第42章 複雑な気持ち
アルウェナは優雅に剣を抜き、その瞳は刃と同じほど鋭く光った。一振りで空気を切り裂き、彼女のマントは旗のようにはためいた。
「誰にも、私の大切な者には触れさせない……」と彼女は囁いた。
威厳ある旋回と共に、剣が白く光り、それはやがて緋色へと変わった。彼女は片手で天を指し示す。
「王国戦技:紅蓮の淑女の閃光!」
剣の刃は稲妻のように輝き、一瞬で五人の敵を貫いた。その一閃から放たれたエネルギーの線は地面に触れた瞬間、赤い炎となって前方を焼き尽くした。
「すごい……!」とアイオが叫びながら後方に飛び退く。その目の前で、アルウェナがもう一人の敵を華麗に斬り捨てた。
だが、休んでいる暇はなかった。敵が十数人、彼女たちを囲んでいた。
「アルウェナ姉さん、コンビの時間だよ!」とアイオが彼女の隣に立ち言った。
「そのつもりだったわ」とアルウェナが微笑む。
ふたりは同時に突撃し、アイオが叫ぶ。
「星魔法・最終奥義!情熱リズムの大爆発!!」
彼女の拳はピンクの炎に包まれ、目にも止まらぬ速さで四方八方に打ち出された。衝撃のたびに光る音符の紋様が敵を包む。
アルウェナは剣にエネルギーを集中し、再び旋回する。
「最終斬撃――誓約の星血!」
クロス状の斬撃が空を裂き、敵の進行を完全に分断した。
その混沌の中、ふたりの存在が対峙していた。
セレステ――蛍石の輝く鎧に身を包み、決意の瞳で構える。呼吸は静かで、しかしその瞳には凶烈な意志が宿っていた。
その前に立つのは、深淵の騎士エヴェソル。紫を帯びた漆黒の鎧は光すら飲み込むようで、湾曲した剣からは黒煙が漏れ、空間にひび割れすら浮かび上がっていた。
「壊れた人形が俺の相手とはな」兜の奥から嘲り笑う声が響く。
セレステは返答せず、構えを強める。腕が光を放ち始める。
「人形はもう壊れていない。鏡の向こうを見せてあげる。」
エヴェソルが先に動いた。剣に青黒い炎が灯り、怪物のごとき速さで横薙ぎに斬りかかった。セレステは舞うように身を滑らせ、その一撃をかすめるように避ける。
「チッ……もっと楽しませろよ!」
彼は闇の槍のような魔法を放つ。それは雷のような速さで突き進んだ。
セレステはプリズムの盾を展開し、多色の火花と共にそれを弾いた。
「今こそ見せる時よ……完璧の試作機と呼ばれた理由を!」
彼女は両手を掲げ、胸の宝石がダイヤのように輝いた。
「必殺技――次元屈折!」
空気が歪み、四つの分身がプリズムから出現する。それぞれ微妙に光と構えが違っていた。
「鏡の世界はどうかしら?」と左から一人が囁き、
「それとも死を呼ぶ幻影がお好み?」と上空から別の声が届く。
エヴェソルはうなり、回転斬りで一体の分身を破壊。
「何人いようと関係ない!俺の剣はすべてを裂く!」
だが、本命の攻撃は背後から。セレステ本体が高速で飛び、無数の光の針を放つ。
「プリズムスパイク!」
針は鎧に突き刺さり、エヴェソルは唸り声を上げて後退した。
彼は剣を天に掲げて叫んだ。
「深淵の門よ、開け!奈落の闇――光を喰らえ!」
彼の足元から闇の渦が広がり、分身たちを消し去り、地を砕く。セレステは吸い込まれかけたが、光の翼で空に留まった。
「そんなに簡単に食われると思わないで!」
再び両腕を交差し、エネルギーを凝縮。
「プリズム・アブソリュートモード、起動!」
彼女の鎧は星のように輝き、闇の攻撃をまるで砕けた水晶のように反射した。
エヴェソルが渾身の突きを放つが、セレステは純光の盾で受け止め、回し蹴りで彼を弾き飛ばした。
「どうしたの?その傲慢さはどこへ行ったの?」
エヴェソルは驚き、装甲から煙を上げながら歯を食いしばる。
