第287章 ― ヴォルテルの夜
宿屋の扉が閉まり、賑やかな通りの音が背後に遠ざかっていった。
新しく塗られた木材とスパイスの香りが漂う館内。広々とした受付にて、口ひげをたくわえた宿主が緊張気味の笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ…皆さん全員でご宿泊でしょうか?」
大所帯に目を丸くしながら尋ねた。
リュウガがうなずいた。
「そうだ。部屋をいくつか頼む。」
宿主は記録簿をめくりながら冷や汗をかく。
「大部屋が3つ、中部屋が4つございます。ただ…皆さまが全員泊まるとなると、それなりに高くなりますが…」
リュウガが懐から財布を探そうとした瞬間――
フローラが無言で数枚の金貨をカウンターに置いた。
「私が払うわ。」
その瞳には迷いもなかった。
「これは…ヴォルテルの安全への投資と思ってちょうだい。」
宿主は驚き、そしてすぐに感謝の笑みを浮かべた。
「もちろんでございます、お嬢様。」
階段を上がると同時に、騒動が始まった。
アンが真っ先に手を上げた。
「アイオと同じ部屋じゃなきゃイヤー!」
「当然でしょ!」とアイオが胸を張る。
「私はファッショニスタの妹なんだから!」
ウェンディが腕を組み、いたずらっぽく笑った。
「じゃあ私はリュウガと一緒の部屋ね。お医者さんとして、怪我のチェックをしなきゃ。」
「それはズルい!」とすぐさまセレステが反応。
その目はキラリと光る。
「私も彼のそばにいなきゃ!」
カグヤは舌打ちし、ニヤリと笑った。
「まったく…“自称ドクター部屋”ができそうね。」
パールは冷静に手を挙げた。
「各部屋に信頼できる者を配置することを推奨します。安全第一です。」
スティアが両腕(というか砲台)を持ち上げて言った。
「俺は廊下で寝て、全員を守ろう!」
その言葉に、宿の他の客たちは飛び跳ねるほど驚いた。
リュウガは額に手を当て、深いため息をついた。
「……制御不能になってきたな。」
巫女・ミユキが静かに近づき、柔らかく微笑んだ。
しかしその青い瞳は、どこか危うい光を宿していた。
「リュウガくん…どこで寝ても構わないわ。でもね…私は必ず、あなたの近くにいるから。」
その声に、場の空気が一気に凍りついた。
アンがアイオに小声で囁く。
「…あの巨獣より怖くない…?」
「しーっ!聞こえるよ!」
アイオはピタリと動きを止め、震えていた。
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