第40章 百撃の咆哮
祝賀ムードの会場に、突然、革靴が大理石を軋ませる音が響き渡った。
あの日、王女ヴェルに接近しようとした3人の若き貴族が、大広間に乱入してきた。彼らは高貴なローブをまとい、傲慢な表情と侮蔑の眼差しを携えていた。群衆は一斉に不穏な空気に包まれる。
貴族1(長髪・金髪)
「こんな茶番劇を許せるのか!辺境の冒険者がどうしてその地位に?」
(王座への一礼もせず、声高に)
貴族2(優雅だが鼻にかけた口調)
「その通り!我ら由緒ある名門の子弟が無視され、外国人が重用されるなんて!」
貴族3(冷笑的に)
「姫を助けただけで王配に?そんななら、昔から誘拐を何度も仕掛けてればいいだけだな!」
その毒舌に周囲が緊張した。リュウガは腕を組み、睨み返す。像のように静かだが、その眼光は鋭かった。
王がゆっくりと立ち上がる。彼の存在だけで場は静まり返る。
王
「お前たち…よくもこんな厚顔で現れたな?」
貴族たちは面色を変えたが、貴族1が言い返す。
貴族1
「失礼ながら、正当な要求です、陛下!」
王(冷たく)
「正当?お前たちが金を浪費し、遊びに耽っている間、どれほどの犠牲や努力をしたのか。手を貸したか?国のために尽くしたか?」
その言葉に、参加していた冒険者たちから同意のざわめきが起こる。
王(続けて)
「お前らのご先祖は戦場で命を賭し、この王国を守った。だがお前らは?誇るべき戦績を見せよ。そうしなければ、王や王妃の隣席など到底無理だ。」
貴族2が声を荒げる。
貴族2
「しかし彼は…彼はこの国の者ではありません!」
リュウガが静かに反論。
リュウガ
「そうかもしれませんが、ここにいる理由は戦い、守り、勝ち取ったからです。あなた方がいなかった場所で。」
沈黙が広がる。貴族3が苛立ちを顔に出す。
貴族3
「これぞえこひいきだ!王女の力だ!」
王(雷鳴のような声で)
「黙れ!もしも尊敬がなければ、お前たちを投獄していたところだ。それでも、まだ名誉を取り戻したいなら、次の任務に参加すればいい。言葉ではなく行動で示せ、さもなければただの寄生虫だ。」
貴族たちはうつむいて退場しようとする。だがその直後、王子が父に並ぶように一歩前へ進む。
王子
「リュウガ殿と戦いたいのなら、場所はここではありません。戦場で証明を。ここでは、到底勝てませんよ。」
群衆からは軽蔑と皮肉まじりのざわめきが湧く。貴族たちは顔を紅潮させ、やがて口を閉じて退出していった。
リュウガ、王に丁寧に頭を下げる。
リュウガ
「心から感謝します、陛下。我々が築いたものは絶対に守り貫きます。」
王は父親のような眼差しで答える。
王
「誰が愚か者でも、勇気と誠実があればその名誉は守られる。心配はいらない。」
その場を離れる貴族たちの背中から、ひとりが声をあげる。
貴族1(背中越しに)
「俺たちの血統には当然の権利がある!冒険者と同じ…?」
貴族2
「確かに!我らには高貴な血が流れている!」
リュウガは冷徹に答えた。
リュウガ
「口だけ達者でも意味はない。何かを成し遂げたなら見せてみろ。」
貴族たちの視線が鋭く揺らぐ。王は立ち上がるも、リュウガがさらに前へ出る。
リュウガ
「決闘しよう。一対一で、三人でも構いません。明朝、訓練場で。称号も守衛もなし。ただ実力で勝負してください。勝てば要求を認めましょう。負けたら、王にも王妃にも、そして民の前で謝罪してください。」
