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第59章 ― 星の下の祝杯

ゴシン号のエンジンが静かに唸り、新たな一日の夜明けを迎えていた。即席の医療エリアには、円形の窓から柔らかな朝の光が差し込み、空間を温かい琥珀色に染めていた。


ウェンディは真剣さと優しさを混ぜた表情で、娘アンの傷を丁寧に確認していた。


アンは清潔な服を着て腕に包帯を巻き、診察台の端に座って片足をぶら下げ、大げさな声をあげた。


「ママ、もう大丈夫だってば! そんなに痛くないって!」


ウェンディは溜息をつきながら、そっと包帯の上から腕を押さえた。


「痛かろうが痛くなかろうが関係ないの。私はあなたが心配なの。……それにね、やっと“あの状態”から目覚めたばかりなのよ。あなたとの時間を一秒だって無駄にしたくないの」


アンは目を伏せ、胸が詰まりながら答えた。


「……ごめん。心配かけたくなかっただけなのに……」


その時、隅で腕を組んで見ていたクロがにやりと微笑んで近づいてきた。


「過保護なお母さんができたね……しかも新しい衣装付きで」

彼女が指差したのは、ウェンディの着ている白と灰の配色に緑の縁取りがある軽装のフィールドウェアだった。


「新しい衣装?」「なんか……お医者さんっぽい」

アイオとクロが続ける。


ウェンディは小さく笑った。


「まあ……ある意味正解ね。私のクラスは……ヒーラーよ」


その言葉に全員の視線が一気に集まる。


「今なんて言ったの?」

セレステが眉をひそめた。


「灰の世界になる前……私は魔法で人を癒していたの。小さなことしかできなかったけど、それでもずっと……大切な人を守りたかった」


「ふむ……強い意思を持つヒーラーか。なかなかいないな」

プレティウムが隅から静かに呟く。


「で、あんたは何のクラスなのよ?」

カグヤが鋭く尋ねる。


「ウォリアー。特に言うことはない。ただ……叩いて壊すだけだ」


「らしいわね」

リュウガが笑う。


その時、アイオが華やかなグラスをいっぱい載せたトレイを持って現れた。


「じゃーん! ゴシン号のキッチンで見つけたんだ! 甘くて最高に美味しいの! アンのママに、乾杯〜!」


「え? 飲み物?」「甘いって……ジュース?」

皆が手に取る中、プレティウムだけが警戒して匂いを嗅ぐ。


「……これは……」

彼の目が鋭くなった。


「なんだ、これ?」

リュウガがグラスを回す。


「ヴェルのお父様からの贈り物よ」

リシアが王家の封印がついた小瓶を取り出す。

「北の果実で作られた冷酒。お祝い用らしいわ」


沈黙。


「え、酒!?」

全員の叫び。


だが遅かった。みんな飲み干してしまっていた。そして――混沌が始まった。


プレティウムは苦い顔で外に出て、一人で星を見ながら酒を楽しむことにした。


中では、狂宴が巻き起こる。


「リュウガぁ〜〜!!」

アイオが彼の脚に抱きつき、泥酔声で叫ぶ。

「けっこんしよう! おかしのおしろに住むの!」


「ダメ! 私が先よ! さっき言ったもん!」

アンがリュウガの背中に乗って騎乗体勢に。

「あなたは私のシュガープリンス!」


「ホイップの騎士も兼任よ!」

アイオも叫ぶ。


リュウガは石のように固まっていた。


「これは……無理だ……」


セレステは泣きそうな顔でカグヤに抱きつき、意味不明な鼻歌を歌いながら左右に揺れていた。


「いちごケーキにトゲがついてるの……すきぃ……」


「君は……ニンジャのスムージー……」

カグヤも同様に壊れていた。


リシアとヴェルは鏡の前で美の勝負を繰り広げていた。


「私が一番美しいに決まってるわ!」


「夢見てんじゃないわよ! このユニコーン肌を見なさい!」


クロはすでに2杯で酔っぱらっており、テーブルに乗って歌い始める。


「♪ よるのせんし〜、あいのうた〜、たいこでぜんぶぶっとばす〜 ♪」


そして――


ウェンディは床を這って毛布を抱きしめながら呟いていた。


「リュウガぁ……?」

高い声で――

「わたしも、まほうのベイビーにしてぇ……」


「は……?」


「ママ、びびほしいの……リュウガたん、ちょうだい……」

彼の服の裾を引っぱりながら甘える。


「ちょ、ちょっと、ウェンディ!? やめてくれ、頼むから!」


「やーだー! うぇぇん!!」

嘘泣きが始まり――

「リュウガのこと、だいすきだったのにぃ〜〜」


「ちがう! 酔ってるだけだ!」


「まほうのベイビーも、あいしてよぉ〜! みて、このおめめ〜♡」

極限の上目遣いで頬をぷくーっ。


「……なぜ君はそんなに説得力あるの……」

リュウガは頭を抱えてため息をついた。

甲板の上、プレティウムは夜空を見上げ、グラスの中の星影を映す酒を見つめていた。


「……あの少年には……何かある」

風に髪をなびかせながら、目を細めた。


「……だが、まだ……終わりではない」

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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