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第50章 謎めいた戦士

ガレオン・ゴウシンは、雲間を漂う宝石のように空を進んでいた。魔力で駆動するプロペラが一定のリズムで回転し、精製されたマナと元素エネルギーが推進力を与える。船体を覆うクリスタルが時折光を放ち、魔法航行システムが作動していることを示していた。


主甲板では、リュウガとセレステが訓練の真っ最中だった。


「いけるぞ、セレステ。あと2秒バランスを保てれば、反撃がもっと楽になる」

リュウガは深く息を吸い、正確に剣を振った。


「ちっ、分かってるわよ……でもアカデミーの教官みたいな口調で言わないでよね!」

クリスタルの鎧が太陽に輝く中、セレステは回転しながら応えた。

「でも…そんなとこ、ちょっと可愛いけどね」


「なっ…今それ言うなよっ!」

リュウガは、すんでのところで炸裂するプリズム弾を回避した。


二人は笑い合い、訓練の緊張感が一瞬だけ消えた。


一方、厨房近くの共用室では、カグヤがアンとアイオと共に低いクッションに座り、茶を分かち合っていた。


「それで……今は、はっきり思い出しているの?」

カグヤは興味深げに問いかける。


アンは微かに光るリボンがついた白と青のドレスを着て、うなずいた。


「全部じゃないけど……前よりは確かに。あのとき、あなたに声をかけられて……何かが目覚めたの」


「まるで……やっと呼吸できたような感覚だった」

アイオは静かだが確固たる表情で言った。

「自分が誰かは分からなかった。でも、今は“誰になりたいか”は分かるの」


カグヤは何も言わず、優雅にお茶を一口飲みながら静かにうなずいた。


ガレオンの別区画では、クロが魔力ラインと魔法の刻印が走るクリスタルの前で格闘していた。


「ええと……主点火エンジン、魔核の補正軸……なんでこんな長ったらしい名前ばっか!?剣よりも操作多いとか意味不明!」


浮遊するクリスタルがピカッと光り、合成音声が響いた。


「警告:認証されていないアクセス。マナの指紋を記録中――」


「ちょっ!?ただの好奇心だってば!爆発するなよ、魔法マシン!!」


上空では、ヴェルとリシアがエネルギーで形成された訓練用の剣を使い、浮遊するプラットフォームで練習していた。


「手伝ってあげた方がいいかな?」

リシアは鋭い突きを決めながら尋ねた。


「クロ?放っといていいよ。あれを乗り越えれば仕組み理解できるだろうし。爆発したとしても……そこまで派手にはならないって」


二人は笑った。しかしヴェルは次第に遠くを見つめた。


「テオ……あそこで、アンとアイオが求めてる答えが見つかると思う?」


「ええ」

リシアは落ち着いて答えた。

「それだけじゃなく、もっと何かが」


ヴェルは剣を下ろし、風に髪をなびかせながらプラットフォームの縁に歩み寄った。


「何があってもいい。今度は……みんな一緒だから」


浮遊ナビゲーションカメラが彼女の声を記録した。その言葉は風の音と共に記録に残された。


ガレオン・ゴウシンは穏やかに高度を保ち航行していたが、突然大地を打つような激しい衝撃音が周囲を揺るがした。


「何!?今の音は!?」

リシアが立ち上がる。


「地表に異常波を感知!とてつもないエネルギーで何かが落下したわ!」

セレステが中央スクリーンを確認する。

「座標は……近くの森。マップにはなかった場所よ」


「ポータルか?」

リュウガがグローブを調整しながら問う。


「違う。……もっと別の何か」

カグヤが険しい表情で言う。


リュウガは皆を見渡した。命令は必要なかった。


「降りるぞ」

彼は短く告げた。

「戦術隊形で転移。二手に分かれて警戒しながら探索する」


白い光が彼らを包み、8人の姿は船上から消えた。


湿った空気と砕けた樹皮の匂いに満ちた森の地表に、彼らは再び現れる。木々は無惨に倒れ、激突の痕跡が濃く残っていた。


「……静かすぎる」

ヴェルが呟いた。


そのとき、霧の中から現れたのは……歪んだ存在だった。

ねじれた人体のような異形。口が顔の位置ではなく、腕が鉤爪のように融合し、音もなく彼らを取り囲む。


「なんだこいつら……?」

クロが構えを低く取り、棘付きの輪を抜いた。


「わからないが、待ってやる義理はない」

リュウガが剣を構え、電気のような輝きを走らせた。


すべては、一瞬で起きた。


1体の怪物がアンの背後から襲いかかったその瞬間――

空気を切る鋭い音が響いた。


――ザシュッ!


その怪物は真っ二つに裂かれ、さらにもう1体が一太刀で首を落とされた。


全員が振り向く。


死体の間を歩いて現れたのは、乱れた黒髪の男。

黒い鎧に身を包み、血のように黒い液をまとった大剣を手にしている。

その目は、嵐の中の炎のように鋭く燃えていた。


「……誰だあれ」

リシアが緊張の声を漏らす。


「うそ……あの化け物どもを紙くずみたいに……」

アイオが呟く。


男は無駄なく斬り進んだ。足取りは寸分も狂わず、いかなる敵も3メートル以内には近づけなかった。

その斬撃の正確さ、音もなく動く姿……まるで人の形をした影のようだった。


最後の怪物の首が、果物のように滑らかに落ちたあと、男は止まり、ゆっくりと彼らに視線を向けた。


静寂。


緊張が張り詰める中、リュウガが一歩前に出た。剣は構えたまま。


「……お前は誰だ?」


男はわずかに首を傾け、読めない表情で答えた。


「……プレティウム。これ以上の名は要らない」

低く、枯れた声で。まるで一語一語が痛みを伴っているように。


「……君たちは?」


「俺たちは冒険者だ。空から爆発音が聞こえたから調査に来た」


プレティウムはしばらく黙って彼らの陣形、姿勢、武器を観察した。


「……俺だ」

ついに答えた。


「それを起こしたのは君か?なぜだ?」

ヴェルがやや苛立ち混じりに尋ねる。


「……あの化け物たちを倒すためだ。出続けている……“彼女”がそれをした以来」


「彼女……?」

セレステがゆっくりと視線を向ける。


焦げた木の陰から、ひとりの女性が立っていた。


長い橙色の髪。灰色で汚れたコート。無表情な顔。虚ろな瞳。


セレステは背筋に冷気が走った。


アンは言葉を失い、信じられないという表情で前へと歩み出た。

声が震えながら漏れ出す。


「……ママ?」


女性は反応しなかった。名前に対しても無表情のまま、首を僅かに傾けるだけだった。


アンの鼓動が早鐘のように鳴る。


「ママ……!わたしだよ、アン!ここにいるの!」


アイオは口を手で覆い、目に涙を浮かべた。


「……感情の死の状態。愛も、憎しみもない。ただの空白」

プレティウムはその姿を見つめながら言う。

「同じ存在を百体は殺した。……だが、こいつだけは――」


リュウガは、涙に濡れたアンの顔を見つめた。


「……何があったんだよ、ママ……」

挿絵(By みてみん)

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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