大広間中に衝撃が走る。貴族たちから動揺と怒りが交錯する中、王子も目を見開いている。
貴族2(牙を剥いて)
「承知した!勝てば奴を国外追放だ!」
王が杖を大理石に叩きつける。
王
「黙れ!これは遊びではない。正式な決闘だ。結果には責任が伴う。勝敗によって名誉は永遠に変わるぞ。」
貴族3
「ならば潔く受ける!」
リュウガは冷静に頷き、そのまま振り返る。周囲の視線が注がれる中、王子や姫たちも見守る。
プリンセス・ヴェル(囁くように)
「あの人だ…誰にも屈しないリュウガ…」
リシア(そっと隣で)
「彼らが本気を知らずに挑むなら…逃げるべきかもしれない。」
太陽が高く昇る中、城内に設えられた即席闘技場では緊張と期待が入り混じっていた。貴族、兵士、市民が岩の円形闘技場を取り囲み、囁き合っている。
貴族A(耳打ち)
「あれが本当に…あの外人か?」
貴族B
「見た目は普通…でも…」
待ちきれない子供たちが旗を振りながら叫ぶ。
子供1
「がんばって、リュウガおねえちゃん!」
子供2
「おにいちゃんだよ!」
アナウンスが響く。
アナウンサー
「第一試合開始。最初の挑戦者は、北の王国出身、一等剣闘士 サー・レオント・ヴァルドレス卿。使用武器、“赤風の二刃槍”。冬の大会優勝者!」
レオント卿がゆっくりと槍を構え、観衆に嘲笑うように視線を送る。
観衆の一部
「王女の趣味、大丈夫か?」
「馬鹿にできたものではないな…」
応援席では姫ヴェルが顔を強張らせる。アンとアイオも声援を送っている。
アン&アイオ
「リュウガおにいちゃんなら大丈夫!」
「がんばって、速い!」
リュウガは目を閉じ、深く静かに呼吸を整える。背中の剣がぴくりとも揺れない。
リュウガ(低く)
「行こうか…準備はいいか?」
そしてゴングが鳴り響いた。
レオントが槍を振るい、切っ先がうなるような優雅さで襲い掛かる。
レオント
「紅の槍舞、竜巻断!」
槍が風を切り裂き、木をも貫きそうな勢い。
しかし――リュウガはそこにいない。
**
一瞬後**、衝撃が肩に響き、続けて膝、胸へ――。
レオント
「何…?!」
リュウガ(背後から)
「鈍すぎる。」
全身に驚愕が走り、観衆は息を飲む。
レオントが槍を振りかぶり、“紅の翼舞”を解き放つ。
レオント
「紅の翼舞!これで終わりだ!」
しかしリュウガは一歩、二歩と前進した。
レオント(慌て声)
「馬鹿な…!」
槍が降り注ぐ瞬間、リュウガは指二本でそれを受け止めた。金属音が弾け、槍は真っ二つに――
場内は嘆声と共に静まり返る。
リュウガは剣を背に戻し、柔和な構えを取る。目がきらりと光る。
リュウガ
「武器が無くても構いません。」
レオントは怒りでむせびながら拳を振るったが、リュウガは美しい華麗なステップで避け、一撃の掌打を加える。
リュウガ
「百拳流 粉砕拳!」
稲妻のような連続した打撃が、百を一瞬で叩き込む。地響きとともに圧巻の威力。
レオントは膝をつき、頭から血を流し叫ぶ。
レオント(荒い息)
「信じられん…外国人…!」
リュウガは静かに見下ろし、
リュウガ
「お前の敵じゃない。ただ現実を見せただけ。」
そう告げ、闘技場の中央を歩いて去った。
観衆が一斉に歓声をあげる。
「リュウガ!」「王者だ!」「R-Y-U-G-A!」
貴族たちは目をそらし、王は満足そうに頷き、王妃は優雅に拍手を送る。そして――ヴェルは頬を赤らめた。
ヴェル(小声)
「バカみたい…彼、こんなにまで…」
リシアが隣で囁く。
