第302章 – 「見つめる影」
「未来のために戦う英雄もいれば、
ただ見つめるだけの者もいる。
すべてが、また始まる時を待ちながら。」
鉱山の轟音は、数キロ先にまで響き渡っていた。
魔力を含んだ灰色の塵が、まるで灰の夜明けのように空へと昇り、
リュウガたちの攻撃が深淵の獣にぶつかるたび、空気が電撃のように裂けた。
遠く離れた丘の上――石のアーチの陰に立ち、ヴァースの一団は沈黙のままその戦いを見守っていた。
リーダーであるイツキは、槍を地面についたまま、
戦場の光をその瞳に映しながら、微動だにせず佇んでいた。
水色の髪を揺らすイリスが、魔力測定装置を操作してつぶやく。
――エネルギー反応……常識外れです……
あの男、リュウガ……彼の命核は人間のスケールを超えて揺れています。
――驚くこと?――とレイナが腕を組んだまま呟く――
もし女神が彼を「抹消」しようとしたのなら、それなりの理由があるってことでしょ。
黒髪に赤のメッシュを持つサリアが、小さな水晶を弄びながら笑う。
――あるいは、女神じゃなかったのかもね。
盤面を動かしたのは別の誰かで……
あいつらは、死を拒んだ駒にすぎない。
重たい沈黙がその場を包む。
イツキの視線は、なおも戦場に注がれていた。
ガレオン、アンドロイド、リュウガ、セレステ、そして仲間たちが完璧な連携で戦っている。
地面は一撃ごとに震え、遠くではプリズム状の光が空を裂き、
根と魔力の壁が爆風を吸収していた。
――規律があるな――とイツキがようやく口を開いた――
彼らは冒険者じゃない……戦を知る軍隊だ。
イリスがレンズを調整し、セレステをズームする。
――あの女性……装備が、相反するコードでできてる。
まるで、二つの魂を同時に宿しているみたい。
――そして、彼女を導く男――とレイナが言う――
まるで一度死んだ者のように戦う。
サリアが短く笑う。
――なら、この腐った世界にはぴったりね。
そのとき、爆風が丘にまで届き、
石が転がり落ち、煙と叫びと炎が空気を満たす。
深淵の獣が、最後の咆哮を上げて崩れ落ちた。
イリスが静かに尋ねる。
――動きますか?
イツキは首を横に振る。
――いや。
今日ではない。
ヴァースの目的は、迷える者を殺すことではない……
彼らを導く「何か」を見極めることだ。
――何が見えたの?リーダー――とレイナが尋ねる。
――すべての道がヴォルテルへ続くと、まだ気づいていない男だ。
そして――とセレステを見ながら続ける――
宇宙を一つの身体で背負っている女、だ。
誰も、言葉を返さなかった。
イツキはくるりと背を向けた。
白のマントが、灰の風にたなびく。
――引くぞ。
女神が我らに与えたのは「翼」ではない。「眼」だ。
次の一手は……影から見る。
サリアが眉を上げる。
――もし追ってきたら?
イツキは微かに笑った。
――到着前に、すでに去った者を誰が追える?
ヴァースの一行は、塵の中に消えていった。
残った足跡は、数秒後には風に消されていた。
鉱山の下、リュウガは荒い息を吐きながら、敵の残骸を見下ろしていた。
ウェンディは負傷者の脈を測り、アイオとアンが協力して小さな火を魔法で鎮火していた。
セレステは姿勢を崩さず立っていたが、視線は遠く――丘の彼方へ向けられていた。
その一瞬だけ、彼女は何かを見た気がした。
白いシルエット――幽霊のように静かな人影。
――セレステ?――とリュウガが呼ぶ。
彼女は静かに首を振った。
――何でもない。
ただ……風よ。
だが心の奥では、彼女は確信していた。
誰かが、彼らを見つめていたと。
そして地平線の先――
朝日がヴォルテルの廃墟を照らし始めた。
まるで世界が、次の幕を開ける準備をしているかのように。
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