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第63章 ― 楽屋の影、記憶の光

星空の夜が広がる中、ゴシン号は静かに空の流れを進んでいた。甲板では、リュウガがひとり、欄干にもたれかかりながら星を見上げていた。眉をわずかにひそめ、午後に聞いたことを思い返していた――メガミ・ハヤブサ。自分と同じ世界の出身者。


「眠れないの?」

背後から声がした。


「君こそ」

振り向かずにそう答えた。


クロ――いや、メガミがゆっくりと近づいてきた。薄手のパーカーを羽織り、思索的な表情を浮かべていた。彼の隣に立つ。


「ここ、いい?」

彼女は欄干の端を指差して尋ねた。


「もちろん」

リュウガはかすかに微笑みながら応じた。


しばらく沈黙が続いた。やがて彼女が口を開く。


「すべて……思い出したと思う」


リュウガは彼女に目を向けたが、何も言わず、ただ待った。


メガミは指を組みながら、囁くように語り出した。


「東京でのコンサートだったの。大きな会場で。アリーナは満員。皆が私の名前を叫んでくれて……すべてが意味を持っているように感じた。努力も、涙も……すべてが報われた瞬間だった」


その笑顔は、すぐにかすんだ。


「最後の曲を歌い終えて、幕が降りた。その後、楽屋に戻ったの。まだ興奮が残ってて……でも、急に周囲が静かになったの」


リュウガは彼女の言葉に注意深く耳を傾けた。その声には痛みが混じっていた。


「誰もいなかった。スタッフも、音も……ただ、私と鏡に映る私だけ。そしてその時、空気が壊れるような感覚を覚えた」


彼女は空を見上げた。


「黒い穴。音もなく、ただ静かに……私を飲み込んだの。叫ぶ間もなかった」


「その後は?」

リュウガが低く尋ねた。


「暗闇。冷たくて、湿っていた……そして、手が。誰かが首に何かをつけた。でも顔は見えなかった。ただ、自分の一部が失われるのを感じた。意志も、記憶も、音楽も……」


リュウガの拳が握られる。


「見つかった時、もう私は私じゃなかった。ただ命令に従い、意味もなく笑い、考えずに話していた。でも……今は違う。アイオが笑ってくれる時、アンが抱きしめてくれる時、そしてあなたが……私の話を聞いてくれる時、少しずつ戻ってくるの」


重たい沈黙が降りた。リュウガはゆっくり息を吐いた。


「俺も、似たような経験がある」


メガミは驚いて彼を見る。


「え?」


「コンサートじゃなかった。ただの普通の夜だった。仕事が遅くなって、雨の中、道を渡って……その時、光に包まれた。次に目覚めたときは、森の中だった。怪我をしていて、何も理解できなかった。そして……戻れないことに気づいた」


メガミは目を伏せた。


「じゃあ……あなたも全部失ったのね」


「そうだ。でも、代わりに新しいものを得た。俺を必要としてくれる人たち。俺が守りたいと思える人たち。そして、その人たちのおかげで強くなれた」


彼女の瞳が、きらきらと光を帯びる。


「どうして……壊れずにいられるの?」

彼女はささやいた。

「そんなに多くを背負っているのに」


「壊れないと、誓ったからだ」

彼の声は静かだが、強かった。

「死んでほしくなかった人が目の前で死んだから。そして……今は守りたい人がいるから」


メガミはその言葉を胸に刻むように、しばらく黙っていた。


「リュウガ……私、また歌えると思う?」


リュウガはまっすぐ彼女を見て、優しく微笑んだ。


「間違いなく、歌えるさ」


メガミも微笑んだ。それは久しぶりに、クロではなく、“メガミ”としての笑顔だった。


「ありがとう」


「テオに着いたら、歌ってみたらどうだ? みんな、きっと喜ぶ」


彼女は頷いた。風が少し強く吹き、まるで運命が彼らを前へと押しているようだった。


そして、広大な夜空の下――

異世界から来た二つの魂は、言葉よりも深い繋がりを分かち合っていた。

それは、大きな行動も感情の爆発もなく、それでも最も人間らしく、リアルで、必要なひとときだった。



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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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