表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/324

第62章 ― 歌の中で目覚めた名前

夜明けが雲を撫でるころ、ゴシン号のデータルームでは、ウェンディがホログラム画面を真剣な表情で見つめていた。グループに加わったばかりにもかかわらず、彼女は船の複雑なシステムに不思議な親和性を見せていた。指で情報を次々と画面に移しながら、数式や図面に没頭していた。それは、セレステでさえも理解に苦しむ内容だった。


「ウェンディ?」

隣で誰かがそう呼んだ。


クロだった。腕を組み、片眉を上げながら、静かに近づいていた。


「あっ、ごめんなさい」

ウェンディは少し顔を赤らめながら言った。

「邪魔だった?」


「推進システムのプロトコルを見てるの?」

クロは驚いて尋ねた。


「うん…たぶん」

ウェンディははにかみながら微笑んだ。

「ただ…物事を理解するのが好きなの。何か…心の奥で、学びたい、知りたいって声がするの。…それに、面白いのよ。」


「変わったヒーラーね」

クロは冗談交じりに言った。


「えっ?」


「まるでサポート系の魔法使いというより、エンジニアみたい」

そう言って笑みを浮かべた瞬間、頭に鋭い痛みが走り、彼女は手をそっと当てた。


「クロ?大丈夫?」


クロはほとんど答えられなかった。視界がかすみ、胸に見えない圧力がかかる。音が混ざり合い、遠く懐かしい声が耳元でささやいた。


「女神よ……まだ覚えている? 私たちが歌っていたあの歌を?」


膝をついたクロに、ウェンディが慌てて駆け寄る。


「クロ! クロ、お願い、答えて!」


そして――暗闇。


輝くライトに照らされた舞台。白いドレス。マイク、カメラ、そしてざわめく観衆。

その前には、涙を浮かべながら希望を歌う少女がいた。


クロ――いや、メガミ・ハヤブサは、自分の手を見つめていた。

その旋律は、失われた川が流れを取り戻すように、魂の奥まで流れ込んでくる。


「これは……私だった」

彼女はつぶやいた。

「最後まで…歌っていた……」


最後の音が響き、幕が下りた。

そして、それとともに、時間に埋もれた記憶が蘇った。


目を開けると、自室だった。


汗をかき、呼吸は荒い。

胸に手を当てて、自分の心臓がまだ動いていることを確かめるようにした。


ドアを開けた。


そこには、驚いた表情のヴェルとセレステがいた。


「クロ!」

セレステが駆け寄ってくる。

「汗びっしょり…何があったの?」


「大丈夫…ただ…悪い夢を見ただけよ」


「本当に?」

ヴェルが問う。


「ええ。でも…みんなを呼んで。話さなきゃいけないことがあるの」


会議室はすぐに満員になった。


リュウガはテーブルに手をつき、真剣なまなざし。セレステとカグヤは部屋の両側に立っていた。ウェンディは緊張した様子でクロを見つめ、プレティウムはいつものように無言で壁に寄りかかっていた。


アンが不安そうに口を開く。


「クロ…何があったの? 大丈夫なの?」


クロは立ち上がり、深呼吸をした。


「本当の名前は……メガミ・ハヤブサ。私はこの世界の人間じゃない。日本という別の世界から来たの。リュウガと同じ」


その言葉は、静けさの中に雷のように落ちた。


「なっ…?」

アイオがまばたきをする。


「リュウガと同じ存在なの?」

ヴェルが尋ねた。


「そう。目覚める前…私はアイドルだった。歌手として、舞台のために生きていた。でもある日…すべてが暗闇に包まれた。そして次に気づいたときは、クロとして記憶を失ってここにいたの」


リュウガは彼女をじっと見つめていた。その視線には、共鳴があった。


「音楽、光、涙……そして、すべてを失った感覚を思い出す。でも今はわかるの。この旅が間違いじゃなかったと。たぶん、この世界が私を必要としていたのかもしれない……あるいは、私がこの世界を必要としていたのかも」


アンが立ち上がり、強く彼女を抱きしめた。


「私にとっては、過去がどうであれ、クロはクロよ」


セレステも頷いた。


「そして今、あなたは何よりも大切な仲間よ」


ウェンディは感動して、あたたかい笑顔でそっと近づいた。


「多くを失った人こそ、深く愛することができるのかもね」


カグヤが優しく笑った。


「だから、料理しながらあんなに上手に歌えるのね」


クロは顔を赤らめた。


「えっ、みんな聞いてたの!?」


「うん!」

数人が一斉に答えた。

挿絵(By みてみん)

評価ボタンと応援のお願い


もしこの作品が「ちょっとでも面白い」と思っていただけたら、

ぜひ評価ボタン(☆)をポチッと押してください!


そして……

「この作品、もっと読まれるべきだ!」と思った方、

SNSや友達にシェア・紹介していただけたら、とても嬉しいです!


あなたの一押し・一言が、作者にとって何よりの力になります

応援、よろしくお願いします!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