その瞳はまだ虚ろで、リュウガをじっと見つめていた。
リュウガは解析スキルを起動する。
状態:精神操作中。
首輪を破壊すれば死亡。
支配者が消滅しても死亡。
「……時間がない」
リュウガは静かに立ち上がる。
「……制御を上書きする。」
深く息を吸い、全身のマナを集中させる。
「――もう、お前は奴のものじゃない」
ひときらの光。
そして――
少女は大きく息をついた。
……自由になったのだ。
アークトゥルスが地に伏しながら、かすれる声でつぶやいた。
「……お前と俺は……同じだ……」
リュウガの目が静かに光る。
「違う。
俺は――生きるために戦っている。」
エピローグ
ひとりの老婦人が、涙を流しながらリュウガの前にひざまずいた。
「ありがとう……
私たちはこの恩を、一生忘れません……」
村人たちがリュウガを囲む。
その眼差しには、久しく失われていた希望が宿っていた。
リュウガは静かに、遠くの地平線を見つめる。
胸の奥で、ある名が燃えていた――
フォルテル王国(Fortel)
そこにこそ、真実がある。
そしてリュウガは――
その真実に辿り着くまで、決して立ち止まらないと誓った。