第306章 – 観客席の影
観客たちは拍手していた。しかしその拍手の中で…まばたきもせずに彼らを見つめる者がいた。
ヴォルテル闘技場は巨大な心臓のように震えていた。
前の戦いの余韻がまだ響いていた。
エクリプス隊の8人の女戦士たちは、埃と汗と誇りにまみれ、内部のトンネルを歩いていた。
クロはヘルメットを脱ぎ、氷のように光る青い瞳を露わにした。
「勝った…でも、まだ始まったばかりよ。」
リッシアは額の汗を拭きながら答えた。
「観客の目つき、気に入らない。あれは拍手じゃなかった。数えてたのよ。」
アオイは小さな手に残るエネルギーを見つめながら顔を上げた。
「数えてた?何を?」
セレステは上層のバルコニーからリュウガと共に眺めていたが、誰よりも早く気づいた。
「魂よ」彼女はささやいた。「私たちの魂を測ってるの。」
上層の特別席では、VERSEのメンバーたちが黙って立っていた。
リーダーのレンジ・クロサワは目を閉じていたが、その身体からは白く穏やかなオーラが放たれていた。
その隣には、ピンクの髪と虚ろな瞳を持つ時間の魔導士レイラが、かすかに口を動かしていた。
「…同期率98%。ただの人間じゃない。」
レンジは感情のない笑みを浮かべた。
「いや…だが、神でもない。」
影の中からもう一人の人物が口を開いた。淡い青髪で、目に光のない女性だった。
「介入しましょうか、リーダー?」
レンジは目を開けた。その瞳には、ほとんど神のような黄金の輝きが宿っていた。
「まだだ。遊ばせろ。盤面はまだ動き出したばかりだ。」
⚙️ 闘技場の廊下にて
リュウガは柱にもたれかかりながら、アリーナ上に浮かぶ魔力のオーブを見つめていた。
「女神のエネルギーが…強まってる。」
隣にいたミユキは、グリモワールを乾いた音で閉じた。
「ええ。この大会は勝者を決めるためのものじゃない…彼らを測るためのものよ。」
リュウガは彼女の方を向いた。
「測る…?」
「信仰、恐怖、そして殺す力。」ミユキは目を伏せた。
「日本にいたとき…女神はこう言った。“新世界の恩寵を与えるに相応しいのは、感情が安定している者だけ”って。今ならわかる。これは実験なの。」
廊下の反対側から、セレステが冷たい声で割り込んだ。
「なら…私たちは私たちのルールで戦うだけよ。」
リュウガは頷き、その目を鋭くした。
「女神が“見世物”を望むなら…見せてやろう。」
薄暗く光の届かない高い観客席に、一人のフードをかぶった人物がゆっくりと立ち上がった。
その黒いマントは埃と乾いた血にまみれていた。
手首にはイアト帝国の紋章が刻まれたペンダントが揺れていた。
誰にも理解できない言語で、何かを低くささやいた。
空気が歪み、ベンチの下から霧のように這い出るように十数体の影が現れた。
「まもなく…この大会は、血で染まる。」
宿に戻った彼女たちは、緊張した笑いと疲労が混ざり合った空気に包まれていた。
アオイはクッションを抱いて眠っていた。パールはホログラムで戦闘の統計を確認していた。
スティアは武器の大砲を磨きながら、機械的で音程のずれたメロディーを口ずさんでいた。
ヴィオラは窓辺で紅茶を飲みながら、通りを眺めていた。
セレステは一人、バルコニーで遠くにまだ光るコロシアムを見つめていた。
ミユキが静かに近づいた。
「眠れないのね。」
「あなたもでしょ。」セレステは振り向かずに答えた。
沈黙。夜風の音だけが流れる。
ミユキはグリモワールを握りしめた。
「リュウガ…女神に連れ去られる前、どんな気持ちだったって言ってた?」
セレステは目を閉じ、まつ毛が震えた。
「言ってたわ。」
「何て?」
「空が…裏切りの匂いがしたって。」
その瞬間、ヴォルテルの空が裂けた。
黄金の光が空を貫き、コロシアムへと落ちた。
爆風が街全体を揺るがした。
神殿の鐘が、切迫したように鳴り響いた。
リュウガは椅子から飛び上がり、地平線を見つめた。
「これは…普通の魔法じゃない!」
クレーターから巨大なオーブが現れ、全ての者の心に直接語りかける声を放った。
それは、すべての生者の思考に反響するような声だった:
「次の戦いは、真実のための戦い。
そして、お前たちのうちの一人は…魂を持って帰ることはできない。」
ミユキの顔から血の気が引いた。
「この声…女神の声よ。」
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