リシア
「でも、またそうするはずよ。」
アンとアイオは抱き合いながら歓喜。
アン&アイオ
「おにいちゃん最高!」「速い!カッコいい!」
これで第一試合終了。
貴族たちの誇りは、確かに崩れ始めていた。
第2試合目:リュウガ vs ダーヴァン・クローン卿
城の訓練場に再び沈黙が走る。次なる対戦者がゆっくりと現れた。
黒の長コートにエンチャントされた金属装甲、腰には発光する魔導具がいくつも下がり、機械のような音を響かせながら歩く男。
「我が名はダーウァン・クローン卿。クローン家の嫡子にして、“鏡岩の賢者”の末裔。ルーン工学の達人である」
彼はメタルグローブを調整しながら高らかに宣言する。
観客席のカグヤが目を細めて言う。
「ただの剣士じゃない…あれは魔導技師よ。」
リシアも不安げに続ける。
「魔力防御、物理障壁、熱耐性、音波無効…しかも雷撃まで放てる…これは簡単じゃないわ」
ヴェルは拳を強く握りしめる。
「リュウガ…油断しないで…」
リュウガは黙って中央へ進む。静かに剣を抜き、構える。
ゴングが鳴る。
ダーヴァンは肩の装置を起動。青い魔力障壁が身体を包み、腕の魔導具が発光する。
「スペクトラル・トリプルショット!」
3つの魔弾が雷のように飛ぶ。リュウガは2発を剣で弾き、1発が腕をかすめる。
「これはただの挨拶だ!」
続いて次々と魔導具が起動。冷気噴射、音波衝撃が襲いかかる。リュウガは数歩後退し、地面に足を踏みしめた。
「力だけでは勝てない…ならば」
剣を掲げて詠唱。
「雷内法・双身の閃」
一瞬、彼の体が輝き、雷の分身が背後から生まれる。完璧にシンクロする“雷のリュウガ”がもう一人。
「分身か?甘いな!反射結界、ダブルリフレクション!」
ダーヴァンは鏡のような結界を展開。だが雷の分身がX字斬りを仕掛け、本体のリュウガが反対側から拳に電気を帯びさせ突撃。
「百拳流・轟撃掌!」
パンチが連続で炸裂。地面が振動するほどの威力。
ダーヴァンが呻く。
「ぐっ…!装置が…!?」
リュウガは静かに言い放つ。
「お前の防御は優秀だ…だが無限ではない」
剣から雷を送り、分身の力をさらに高める。
「極閃・極性雷撃!」
二人のリュウガが円を描いて回り、同時に拳と剣で全ての魔導具へ攻撃。
装置が悲鳴を上げる。
「そ、そんな…過負荷!?ルーン破損!?システムエラー!?」
結界が砕け、グローブが溶け落ち、ベルトの装置が爆発し煙を上げる。
ダーヴァンは膝をつき、メガネが割れ、ローブが焦げていた。
「ば、馬鹿な…完璧な計算だったのに…!」
リュウガは歩み寄り、静かに言う。
「意志なき技術は、覚悟ある者には勝てない。いい戦いだった」
背を向けて去る。
観衆が大歓声。
「リュウガ!リュウガ!」
「また勝った!」
「まるで青い雷だ!」
アンとアイオが跳ねて喜び、ヴェルがホッと息をつく。
「あの馬鹿…また無理して…ほんとにもう…」
セレステが笑みを浮かべる。
「もし次も勝ったら…誰も想像しないこと、しちゃおうかしら」
カグヤがにやりと返す。
「挑戦と受け取ったわよ」
第2試合、終了。
雷と技と信念で――
リュウガは“三連勝”へ、確かな歩みを進めていた。
戦場には張り詰めた空気が漂っていた。2人の貴族を圧倒的な力で打ち倒した後、リュウガは最後の挑戦者と対峙していた。
「…すでに仲間を2人倒したか」
銀髪に金の瞳、黒の甲冑に竜の紋章を刻んだ男が、静かに言った。
