第41章 枯れた花
風が王国の外れで激しく吹き荒れ、木々の枝を揺らし、古びた石畳の道に埃を巻き上げていた。満月が小道を照らし、一人のフードをかぶった人物が恐れもなく進んでいた。その足取りは力強く、存在感はコオロギすら沈黙させた。
彼女の前には、王国に属さぬ精鋭の兵士たちが待ち構えていた。黒い鎧に見慣れぬ紋章――王冠を喰らう蛇――を纏っている。中央には、夜のように黒い槍を持った背の高い騎士が一歩前に出た。フードの人物はうなずいた。
「完璧だ。夜明けが新たな秩序の始まりを告げる。」
しかしその言葉の続きを口にする前に、黄金の光が野原を照らし、空間に裂け目を開いた。そこから現れたのは、王国の指導者たちとその最強の守護者たちだった。
エレノア王と王妃。
王位継承者の王子。
プリンセス・ヴェル。
リュウガ。
セレステ。
カグヤ。
クロ。
リシア。
アルウェナ。
アンとアイオ。
裏切り者たちは恐怖と混乱で後退した。空気の緊張は刃物で切れるほどだった。
王は怒りを抑えながら声を上げた。
「ふざけるのはやめろ!姿を現せ、裏切り者!」
アルウェナが前に出て、悲しげだが揺るがぬ目で言った。
「証拠は揃っている。この手紙の印章、使われた魔法、秘密のコード……すべてが一人を指している。」
フードの人物は動かない。やがて、ゆっくりと優雅な動きでフードを外した。
全員が息を呑んだ。
それはエレノア・ファルケンラス。王国エレノアの第一王女だった。
ヴェルは衝撃で剣を落とした。
「う、うそ……お姉さま……」
王子は一歩後退し、顔が青ざめる。
王妃は立っているのがやっとだった。
「エレノア……あなたが……」
裏切り者は冷たい声で、後悔の色も見せずに語った。
「私はずっと最も訓練された者だった。最も賢く、最も備わっていた。なのに与えられたものは何?正当な権利を奪われ、外交任務に閉じ込められる日々。あんたは――」ヴェルを軽蔑の目で見ながら「――舞踏会のたびに主役だった。」
ヴェルが近づこうとすると、エレノアは手を上げて制した。
「一歩も近づくな!今夜、私はあなたの姉ではない。私は敵だ。」
リュウガがヴェルの前に立ち、目を細める。
「脱獄とクラヴァッハの事件の首謀者はお前か……」
エレノアは笑った。
「クラヴァッハ?ただの捨て駒よ。本当のゲームは今、動き始めたの。」
アルウェナは拳を握りしめた。
「犯罪者を解き放ち、混乱を撒き散らし……あなたは、あなた自身が誓っていたものに堕ちた!」
再び風が吹いた。
「それが理由で……牢獄の犯罪者を逃したのか?」とリュウガは冷静さを保ちながら問いただす。
「彼らは……私を信じている。私は彼らに目的を与えた。クラヴァッハは確かに誤算だった。でもそれは私たちが何を制御すべきかを教えてくれた。私が何を集めうるか……」
エレノアが手を上げると、禁忌の印を持つ兵たちが背後に現れた。
「……まるでアブサロンのようだな。」王は悲しげに呟いた。「祖国を愛した息子が……その自我に飲まれる。」
エレノアは一瞬、視線を落とした。
「そうかもしれない。でも覚えておいて、父上……アブサロンは力が足りなかったから死んだ。私はその過ちを繰り返さない。」
アルウェナが一歩進み出た。
「こんなの、あなたじゃない!私はあなたを育てた。もう一人の娘のように!なぜ話してくれなかったの?」
「あなたもまた盲目的に王座に仕えていたからよ。」エレノアは冷たく言った。「正義を語るあなたは、私の改革の訴えを聞かなかった。母ではなく、剣だった。」
王はゆっくりと剣を抜いた。
「ならば、エレノア・ド・アムテよ。お前はもはや王国の一員ではない。自ら血筋を捨てた者。脅威でしかない。王として、我が民を守るため、お前を討つ。」
緊張が限界を超えた。
敵の兵たちが進軍する!
