第56章 – 岩の心、光の涙
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大地が震えた。
ドォォォン! ドォォォン!
森の縁から二体の巨人が現れた。一体は筋肉質な人型、部族のような装飾をまとい、黒曜石と黒い水晶の破片で覆われている。もう一体はより巨大で無骨、まるで山そのもののような四角い腕を持つゴーレム。
どちらも灰色の巨大なコートを着ていた。ほつれた縁は、まるで古代の文明の残滓のように揺れていた。
その目は不気味な紅い光を放ち、生気を持たぬ人工の視線で辺りを見回していた。
「なっ…なんだあれは!?」
プレティウムが後退しながら声を上げた。
「服着たゴーレムだと…!?」
リュウガが眉をひそめた。
「違う…ただのゴーレムじゃない」
セレステが震える声で呟く。
「その姿は…欺瞞のためのもの。
…あの巨体で、速い…!」
その言葉通り、巨人たちはその大きさに似合わぬ驚異的な速度で動き出した。人型の巨人がアイオに拳を振るい、間一髪で転がって避ける。もう一体は腕を地面に叩きつけ、リシアとヴェルが飛び退いて躱した。
「ひゃああああ!?全然遅くないじゃん!!」
アイオが必死に着地する。
アンは歯を食いしばり、剣を抜いた。
「怖くなんかないっ!!はあああああっ!!」
一直線に人型の巨人へと斬りかかり、腕に斜めの一撃を加える。だが——
ザシュッ
刃は僅かに表面を削っただけ。深くは届かない。
「なっ…!? 全然効いてない!?!?」
「奴らの体は、ただの岩じゃない!」
セレステが叫び、プリズムの盾を掲げる。
「これは…普通の魔法じゃない!」
プレティウムが腕を上げ、暗黒のエネルギーを収束。
「喰らえ!」
カアァァンッ!!!
黒い閃光が四角いゴーレムの顔面を撃ち抜き、爆煙が辺りを包む。
だが——
煙が晴れた先に、ゴーレムはまだ立っていた。頬に僅かな黒い焼痕があるだけ。
「…ありえん」
プレティウムが呟く。
ゴーレムたちは低いうなり声を発する。その身体の奥から響くような、洞窟のような重低音。再び突進を開始した。
カグヤが素早く前へ飛び出す。
「変身、《エレファント・フォーム》!」
ズドンッ 巨体へと変化し、一撃を受け止める。
「変身、《ライノ・フォーム》!」
ドガアアッ! 角を突き立てて巨人を弾き飛ばす。
「変身、《ハーレクイン・マンティス》!」
バシュバシュ! 石の関節部に斬撃。
「変身、《ピストル・シュリンプ》!」
ポンッ! 音速の衝撃波で地面が裂ける。
しかし——
巨人たちはほとんど怯まなかった。
「まるで動く要塞…!」
セレステが叫び、リシアを守るように立ちはだかる。
アンは息を切らしながら、再び剣を握り直す。
「こんなの…おかしい!なんで倒れないのよ…!どいてぇぇぇっ!!」
リュウガが叫ぶ。
「アン、待て——!」
遅かった。
四角いゴーレムが拳を振り上げ、無防備だったアンに直撃。
ドゴォォォン!!
「アアアアアアアアアンッ!!!」
全員が絶叫する。
アンの身体は空中へと吹き飛ばされ、ゴシン号の側面に叩きつけられた。
機体が揺れ、金属がめくれ、煙が立ち込める。
カグヤがすぐに駆け寄る。船体の一部は崩れ、割れた金属の中にアンが倒れていた。顔に血、意識はかすか。剣は彼女の手から離れていた。
「アン!!」
カグヤが抱き上げる。
その時——
騒音に惹かれたかのように、船内にいたアンの母が歩み寄ってきた。彼女を見張っていたカグヤの分身が警戒する。
だが、母は立ち止まり——
視線を落とす。アンの傷だらけの姿に。
……。
その瞳に、変化が生まれる。
「ア…ン…」
震える唇。
「アン… アン…」
目に涙が浮かぶ。
そして——
一滴の涙が、頬を伝って落ちた。
「私の…娘…!
アン…!!
アンーーー!!」
虚無の支配が、絶叫と共に崩れた。
彼女は膝をつき、アンを抱きしめる。
「ごめんなさい!! 傍にいられなくて! 守れなくて…!
私の子よ!!戻ってきてぇぇぇぇぇぇ!!」
カグヤはその姿に、そっと肩へ手を添える。
「…ようやく…心の灯が、戻ったみたいね」
外では、リュウガが静かに剣を掲げる。
その視線はまっすぐに、巨人を見据えていた。
「——ここまでだ」
「俺の仲間に、これ以上指一本でも触れるな」