第301章 – 「意思の衝突」
ヴォルテル鉱山の空気は重く、粉塵と、まるで意思を持つかのような地鳴りが充満していた。
鉱石の破片が紫の輝きを放ち――あまりにも純粋で、あまりにも完璧――まるで誰かが意図的に蒔いたかのようだった。
医療用バイザーで周囲を観察していたウェンディが眉をひそめる。
――これは自然じゃない……魔力放射の値が、エルサスの心臓部と同じ。
――また偶然?――とヴェルがグローブを締めながら言う。
――この世界に偶然なんて、そう何度も起こらない――とウェンディは低く呟いた――。起こる時は、誰かが仕掛けてるのよ。
リュウガは遠くの地平線を見据えたまま頷いた。
赤い砂塵が風に運ばれ、その中に……影が現れる。
向かいの道から進んでくる十数人の冒険者たち。
先頭には、槍を持ち白いマントを纏った人物。
誰より先に、リュウガはその姿を見分けた。
――イツキ・ヴァース……。
隣のセレステが身を固くする。
――つまり、彼らね。
両陣営はわずか数メートルの割れた岩と潜在するエネルギーを隔てて対峙した。
最初に声を発したのは、ピンク髪の少女レイナだった。
――奇遇ね……深淵の鉱脈を探してたら、その発端と出くわすなんて。
――発端?――とカグヤが冷たく返す――。言いたいことがあるなら、遠回しにせず言いなさい。
イツキが槍を下ろし、地面に突き立てた。
その音は、まるで裁きの鐘のように響いた。
――巫女ミユキは、どこだ?
リュウガは数秒、無言で彼女を見つめた。
その沈黙は、どんな言葉よりも重かった。
水色の髪のイリスが一歩前へ出る。
――じゃあ、やっぱり……彼女を堕落させたのは、あなたたち……。
ウェンディが一歩前に出て、金属の翼を広げた。
その視線は鋭く、威圧に満ちていた。
――言葉に気をつけな、坊や。誰も、誰かを堕落なんかさせてない。
――じゃあなんで彼女は、あなたたちと一緒にいるの!?――とレイナが叫ぶ。目が怒りと悲しみで光っていた――。ミユキはヴォルテルの英雄よ! 私たちの仲間だった!
セレステが氷のような冷静さで口を開く。
――彼女が、そう「選んだ」から。
自由な意志を理解できない者もいるでしょうけど。
冒険者たちの間にざわめきが広がる。
手は武器に伸び、核が充填を始める。
リュウガが手を掲げた。
――戦う気はない――と言った。だがその声には、微塵の弱さもなかった――
だが攻撃されれば、応じる。
イツキは長く彼を見つめた。
風が吹き、砂を払い、地面に刻まれた印が露わになる――
それは、深淵の螺旋と同じ紋様。
誰もが言葉を失った。
ウェンディが最初に気づいた。
――……呼ばれたのね。
――えっ?――アイオが困惑して問う。
――鉱石、噂、任務。全部が誘導よ。
リュウガがイツキを見据える。
――狩人だったのは、君でも僕でもない。
――なら……――イツキが低く呟く――俺たちが、獲物ということか。
地面が震えた。
その印から、異形の獣が姿を現す。
鉱石と肉の融合、半分は鉱物、半分は意識。
人の声で構成されたような咆哮を上げる。
緊張の糸が切れた。
――全員、後退!――リュウガが叫ぶ――。陣形を整えろ、今すぐに!
ヴァースとリュウガが一瞬だけ視線を交わす。
冷たく、だが理解のこもった一瞥。
今は、憎しみの時間ではない。
セレステは緑のオーラを解放。
クロは月光共鳴を起動。
アイオはキャノンを構え、カグヤは壁を走り、
イツキは槍に聖なるルーンを纏わせる。
レイナ、イリス、サリアは支援位置に展開。
数秒で、鉱山は混沌の渦に包まれた。
浮かぶ岩、叫び声、閃光、煙。
その中でリュウガが叫ぶ:
――生き延びたなら、俺の言葉を聞け!
ヴォルテルの英雄すべてが偽りだったわけじゃない!
イツキが獣に跳躍しながら応じる:
――ならば証明しろ……お前も、まだ“俺たち”の一人だと!
そして、両陣営のリーダーが、同じ敵へと突撃した。
禁断の鉱山は、かつての仲間と新たな敵が、
互いの立場すら分からぬまま、肩を並べて戦う戦場となった。
深淵の底では、その獣よりも大きな“何か”が、
彼らを見つめていた。
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