カグヤはシャコの姿を召喚し、セレステはプリズム技を構え、ヴェルは母の前に立ちはだかり、リュウガは毅然と前に出た。
「みんな!」とリュウガは叫ぶ。「心を折るな!互いを守れ!これはもう一度のクラヴァッハにはならない!」
エレノアは剣を構えた。
「勘違いするな!これは復讐じゃない。これは再生だ!この王国は私のものになる――ならなければ、誰のものにもさせない!」
「この王国は既に腐っていた。」エレノアの声は刃のように鋭かった。「私はそれを、少し早めただけ。」
ヴェルは震えていた。それは恐怖ではなく、抑えきれない怒り。拳を握りしめ、瞳は潤み、魂は引き裂かれていた。
「お姉さま……どうして……?」
遠くに、漆黒の馬にまたがったエレノアは答えなかった。その沈黙は、どんな言葉よりも残酷だった。
ヴェルは手の甲で涙を拭い、呼吸を整える。前へと一歩踏み出した。
「もう泣かない。今は――私の愛する人たちが危険にさらされている。」
天に手を掲げると、彼女の足元に古のルーンを刻んだ真紅の魔法陣が現れた。空気が震えた。
「純心の鎧よ、我に顕現せよ!」
青くまばゆい光が彼女を包み、王女のドレスは消え、藍色に金のたてがみ模様が入った輝く鎧に変わった。背には虹色に輝く光の翼が展開した。
「私はアムテのヴェル……この王国を、たとえ血族からであっても守る!」
その隣で、アンが一歩前へ出た。ピンクと白の光に包まれ、衣装が不思議の国のアリスを思わせる優雅なドレスに変わった。パステルブルーのコルセットにハイヒールブーツ。
アイオは拳を握り、はじける笑顔で前に飛び出すと、戦闘用のセレスティア調の魔法少女姿に変身した。
セレステは前の戦いで消耗していたが、決意の笑みを浮かべた。
「もっと輝かなきゃね。」
彼女の体は白い光を放ち、それは千の色に屈折した。新たな鎧は蛍石のようにクリスタルでできており、角度によって色彩が変化する万華鏡のようだった。髪も長くなり、紫の輝きを帯びていた。
カグヤが静かに前進する。目を閉じ、深く息を吸い込み、呟いた。
「ブラックマンバ。」
背中から影が忍び寄り、彼女の体は黒曜石のような鱗で覆われた。密着する忍装束が形成され、部族のような模様と、毒を孕んだ真珠のような輝きを持つ瞳を宿す。冷たい気配が漂うが、その決意は炎のように燃えていた。
皆がリュウガに目を向けた。
彼は何も言わなかった。ただ、目を見開き、仲間のエネルギーに髪がなびく。拳を握り、抑えた気が爆発寸前だった。
戦いは目前だった。
エレノアの軍が突撃を構える一方で、リュウガたちは既に変身を終え、希望の灯のように輝いていた。風は電気を孕み、緊張が極限に達したその時――
敵軍の中に、黒い霧が立ち込めた。
「何あれ……?」アイオが眉をひそめて呟く。
エレノア側の兵士たちは怯えて後退する。中には、その圧倒的な存在感に耐えきれず武器を落とす者もいた。
そして、闇の中から現れたのは――
紫の装飾を纏った黒い鎧と、裂けたマントの騎士。その歩みは重く、それでいて音もなく、まるでこの世の存在ではないかのようだった。
その兜には下に湾曲した角があり、まるで闇そのものが金属となったようだった。手には深淵の霧を纏った長剣を持ち、光を飲み込んでいた。
「お前……!」とエレノアが馬を降りて数歩進み、苛立ちをあらわにした。「来るよう命じてはいない。何しに来た、エヴェソル!」
騎士は立ち止まる。鎧がかすかにきしむ。そして底なしの井戸の底から響くような、深くはっきりとした声が響いた。
「私はお前の命令など受けぬ、混沌の姫よ。お前の計画が感傷の延長かどうか見に来ただけだ……が、どうやら変わっていないようだな。」
エレノアは拳を握り締めた。
「私を侮辱する気か!」
エヴェソルは動じない。
「侮辱ではない。観察だ。だが……」と、ゆっくりと兜をリュウガと少女たちに向ける。「……お前の敵には、少し興味が湧いた。」
ヴェルが剣を構え、眉をひそめる。
「あんたは誰?」
騎士は頭をかしげ、闇の奥で笑っているかのようだった。
「私を呼ぶなら……エヴェソル、深淵の騎士。王国も、忠誠もない。私はただ……最も深い闇を探して、それを喰らうか、喰われるかするのみ。」
セレステが一歩前に出る。
「あなた、エレノアの味方として来たの?」
「いや。」迷いなく答えた。「私は……ただ楽しむために来た。」
カグヤが眉をひそめた。
「また狂人か?」
「違う……私は、希望があまりに強く輝いた時、それを消しに来る者だ。」
リュウガが歯を食いしばる。
「なら来い。お前に、これを消せるか試させてやる。」
エヴェソルが剣を掲げた。霧がまるで怪物の心臓のように脈動した。周囲の地面は枯れ、草が灰色になっていく。
「さあ来い、王国の英雄よ。その影の重みに耐えられるか見せてみろ。」
そして言葉を交わすことなく、エヴェソルはゆっくりと進み始めた。一歩ごとに、まるで見えない鎖が断ち切られていくような音が響いた。エレノアはその様子をただ目を細めて見つめていた。まるで事態が、自分の手をも離れかけているように――。
アイオがアンに小声で言った。
「この人……どれくらい強いの?」
アンは唾をのみ込んだ。
「わからない……でも、普通の相手じゃない気がする。」