第293章 ― 深淵への競争
翌朝、ヴォルテルの冒険者ギルドは再び喧騒に包まれていた。
ギルドマスターが中央の壇上に上がり、厳しい表情で新たな巻物を掲げた。
―S級任務「ヴォラスの地」に登録した冒険者たちに告ぐ! ―と彼は高らかに宣言した。
―この任務は、ヴォルテル評議会の直接命令により更新された!
ざわめきがぴたりと止む。
―本日より、複数の上位ランクパーティーが同時に任務に挑むこととなる。制限時間は三日間。
生きて帰還し、「呪われた黒曜石」と「星晶石」を最も多く持ち帰った者が、プラチナへの昇格を得る!
その場の冒険者たちは凍りついた。三日間。
ほとんど誰も戻ってこない場所で。
リュウガが腕を組んだ。
―これはもう…死のレースだな。
セレステが頷く。
―ギルドも分かっててやってる。誰が最初に死ぬかを見るだけよ。
ギルドマスターは続けて、いくつかの魔法印を展開し、参加パーティーの紋章を映し出した。
―これが正式登録されたチームである:
ヴァース ― ダイヤランク。「女神の選ばれし者」
ヴォルテルでも名高い英雄たち。力と傲慢さで知られる。
クリムゾン・ファング ― プラチナランク。「紅牙」
近接戦闘の達人たち。ドラゴンハンターとしても有名。
シルバー・ハウル ― プラチナランク。「銀の遠吠え」
魔法使いと弓兵の混成部隊。数々の奇襲を生き延びた伝説を持つ。
ブラック・ヴェール ― ゴールドランク。「黒のヴェール」
アルトニア出身の暗殺者集団。素顔を知る者はいない。
リュウガ一行 ― シルバーランク。「未分類」
未知のグループ。異国より最近現れた謎の存在。
嘲笑がギルド内に響き渡った。
―シルバーがヴァースや紅牙と戦うって!? ―冒険者が笑う― 火山に飴投げ込むようなもんだな!
カグヤが鼻で笑った。
―いいじゃない。隠れる必要がなくなる。
ヴェルが上品に笑みを浮かべる。
―やつらが見せ場作りに夢中な間に、こっちは仕事を終わらせるさ。
ギルドマスターが杖で床を叩き、魔法陣を発動させると、ヴォラスの谷の立体図が浮かび上がる。
―ヴォラスの深淵は三つのゾーンに分かれている:
外縁部:汚染された山岳地帯。極端な気候と凶暴な獣が蔓延る。
中層部:古代の遺跡。無数の罠と不安定な磁場が存在。
中心部:深淵の核。空気そのものが魂を蝕む呪いの領域。
―各パーティーには、専用のポータルが割り当てられる。通信の有効範囲は半径500メートルまで。
そして忘れるな…任務の妨げとなるなら、他チームの排除も禁じられてはいない。
ささやきは恐怖へと変わり、沈黙が重くのしかかった。
リュウガが顔を上げ、迷いなく言い放つ。
―もう決まったな。ただの採集じゃない…他の全員を、生き残って超えるんだ。
ギルドの広場には次々とポータルが展開され、各パーティーが準備に追われていた。武器、魔導印、ポーションが確認されていく。
アンは「塩の姫」らしいマントを整え、
アイオはウェンディにもらった緑のマフラーを首に巻いていた。
セレステは鎧の魔力供給を確認し、スティアは轟音を立てる重火器の調整に集中する。
―制限時間:72時間 ―ウェンディが魔導クロノメーターを見ながら告げる―
戻らなければ、ポータルは閉ざされる。
クロは黙って剣を背負い直した。
―つまり、ミスは一つも許されねぇってことだ。
遠くから、ヴァースが静かにこちらを見ていた。
リーダーの男――白髪に銀の瞳を持つ英雄は、腕を組んで口を開いた。
―あれが噂のグループか。
以前リュウガを見た茶髪の少女が小さく笑う。
―思ってたより…面白そうね。
ギルドマスターが手を高く掲げる。
―S級任務「ヴォラスの深淵」…開始! 女神が、貴殿らの魂に慈悲を与えんことを!
ポータルが青い光を唸らせて開かれる。
各パーティーが次々と、地獄へと身を投じていく。
そして、リュウガたちの番が来たとき――
彼は仲間たちを見渡し、冷たい静けさの中で言い放った。
―誰も死なせない。誰も置いていかない。
仲間たちは無言で頷いた。
そして、光の中へ――全員で踏み込んだ。
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