「だが、私は奴らとは違う。名をアズレル・フォーリアン・フォン・グレイロード。戦の血を継ぐ者。今日こそ貴様の傲慢を終わらせてやる」
観衆がざわつく。
その名は王都でも知られていた。
「アズレル・グレイロード?」と王子が驚きの声を漏らす。「北方戦争で消息を絶った将軍に師事していた男だ」
「危険すぎるわ…」と姉姫も眉をひそめる。
ヴェルは胸の高鳴りを抑えきれず、座席の端をぎゅっと握っていた。セレステ、カグヤ、クロ、アン、アイオ、リシアも、固唾をのんで見守っている。
ゴングが鳴る。
瞬間、アズレルが姿を消す。
「—第一の型:峯裂きの拳!」
黒い気を纏った拳が空を裂き、鋭い衝撃波がリュウガを襲う。
リュウガは体をひねって腕で攻撃を受け流す。その腕は青白い雷光に包まれていた。
「…空間圧縮型の転移技術? 貴様、ただの貴族じゃないな」
「当然だ。私は我が家の誇り、そしてこの国の未来。お前のような流れ者に遅れを取るものか!」
アズレルは片手に炎の鞭、もう一方に湾曲した剣を召喚する。
「—双竜流、終焉ノ舞!」
観客の目では追えぬほどのスピード。だがリュウガは一歩も引かない。
「ならば…容赦はしない」
リュウガの全身が青く光り、剣が雷の波動を纏う。
「—嵐の型:無響雷斬!」
直線の斬撃が三つの残像を生み、アズレルが防げたのはひとつのみ。残り二つがその体の両脇を切り裂いた。
「…ぐっ!卑怯な手を!」
「違う。技術だ」
怒りを爆発させるアズレル。黒紅のオーラを解放し、目が狂気に染まる。
「—第二核、解放!」
大地が揺れた。
背からは炎の翼。肉体は獣のように変貌する。
「—竜の獣・解放形態!」
彼は空中へと舞い上がり、魔炎の槍を次々と投げつけた。観客席には防護結界が張られ、緊張が高まる。
「逃がすか!」
だがその時、リュウガが左手を掲げる。
「—重力奥義:零点圧」
ゴォンッ!!
空中で止まる炎槍。わずか数センチを残して、完全停止。
そしてリュウガの姿が掻き消える。
「…どこだっ!?」
「—ここだ」
背後から聞こえる声にアズレルが振り返った瞬間—
「—百撃術・最終形:永雷墜翔!!」
雷と魔力の拳が、嵐のようにアズレルに降り注ぐ。空気を割るような轟音と共に、次々と炸裂する打撃。
「ば…馬鹿な…っ!!」
最後の一撃。雷の紋章を宿した拳が、アズレルを空へと吹き飛ばす。
上空でリュウガが待ち構えていた。
「—これが終焉だ。精霊圧縮術式:天壊一拳!!」
パァン!!!
空気が割れ、アズレルが地上に叩きつけられる。
—静寂。
—そして、爆発的な歓声。
「リュウガさま最強!」
「お兄ちゃんヒーローだ!」
ヴェルは両手で顔を覆い、クロは「…信じられない」と呟き、セレステは腕を組んで微笑む。
「一度はただの新人と思ってたのにね…」
カグヤも静かに頷き、アンとアイオは飛び跳ねながら叫んだ。
「やったー!」
「最高ぉぉぉぉ!」
王と女王は立ち上がり、王が宣言する。
「我々は今、この王国を守る者の真の勝利を見た!」
リュウガはゆっくりとアズレルへと歩み寄り、まだ膝をついている彼の前に立つ。
「…良い戦いだった。だが忘れるな。勝利とは傲慢ではなく、目的の先にあるものだ」
手を差し出す。
アズレルは数秒の沈黙の後、その手を取った。
「…お前は、他と違う」
「そして、お前にも伸びしろがある。自分を捨てるな。その力、無駄にするな」
雷鳴のような拍手と歓声が降り注ぐ中――
リュウガは、三戦三勝。
完全勝利を収めた。