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第34章 瓦礫と夢の中を歩く

朝の陽が中庭の柱の間から差し込み、金色の光となって、そよ風に揺れる花々を優しく照らしていた。

噴水のさざめきが響き、世界がようやく呼吸を取り戻したかのような光景だった。


アンは裸足で芝生の上を駆け回り、クリスタルのようなドレスが回転するたびに太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。

イオは穏やかな足取りで彼女の後を追い、中央に立つ彫像を静かに見つめていた。

少し離れた石の柱の上には、クロが座り、落ち着いたまなざしでその様子を見守っていた。


儀礼用の鎧を身にまとったエリラ姫は、三人を見ながら、優しさと好奇心の入り混じった表情を浮かべた。


「いつもあんな感じなの?」


アンはくるくると回りながら楽しげに笑った。


「お花が咲いてる時だけ! そして、平和な時だけね!」


クロは静かにうなずいた。


「無邪気に見えるけど……強い子たちだよ。彼女たちの戦いを、私は見た。忘れないで」


エリラは少し驚いたように微笑んだ。


「あなたも、決して弱くはないのでしょう?」


クロはまばたきしながら、少し考えてから答えた。


「昔は……選ぶことができなかった。でも今は……生きることを学んでる」


アイオは芝生に腰を下ろし、優雅に脚を組んだ。


「人は壊れて、初めて自分を理解することがあるの。あの日を覚えてる? 私は話すことすらできなかった。でも、あなたが守ってくれた」


アンはそっとアイオの手を取り、やわらかく微笑んだ。


「あなたも私を守ってくれた。ヒロインじゃなくてもいい……でも、できる限りがんばるよ。いつでも!」


エリラはしゃがみこみ、ふたりの髪をやさしく撫でた。


「ヴェルはいつも反抗的で、私はずっと規則に従ってきた。

でも……あなたたちを見てわかったの。

本当の強さは、誰かを守りたいという気持ちからも生まれるのだと。

クロさん、あなたもそれで戦ったのよね?」


クロは視線を落とし、小さくうなずいた。


「うん。これからも、私にとって大切なもののために戦うつもり」


エリラは小さく息を吐き、祈るような口調で続けた。


「お願い……剣や魔法だけじゃなくて、あなたたち自身の“個性”でも、お互いを守って。

闇の時代こそ、心を重ねれば、私たちはきっと乗り越えられる」


アイオは目を輝かせてうなずき、アンは感極まって彼女を抱きしめた。


「約束する! 私たち、キラキラチームになるんだよ! 星のケーキみたいに!」


エリラは笑った。


「そのお菓子、まだこの世界には存在しないけど……」


「じゃあ、私が作る!」

アンは胸を張って言った。


クロは少しだけ笑みを浮かべた。


「めちゃくちゃだけど……それが私の大切な“めちゃくちゃ”」

城のテラス ― 曇り空

城の高台にあるテラスで、アリクシオン王とカドリエン王子は再建中の街を見下ろしていた。

風に翻る破れた旗は、あの日の出来事が今も傷跡としてこの地に刻まれていることを物語っていた。


「積む石一つひとつが……まるで砂漠に撒かれた砂のようだ」

カドリエンが低く呟く。


「再建とは、信頼をもう一度蒔くことだ」

王は静かだが力強い声で答えた。


王子は声を落とした。


「……どうしてあんなことが起きたのか、まだ理解できません。なぜ……なぜ彼が、あそこにいたのか」


王は数秒の沈黙の後、牢獄の最新報告を求めた。


「クラヴァクは終身刑のはずだった……しかし逃げたわけではない。

魔法によって解き放たれた。意図的な“解放”だった」


重く沈んだ空気が二人の間に流れる。


「評議会の中に裏切り者が……それとも、もっと大きな力が背後に?」


王は目を細め、遠くの地平線をじっと見据えながら答えた。


「彼はただの駒だ。

……我々の“影”を熟知している者がいる。

そしてその影は、まだ消えていない」

市場の広場 ― 正午

リュウガは、質素な服を身にまとい、一人で広場を歩いていた。

彼は、ひび割れた噴水の前で立ち止まった。子どもたちの声が響き、焼きたてのパンの香りが空気を満たしていた。


通りかかった年配の女性が落とした果物のかごを、リュウガはそっと拾い上げた。


「ありがとうね……お嬢ちゃんは、ぐっすり眠ってるよ」

老婦人は、やさしく微笑みながら言った。


リュウガは頭を下げ、少し照れたように答えた。


「僕はただの普通の人間です……やるべきことをしているだけ」


その後、彼は壊れた荷車を市場の坂道で押し上げた。


「……本当に、役に立ててよかった」


やがて子どもたちが彼の周りを囲み、目を輝かせながら聞いた。


「ねえっ、あの化け物と戦ったのって、あなたなの!?」


リュウガは少し寂しげに微笑んだ。


「一人じゃなかったし……そんなに簡単なことじゃなかったよ」


子どもたちは笑い出し、広場の時計が正午を告げる鐘を鳴らした。


リュウガは空を見上げ、静かに呟いた。


「……これが、僕たちが戦った理由なんだ」


遠く、花に囲まれたバルコニーの上で、

ヴェルミラとリシアがそっと微笑みを交わしていた。


灰色の日々はまだ去っていなかった。

けれど、心の奥には――何か新しいものが芽吹き始めていた。


瓦礫と花びらの間で、

静かに、新たな明日が織り上げられていく。



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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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