第45章 やってみよう!
【CLANG! CLANG! BOOM!】
「うあああああっ!」
ヴェルは叫び声を上げながら、凄まじい一撃で地面に叩きつけられ、口から血を吐いた。
蒼藍ユニコーンの鎧は衝撃でひび割れた。
エレオノールは咆哮を上げ、六本の腕すべてで容赦なくヴェルを殴りつける。
一撃ごとに大地が震え、土煙と瓦礫が舞い上がった。鋼鉄と闇の雨が降り注ぐ。
「希望はどこだ、姫様ァ?! お前の笑顔は?! 優しさは?! 正義は?! ―全部幻想だッ!」
【バン! バン!】
「ヴェェェェルッ!」
リュウガが叫びながら駆け寄ろうとするが、黒いエネルギーの爆発が彼を弾き返した。
セレス、クロ、アン、アイオ……仲間たちは皆、エレオノールからあふれ出す混沌の魔力に抗っていたが、誰一人として彼女に届くことはできなかった。
ヴェルは地に伏していた。体は傷つき、剣は遠くに投げ出され、顔は血で染まっていた。
目を細め、力は尽きようとしていた。
しかしその瞬間――
彼女の心の闇に、小さな光が灯った。
【回想 - 数年前】
王宮の庭園は快晴で、鳥たちがさえずる中、二人の少女が花の中を駆け回っていた。
6歳のヴェルは、花冠を頭に乗せて走り回っていた。
少し年上のエレオノールは、笑顔でお菓子の入ったカゴを持ち、その後を追う。
「エレオノール! 見て見て! 魔法の冠だよっ!」
「いたずらな女王さまね」
エレオノールは笑いながらしゃがみこみ、ヴェルの冠を直してやった。
「でも、まだ治め方は知らないわよね?」
ヴェルは唇をとがらせて腕を組んだ。
「わたし、みんなを守るために女王になるのっ! ままみたいに!」
「じゃあ、私は?」
エレオノールが優しく尋ねた。
「お姉ちゃんは、わたしの盾! 世界一つよいお姉ちゃんになるのっ!」
驚いたエレオノールは、ヴェルに気づかれぬよう、感動の涙をこぼす。
そして彼女をぎゅっと抱きしめた。
「じゃあ……君が女王なら、私は絶対に守る。誰に頼まれなくても――」
桜の下で二人は抱き合い、笑いながら永遠の約束を交わした。
【回想終了】
ヴェルはゆっくりと目を開ける。まだ地に伏したまま。
流れた涙は、痛みではなく記憶のためのものだった。
「……お姉ちゃん……」
エレオノールは槍を振り上げ、突き立てようとしていた。
「死ねぇぇっ! 私からすべてを奪った象徴め!」
その瞬間、ヴェルは腕を上げた。
そして剣は、運命に呼ばれるかのように彼女の手元へと飛んできた。
「……違う……あなたはそんな人じゃなかった……」
ヴェルは震えながらも、しっかりとした声で言った。
「あなたは、守るって約束した!」
彼女の鎧が輝きを取り戻す。
胸のユニコーンが咆哮を上げるように輝き、ひび割れは光とともに修復されていった。
その瞳には再び、揺るがぬ決意が宿った。
エレオノールは息を荒くし、広がる瞳でヴェルを見つめた。
背後に視線を向け、彼女は仲間たちを見渡した。
「リュウガ……セレス……クロ……アイオまで……今すぐ死にたいのか?」
醜く歪んだ口元をなめながら、燃える呪槍を構える。
「まとめて来いよォォォ!! 皆殺しにしてやるッ!」
リュウガが剣を持ったまま、一歩前に出る。
穏やかな微笑みを浮かべながら。
それは傲慢ではなく、確かな信念の光だった。
「まだだ、エレオノール」
「……なに?」
「今は俺たちの出番じゃない」
風が吹き、戦場の塵が舞う。
「この戦いは――俺たちのものじゃないんだ」
【ズアアァン!】
魔力の咆哮が背後から爆ぜた。
振り向く間もなく、紅い光球がエレオノールの背中に直撃し、藍の炎が包み込んだ。
【BOOOOOOM!】
大地が裂け、空が揺れた。
エレオノールは六本の腕で姿勢を保ちながら着地する。
その視線の先に――立っていた。
ヴェルが。
灰の中に立つ彼女は、輝きを増した蒼藍ユニコーンの鎧に包まれていた。
瞳はまっすぐに向けられ、血と涙にまみれた顔に浮かぶのは――
「決意」だった。
(以下、続く)
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