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第64章 ― 夜の帳の下で:心が語るとき

夜空に星がきらめく中、ゴシン号はまるで星々が織りなす静かな毛布に包まれているかのようだった。船内の魔法灯が優しく瞬き、穏やかで温かな雰囲気を作り出していた。


夕食後、ほとんどの仲間たちは休息に入り、あるいはそれぞれの作業に戻っていた。しかし、リュウガだけは眠ることができず、思索に沈みながら静かに廊下を歩いていた。


――そして彼女を見つけた。


観測室へ続く廊下の中ほど、浮遊する淡い灯りの下に立っていたのは、クロだった。彼女のシルエットは魔力結晶の青白い光に包まれ、その瞳には、いつもの鋭さとは違う、どこか脆く、そして決意に満ちた光が宿っていた。


「……クロ?」

リュウガは驚きに息を呑んだ。


彼女はゆっくりと振り返った。普段は落ち着いているその目が、今は微かに揺れていた。まるで長く堪えていた感情が、ようやくこぼれ出そうとしているかのようだった。


「少し…時間ある?」

彼女は小さな声で言った。

「二人きりで、話がしたいの」


リュウガは何も考えずに頷いた。


二人は並んで、航行用の補助室へ向かった。そこは浮遊する魔力コアによって照らされた静かで親密な空間だった。扉が閉じられ、外の世界は切り離される。残ったのは、彼らと結晶の鼓動のような柔らかな光と音だけ。


クロ――いや、メガミは、クッションの効いた長椅子の端に腰を下ろした。深く息を吸い込み、まるで長年胸に秘めていたものを、今やっと口にしようとしているようだった。


「記憶を取り戻してから、ずっと考えてたの」

「私はいったい誰なのかって。日本のアイドル、メガミ・ハヤブサ? それともこの世界で目覚めた剣士、クロ? それとも…もっと別の何か?」


リュウガは何も言わず、静かに耳を傾けていた。その視線には優しさがあり、決して彼女を急かさなかった。


「操られていたとき、私は何も覚えていなかった。でも、あなたは私を…人として扱ってくれた。ただの道具じゃなく、負担でもなく。ちゃんと…私自身として見てくれた」


彼女は胸元に手を当て、顔をわずかに紅潮させながら言葉を続けた。


「だから……気づいたの。私……リュウガのことが好き。仲間としてじゃない、リーダーとしてでもない。男としての、あなたが好き」


その声は震えていたが、確かな想いがこもっていた。


「もう隠したくない。言わなかったことを後悔したくないの」


部屋は静寂に包まれた。結晶の微かな音だけが響く中、リュウガはゆっくりと彼女の前に座り、何も言わずに両手を取り、その手をしっかりと、あたたかく包み込んだ。


「俺も…同じ気持ちだった」

「どう言えばいいかわからなかった。君の記憶が戻るまで、混乱させたくなかった。でも、日に日に確信が強くなった」


クロは顔を伏せた。瞳に涙が浮かんでいたが、それは悲しみではなかった。


「ありがとう……こんな私を受け入れてくれて。怖がって、過去もわからなかったのに」


「こちらこそ、諦めずにいてくれてありがとう。迷いながらも、笑ってくれて……戦ってくれて」


二人は同時に身体を寄せ合い、まるでその瞬間を心が待ち続けていたかのように、唇を重ねた。


それは激しさも衝動もない、ただ心からのキスだった。

言葉の代わりに、「君のそばにいるよ。もう一人じゃない」と語るような――そんな優しい口づけ。


唇を離したあと、二人の額がそっと触れ合った。クロは頬を染めながら微笑んだ。


「もっと早く言ってくれたらよかったのに。ばか……」


「君が先に言ってくれて助かったよ。君は…本当に勇気あるな」

リュウガも柔らかく笑った。


彼女はそっと彼の肩に頭を預けた。しばらく、その呼吸の音だけが響いた。


「……みんな、どう思うかな」

クロは小さく呟いた。


リュウガは小さく息を吐き、苦笑する。


「さあな。でも、一緒に向き合おう。俺はもう気持ちから逃げない」


「じゃあ……今夜はそばにいて。ただそれだけでいい」

クロは静かにそう言った。


そして、彼はそうした。


その夜、何の混乱も、約束もいらなかった。ただ、二人の魂が静かに寄り添う夜だった。


窓の外では、浮遊するエネルギーのコアがまたたいていた。

まるで、それさえも二人の幸せを見守るように、微笑んでいるかのようだった。

挿絵(By みてみん)

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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