第292章 ― 無謀なる者たちの登録
ヴォルテルの冒険者ギルドは広大な建物で、有名なクランの紋章が描かれた旗がそこかしこに掲げられていた。空気は鉄と革、そして松明の煙の匂いに満ちていた。
リュウガたちが中へ入ると、すぐに注目を集めた。名声によるものではなく、その見た目の奇妙さゆえだった。
白い色合いのコートを着たアンは、緊張しながらマフラーを直している。
アイオは小柄で笑顔を浮かべ、現代的な帽子と日本風のイラストが描かれたTシャツを着ていた。
隣を歩くセレステは、輝く鎧を身にまとい、気品ある落ち着いた表情。
ウェンディは、自作の魔導端末を操作していた。
受付の男は眉をひそめて彼らを見た。
―パーティー名は?
リュウガが腕を組んだ。
―まだ無しでいい。「ヴォラスの深淵」の任務に登録してくれ。
書記官が咳き込みそうになった。
―なっ…!? あれはS級任務だぞ! シルバーランクじゃ到底――!
クロが自分の認証札を無造作にテーブルに置いた。
―じゃあ、次の死体候補って書いとけ。
沈黙が広がる。ギルド内の冒険者たちが笑い始めた。
―冗談だろ? ―ある者が笑いながら言った―。ガキとアンドロイドとユニコーン、それに死人みたいな顔の男がヴォラスに行くってよ!
ヴェルは片眉を上げ、落ち着いた笑みを浮かべた。
―ああ、生きて帰ったら、俺のブーツを磨いてもらうぞ。
笑い声は次第に気まずいざわめきへと変わった。
受付の男はため息をついた。
―分かった…だが“責任放棄契約書”に署名が必要だ。死んでもギルドは責任を取らない。
リュウガは一瞬も迷わずペンを取った。
―構わないさ。どうせ今までだって、誰も責任なんか取っちゃいない。
メンバーたちは一人ずつ署名していった。アイオは名前の隣に花の絵まで描いた。
登録の確認を待つ間、周囲のテーブルから冒険者たちの視線が注がれる。
その多くは嘲笑、あるいは興味本位だった。
―見ろよ、まるでサーカス団だな。
―ヴォラスじゃ一晩ももたねぇよ。
セレステは振り返ることなく冷たい声で返した。
―ゴールド止まりの奴らがよく喋るわね。
ウェンディがくすっと笑った。
―ほっときなさい。凡人には、理解できないものを笑うしかないのよ。
アイオが手を挙げる。
―ぼんじん? それって美味しい?
皆が思わず笑い、空気が少しだけ和らいだ。
受付の男が、ため息混じりにギルドの紋章で書類に印を押した。
―よし、完了だ。君たちは正式に、S級任務「ヴォラスの深淵」へ登録された。
その場にいた冒険者たちは静まり返った。誰かが祈りを捧げ、誰かは苦笑を浮かべる。誰も口には出さなかったが、全員が思っていた。
「こいつら、正気じゃない。」
その夜、宿屋での夕食は静かだった。昼の滑稽さが消え、部屋には不安の空気が漂っていた。
最初に口を開いたのはヴェルだった。
―本当に…あの場所から戻って来られると思ってる?
リュウガは水を一口飲んでから答えた。
―分からない。でも俺たちが行かなくても、誰も行かない。
セレステが真剣な眼差しで彼を見つめる。
―本当に、あんたって…変なところで人を動かすわね。
カグヤが鼻で笑った。
―でも、嘘は言ってないわ。
アイオはテーブルにもたれ、うとうとしながら呟いた。
―わたし…みんなを信じてるよ。
その一言が、皆の動きを止めた。
ウェンディは優しく彼女の髪を撫でて微笑んだ。
―なら、恐れる理由なんてないわね。
リュウガは目を閉じ、静かに息を吐いた。
―今夜は休め。明日、出発だ。
カメラは引いていき、月明かりに照らされた宿屋が映し出される。外では、ギルドで交わされた嘲笑や囁きが風に流されていた。
そして近くの建物の屋上――
そこから、あの茶髪の少女が静かに彼らを見下ろしていた。緑の瞳がわずかに細められ、唇に小さな笑みが浮かぶ。
―これが…女神が言っていた“異国の者たち”か。
―ヴォラスで、どれだけ持つか見ものね。
読んでくれてありがとう。本当に感謝してるよ。
何か気に入ったシーンやセリフがあったら、ぜひ教えてね!