第288章 ― 囁きと疑惑のあいだで
月がヴォルテルの空に浮かぶ夜、リュウガたちはギルド近くの宿に到着した。
受付の女性は、彼らの姿に一瞬言葉を失う――アンドロイド、日本の現代服を着た少女たち、ユニコーンの姫、そして人間のふりをするメカニカルな存在まで。
「そ…それって鎧? それとも折りたたみベッドか何か?」
受付嬢がスティアを見て尋ねた。
「私は…効率です」
ロボットはそう言うと、錆びたコインをカウンターに置いた。
アイオは、8歳児のような現代風の服(ショートパンツとカラフルなTシャツ)でカウンターによじ登ろうとし、アンは「魔法少女ゴシック」風の衣装でそれを叱る。
「それは日本の礼儀じゃないわよ、アイオ!」
「でも楽しそうなんだもん!」
とアイオが笑顔で返す。
巫女であるミユキは静かに様子を見守っていたが、受付が名簿に名前を書く最中、そっとリュウガに耳打ちした。
「あなたのことは、誰よりも私が知ってるわ。」
それを聞いたセレステは舌打ちし、顔をそむける。アンとアイオは困惑し、カグヤはくすっと笑った。
ナヤとリーフティは「ベッドとは休む場所か、それとも人間のパーツ整備の場所か」で小競り合いを始める。最終的にスティアが無表情で言った。
「エネルギーポート付きのベッドが必要です。」
受付嬢は頭を抱える。
読者は笑いながら、日常と非日常のコントラストを楽しむ。
その頃、ヴォルテル王国の大広間では、女神が評議会と会議を行っていた。
松明の炎が真剣な顔を照らし、地図には赤い印が散らばる。テオ王国――地図上から消され、今は廃村に過ぎない。ダイヤモンドの塔――数百年ぶりに再起動。そして、現実となったイアット帝国の兵器「エクリプス」。
「テオ王国は、もはや存在しない。」
老いた評議員が机を叩く。
「だが、それでもダイヤモンドの塔は動き出した。新しい王も現れ、同盟も結んでいる。それは大事だ。」
女神は沈黙したまま話を聞いていた。
一人の騎士が巻物を手に前へ出る。
「我らが送り込んだ英雄たちが報告しました。イアット帝国は、王国全体を脅かす兵器を製造していた。そして…もう一つ、問題があります。」
場の空気が凍る。
「…巫女はどうなった?」
女神が震える声で問う。
騎士は視線を落とし、答える。
「ミユキ様は行方不明です。他の英雄たちと合流していません。死亡説もありますが…一部では、捕らえられたとも…」
女神は拳を握り、机に置いた。目には怒りと不安が宿る。
「彼女は…世界を繋ぐ鍵だったのよ。彼女がいなければ、ヴォルテルの運命は大きく揺らぐ。」
評議員たちはざわめき出す。戦争を恐れる者、城壁の強化を求める者。
女神が声を張り上げた。
「どうあれ、均衡は崩れた。テオは滅び、塔は蘇り、エクリプスは現実となり、そして…英雄の一人が消えた。」
彼女は立ち上がり、背後に神の光を背負って言う。
「過小評価するな。恐らく――最悪は、まだ始まってすらいない。」
場面は再び宿屋へ。
リュウガたちは夕食をとりながら、「誰のいびきが一番うるさいか」で笑い合っていた。
だがミユキは静かにリュウガを見つめ、心に秘めた謎の笑みを浮かべていた。
場面転換。女神は評議室の窓辺に立ち、光る街を見下ろす。
唇がかすかに動く。風がその囁きをさらっていく。
「…ミユキ。あなたに何が起きたの…?」
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