「俺を侮るなよ、ガラスの人形!まだ俺の本当の闇を見ていない!」
セレステはわずかに微笑み、
「そしてあなたも、私が愛するものを守る時の輝きを、まだ知らない。」
空気が緊迫する中、エレノアが風になびく髪と共に一歩踏み出し、手を高く掲げる。
「新秩序の兵たちよ……王と王妃を討て!」
裏切り者の兵たちが蜂の群れのように動き出し、王と王妃を多方向から囲む。
「陛下、逃げてください!」と忠誠を誓う兵が叫ぶが、王は動かなかった。
「いいや……この国で私は退かない。」王が王妃の前に立ち、魔力が彼の周囲に輝き出す。
王妃も毅然と答える。
「死ぬ時は、敵の目を見ながらよ。」
その瞬間、回転する魔法のスパイクが空を裂いて飛び、敵の盾に衝突して突撃を阻止した。
「これは何だ……?」
蒼い輝きと影に包まれて降り立ったのは――クロ。変身した姿で、魔力を帯びた鋼の輪を手にしていた。
「ちょうどいい時に来てくれた!」と王が安堵の笑みを浮かべる。
クロは冷たくも決意ある声で応じた。
「王国最高司令部の命令だ。王国の心臓を守る。それは、あなたたちから始まる。」
彼は輪を宙に投げ、それは幻影を生みながら敵兵に激突し、魔法の衝撃波で彼らを武装解除していく。
別の場所では、王子が輝く剣を持って背後からの奇襲を迎え撃つ。
「この線を越える者は……俺が相手だ!」と叫び、斬撃の波動を放つ。
「継承者だ!用心しろ、軍事訓練を受けている!」と敵が叫ぶ。
「それだけじゃない!俺には理由がある!家族がいる、国民がいる!」
別の戦場では、アンがプリズムのポータルから登場。ピンクの輝きの中でカードの扇を広げる。
「さあ、遊びましょ!スペシャルアタック:ハートの女王――ロイヤルカット!」
カードは魔力で女王の像を成し、無数の光刃を放ち、兵をハート型の魔法檻に閉じ込めた。
「呪いのカードか!?」と怯える兵。
「違うわ……これは、正義よ。」アンは静かに言った。
その間にも、クロは輪を回転させ、霊鎖を伴って敵陣を切り崩していた。
「クロ様!東の翼、確保完了!」
「よし。防衛線を組め。ここは通さない。」
風に揺れる髪、魔力に包まれた王妃が戦いを見つめ、王にささやく。
「見て……彼らが私たちの希望……次代を守る者たち。」
王は涙ぐみながら頷いた。
エレノアは後退し、混乱が自分に不利に傾き始めたことに気づいていた。風に翻るマント。目は揺れていた。
「くっ……今じゃないわ……」と呟き、踵を返そうとしたその時。
誰かが、彼女の前に立ちふさがった。
「行かせない。」
その声は静かで、強く、揺るぎない決意に満ちていた。
ヴェル。妹であり、藍色の鎧に身を包んだ守護者。剣は紅く光り、瞳には苦しみと怒りと、壊れた愛が宿っていた。
「ヴェル……」とエレノアが足を止める。
「お姉ちゃん……なぜ?なぜこんなことを?両親に。国に。……私に!」
エレノアは視線をそらしながらも、冷酷に言い放った。
「この国には、感傷なんかじゃ足りない。私は常にふさわしかった。それなのに、父はお前を特別な宝石のように見た。私は未来を築ける剣だったのに!」
「国を強くするのは、力じゃない。」ヴェルは剣を構える。「守ること。壊すことじゃない。仕えること、支配することじゃない。」
「わかってない……お前はずっとわかってなかった!」エレノアは黒いオーラを纏った剣を抜いた。「私はこの土地のために全てを捧げた!それなのに……!」
ヴェルは剣を高く構える。
「なら……止める。姉としてじゃない。王女としてでもない。私は……まだあなたを信じたい一人として、ここで終わらせる!」
「来いよ!本当に王冠にふさわしいのはどっちか、決めようじゃない!」
――激突した。
カァン!
