第32章 歓喜の再会
闇の後には、必ず光が訪れる。
戦場はすでに遠く、今ここにあるのは——
ぬくもりと、笑顔と、言葉にされない約束に満ちた一つの部屋。
リュウガはゆっくりと目を開けた。
温かな感覚が彼を包んでいた。
シーツは絹のように柔らかく、ステンドグラス越しに差し込む朝日が、部屋を金色に染めていた。
ここはエレノア城。高い天井、金色の装飾、荘厳なシャンデリア——
生きている、そう確信させるものばかりだった。
「……俺、生きてるのか……?」
その声は、かすれた囁きだった。
腕を動かそうとして、胴体に巻かれた包帯に気づく。
その頭上にはホログラムのパネルが浮かんでいた:
【状態:回復中 – 最終決戦から1.5日経過】
【システム安定化中 – スキル《アンロック》起動 – 解析中…】
「《アンロック》……あれは、いったい……?」
喉が渇いて、声はかすれていた。
そのとき、扉がそっと開いた。
「お兄ちゃ〜ん!♫」
アンが勢いよく飛び込んできた。
短い赤髪が跳ねながら、パステルピンクのリボン付きパジャマを着た彼女は、遠慮もなくベッドに飛び乗り、リュウガに抱きついた。
「起きたんだね!よかったぁ!すっごく寂しかったんだから!」
リュウガは微笑んだ。
「アン……?元に戻ったのか?」
「うん!もうロボットみたいな喋り方しないよ!変な単語も言わないし!もう大丈夫!」
その時、アイオがふわりと入ってきた。
長いオレンジ髪に、輝く真紅のドレスをまとい、優雅に浮かぶその姿。
「ふふ……英雄の目覚めとしては、なかなか演出が派手ね」
「アイオも……無事なのか?」
「ええ。霧は完全に消えたわ。それより、朝ごはんを持ってきたの。食べないと……セレステが怒るわよ?」
二人は顔を見合わせて、くすくす笑った。
リュウガは彼女たちをやさしく見つめた。
「こうしてまた……君たちに会えて嬉しいよ」
「いつでも一緒だよ、お兄ちゃん!」
二人が同時にそう言った。
再び扉が開いた。
今度はクロだった。
落ち着いた装いに、背中には剣。
首輪はもう無く、その瞳には静かな決意が宿っていた。
「やっと目を覚ましたか……」
落ち着いた声。だが、その視線には深い想いがにじんでいた。
「クロ……無事でよかった」
彼女は頷き、胸に手を当てた。
「自由になった。あなたは敵じゃなかった。ただ……時間が必要だっただけ。ありがとう、リュウガ」
アンが目を輝かせてクロに駆け寄った。
「クロお姉ちゃん、すっごく綺麗になったよ!」
クロは少しだけ頬を染め、控えめに頷いた。
その時、セレステが現れた。
輝く軽装の鎧を身にまとい、驚くべきことに——その両腕は人間のものになっていた。
「……よく寝たみたいね、寝坊助」
その腕を自然に動かし、まるで最初から金属ではなかったかのように振る舞っていた。
「その腕は……?」
「《アンロック》の発動時、爆発の中で組織が再生されたって……魔法じゃない。あなたの力よ」
彼女はベッドのそばに座り、そっと彼の肩に手を置いた。
「ほんと……バカなんだから。全部失っても、必ず立ち上がるんだもん」
アンとアイオは顔を見合わせて小声でささやいた。
「セレステ、真っ赤だ〜」
「これって……プリンセスナイトの恋……?」
セレステは顔を真っ赤にして飛び上がった。
「な、なに言ってんのよ!!意味わかんない!!」
クロは腕を組み、皮肉気に微笑んだ。
「そういう見せ方は……反則よ」
リュウガは静かに笑った。
「みんな……無事でよかった」
セレステはふうっと息をつき、そっと尋ねた。
「ねぇ、リュウガ……その《アンロック》の力、これからどうするの?」
彼は天井を見上げた。
その目には疲労の影が残るも、確かな意志が宿っていた。
「……わからない。けど……きっと、すぐにまた必要になる」
しばしの沈黙——
だが次の瞬間、アンが声を上げた。
「じゃあさ、全部終わったら、いっぱいお菓子食べに行こうね!」
「それと、髪も結ってね〜!」
アイオがそう言ってぎゅっと抱きつく。
クロは小さく呟いた。
「ふぅ……にぎやかすぎるわね」
セレステは吹き出し、
そして本当に久しぶりに、部屋は静かな平和に包まれた。
——そう。
困難は、これからが本番かもしれない。
でも今はただ、それぞれの命が、ここにあった。
一緒に。
温かな部屋。
まだ交わされていない約束。
笑いがあって、愛があれば——
傷跡は、きっと早く癒える。
本当の「解放」は……
もしかすると、これから訪れるのかもしれない。