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第299章 –「狂気の鼓動」

「古すぎる精神が目覚める時、世界そのものが夢を見る。」

エルタスの心臓が再び鼓動を打ち始めた。

一度、二度、三度。

そのたびに冒険者たちの骨に戦太鼓のような響きが走る。

だがそれは「思考の戦争」。

空気すら、他者の思念で震えていた。


膝をつくリュウガ。

セレステは荒い息を吐きながら周囲をスキャンする。


―あれはただの精神喰いじゃない……

―あれはコロニー意識体だった……

―いまやその意識は、全域に拡散してる……


遠くで轟く唸り声。

大地が裂け、巨大な存在が現れた。

半透明の皮膚を持ち、その内部には無数の脳が浮かび、脈動している――

脈打つ“狂気”そのものだった。




西の坑道。

老練のオーク、ガルン・アーセン率いるチームは壊滅寸前だった。

仲間の半数は既に失われ、トンネルは“動いて”いた。


―撃つな! まだだ!


叫んだが遅かった。

矢が放たれ、空を裂いた。


地面が揺れ、闇の中から無数の「死のワーム」が現れた。

喉から紫の煙を吐き、白濁した目で這い寄る異形たち。


セドリンが火壁を召喚したが、奴らは炎を恐れずに突っ込んできた。


―なら来いよ、化け物ども! 食われるくらいなら戦って死ぬ!


オークが咆哮し、地獄のような戦場が広がった。

火と毒と肉片の渦の中、地面が呻き声を上げる。

まるでアビス自体が苦しんでいるようだった。




北部のエリアでは、エルタ砂漠出身の剣士たち「ラベル隊」が異なる敵と交戦していた。


敵はかつての仲間たち――

精神ゾンビと化した遺体が、意味不明の言葉を繰り返す。


「脳は種子……」

「信仰は肉を育てる……」

「すべての思考はアビスのもの……」


リーダーのラベルは憤りに震える。

蒼く輝く剣を握りしめた。


―くそ……俺たちは兄弟だったはずだろ!


若い仲間のカエルが彼を制止する。


―躊躇すれば、殺される。


―ならば、やってみろ……!


怒りと哀しみの舞踏。

生者と死者が血のトンネルで刃を交わす。

最後に残ったのはラベルただ一人。

煙の中で、涙を流しながら笑う。


―もう分からない……俺が殺したのは敵か、記憶か……



浮遊する遺跡を進むイツキ・アマカゼとその3人の従者。


重力は歪み、地面は天へと湾曲する。

一歩ごとに幻覚が彼らを包む。


レイナは死んだ母が語る姿を見、

サリアは目の海を渡り、

アイリスは無数の声に名を呼ばれ続ける。


イツキの神聖なオーラが皆を支えるが、その光さえ揺らぎ始めていた。


―陣形を崩すな! これは幻だ!


だが彼の背後に現れる「もう一人の自分」。

髪が触手となった、影のイツキ。


「英雄よ……お前が自由と、誰に言われた?」


イツキはそれを槍で貫く。

影は砕けるが、破片から囁きが響く。


「裏切り者……偽りの聖者……神の操り人形……」


サリアは静かに呟く。


―深淵は嘘をつかない。ただ、あなたが否定した真実を見せるだけ。



デルタ隊のアンドロイドたちは、エルタスの核を安定化させようと奔走していた。


その時、レーダーに新たな信号。

物理的存在ではない、精神の嵐。

それは――無数の“声”だった。


―これ……助けを求めてるわ……


ナヤが報告する。


―違う……

アズが青ざめる。

―これ……あのデスエラメントが“喰った”精神よ。

今もまだ、生きてる……


ヴィオラは沈黙し、点滅する光を見つめた。


―解放すれば……殺してしまう。

―解放しなければ……苦しみ続ける。


フローラは目を閉じて呟く。


―時に、慈悲もまた残酷。


ヴィオラが決断を下す。


―ならば……その声を、終わらせよう。


「エーテル・ゼロ」起動。

白の波がトンネルを包み、すべての囚われた意識を静かに断ち切る。


その静けさは、まるでデジタルの墓地だった。




全ての意識が一斉に沈黙した瞬間――

リュウガは“死の声”を感じた。


何千もの思念が消える音。

ミユキは鼻血を流しながら倒れる。


―多すぎる……魂も……記憶も……


クロが叫ぶ。


―来るぞ!


ゾンビ、蟲、マナの影が四方から押し寄せる。


アンとアイオは完璧な連携で戦う。

光と時間の魔法が舞い、ウェンディの医療砲が支援する。


リュウガは中心で、すべての命を注ぐ。


―これが精神ならば……俺が“封じる”。


青い炎が彼を包む。

全体に広がる巨大な封印。

全てが止まり、世界が凍ったように静まる。


封印は閉じた。

そしてリュウガは、崩れ落ちる。


セレステが彼を抱き起こす。


―また自分の命を使って……


彼は微笑んだ。


―あれを黙らせなきゃ……

―目覚める前に……


7. 安らぎではない静寂


残された者たちは、ゆっくりと集まる。

死体、瓦礫、焦げたマナの臭い。

すべてが静かだった。


血まみれのガルン。

意識の朦朧としたラベル。

沈黙のまま降りてくるヴァース。

修復中のデルタ隊。


そして、傷ついた英雄リュウガ。


セレステが口を開く。


―私たちは“底”を見た。

―あれが目覚めれば……王も、神も、英雄も消える。

―残るのは、“飢え”だけ。


イツキは何も言わず、リュウガを見つめる。

そして小さく呟く。


―ならば……誰かが、その敵でなければならない。

最後まで。

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この物語はメキシコ出身の作者「ジャクロの魂」によって執筆されています。 お気に入り・評価・感想などいただけると、物語を続ける力になります! 応援よろしくお願いします!
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