剣と剣がぶつかり、爆風が花びらと埃を舞い上げた。
「動きが良くなったわね……!」エレノアが突きを放つ。
「あなたこそ……昔のままじゃない!」ヴェルがそれをいなし、斬り返してマントをかすめる。
「泣き虫のままじゃないのか?」と蹴りを繰り出すエレノア。
「違う!」ヴェルの瞳が光る。「愛する者を守るためなら、私は手を汚す!」
再びぶつかり合う剣。互いに近く、積年の痛みが交錯する。
「……憎んだよ。お前の純粋さ、眩しさが。」
「私は……ずっと憧れてた。あなたが離れても。」
「でも止める。破壊者じゃない、姉さんを……!」
――爆発音。剣が離れ、両者が弾き飛ばされる。
エレノアは膝をつき、血を吐く。
「なら……殺せ。そんなに国が大事なら、終わらせろ。」
ヴェルは一瞬、構えを下ろす。息が荒く、腕は震えていた。
「殺したくなんかない……救いたいだけ。」
だがエレノアが叫ぶ。
「それが弱さだ!」
彼女が剣を振り上げたその瞬間――
リュウガが間に入り、エネルギーを纏った腕でその一撃を止めた。
「もう、十分だ。」
「リュウガ!」とヴェルが叫ぶ。
ヴェルは涙で濡れた目を細め、歯を食いしばった。
「それしかないなら……本気で戦うわ、エレオノール!」
叫びとともに、ヴェルは藍色のユニコーンの剣を高く掲げた。周囲の魔力が燃え上がり、蒼と紅のオーラが踊る炎のように広がった。空気が震え、空間に重圧が走る。
エレオノールは一歩退いた。その力の爆発に、一瞬、驚きを見せた。
「チッ……ようやく牙を剥いたわね、妹。いいわ、見せてみなさいよ!」
カァン! カァン!
再び剣がぶつかる。しかし今度はヴェルが優勢だった。彼女の剣筋は速く、鋭く、正確だった。その動きは、まるで雷の中を駆けるユニコーンの舞のよう。
「これは母のため!父のため!あなたがもたらしたすべての苦しみのため!」
ガキィン!
一閃がエレオノールの肩当てに命中し、鎧の一部が砕け飛んだ。
エレオノールが歯を食いしばる。
「説教なんかするな!姉でいることの重圧なんて、お前にわかるもんか!完璧でいろと、触れることすら許されない存在でいろと!」
「あなたにだってわからないわよ!」ヴェルが叫ぶ。「影の中で生きる苦しみを!ずっと守られて、過保護にされて……でも、誰にも聞いてもらえなかった!」
ドォン!
魔力の爆発がヴェルを包み、剣が眩しく輝いた。
「藍嵐!」
空から紫炎の雨が降り注ぎ、無数の小さな隕石のように地を撃った。エレオノールは魔法の盾を展開して防いだが、衝撃でよろめいた。
髪は乱れ、顔は険しく、息は荒い。
「ふっ……まさかここまで成長してるとはね……でも、それだけじゃ足りない!」
エレオノールも剣に闇を集中させて叫んだ。
「黒冠の荊!」
剣から漆黒の槍が発射され、凄まじい速度でヴェルへ向かって突き進んだ。
ドォォォン!
爆発と共に砂煙が舞う。だが、その中から現れたのは、魔法の盾で傷を最小限に抑えたヴェルの姿だった。
「倒れない……今日じゃない。たとえ力づくでも、あなたを光に引き戻す!」
ザァァッ!
ヴェルが一瞬で背後に回り、斜めに斬りかかる。エレオノールは辛うじて防いだが、衝撃で血を吐いた。
「もうやめて、エレオノール!」ヴェルが叫ぶ。「今ならまだ、止まれる!」
エレオノールは震えた。姉妹の言葉が、長年積み重ねた憎しみの鎧に亀裂を入れる。
「あなたは……あなたにはわからないのよ、私は……」
その言葉の途中で、ヴェルは剣を落とした。
「これ以上の戦いは、あなた自身が作った憎しみの壁を壊すためにある。」
ヴェルは静かに、しかし力強く歩み寄る――怒りではなく、心で。
バンッ!
最後の一撃。腹部への魔力を帯びた拳――強く、しかし致命傷にはならない。エレオノールは膝をつき、剣を取り落とし、そして――初めて涙をこぼした。
「どうして……どうして私を憎まないの……?」
ヴェルは前にひざまずき、肩で息をしながら答える。二人の体は傷と魔力の灰に覆われていた。
「だって……私はあなたを愛してるから。姉さん。今は見えなくても……この国は、まだあなたを必要としてるから。」