第285章 ― ヴォルテルでの登録・後編
グループが登録を終えようとしていたとき、ギルドのざわめきが徐々に静まり返っていった。
まるで、空気を裂くような鋭い視線が彼らに突き刺さったかのように。
二階の手すりに寄りかかりながら、ある若い女性が軽い笑みを浮かべつつ、じっと彼らを観察していた。
茶色のセミショートの髪、深緑の縁が入った黒いジャケットにぴったりとしたグローブ。
いつ戦闘になってもおかしくないような、機能的な装いだった。
彼女の目がまず止まったのは、アイオ。
日本の夏祭りにいそうな、8歳の少女風の軽やかなスカートとカラフルなプリントのジャケット、そして中世風のこの世界にまったく馴染まないスニーカー姿。
次にアン。真紅の都会風ブラウスにぴったりしたパンツ。
そしてウェンディは、まるでスタイリッシュな女医のような白衣姿。
その光景を見て、彼女は小さくくすっと笑った。
「面白いわね」
その声は感情を削ぎ落としたように平坦で、金属的な響きを持っていた。
「この世界に合わない服装…。変装のつもり? それとも目立ちたいだけ?」
アンは顔をしかめて一歩前へ出た。
「関係ないでしょ。」
カグヤが警戒の目を向けながら、刀の柄に手を添える。
「……誰だ、お前は?」
その少女は階段をゆっくりと降りてきた。視線は微塵も逸らさない。
「ただの観察者よ。異邦人たちがどんな格好で現れるか、ちょっと気になっただけ。……でも、正直ね、そんなに場違いだと目立って当然よ。」
ギルドの中に再びざわめきが戻る。何人かの冒険者がそっと距離を取った。
まるで、誰かが火花を散らすのを恐れているかのように。
セレステが冷静な目で彼女を見つめ返す。
「何が言いたいの?」
少女は首を傾げて、どこか愉快そうに答えた。
「別に。ただ観察してるだけ。……あなたたちが、どれくらいこの地に“持ちこたえられる”かってね。」
そう言って、くるりと背を向けた彼女は、完璧な足取りで出口へと歩いて行く。
そして扉の前で一言だけ、まるで予言のように告げた。
「また会いましょう――生き延びていれば、だけど。」
クーロは歯を食いしばる。
「チッ……あいつ、何者だ。」
震える指で唇を押さえていた受付嬢が、小声で告げた。
「彼女は……“ヴァース”のメンバー、エリラです。」
リュウガの身体がわずかに強張る。
彼女が現れた瞬間に空気が変わった理由が、今やっと分かった。
“ヴァース”――それはただの名前ではない。
ヴォルテルという国において、“英雄”とは限らず、“怪物”である者もいるのだ。
章を読んでいただき、ありがとうございます。
昨日は体調を崩してしまい、更新できず申し訳ありませんでした。
少しずつ回復していますので、これからも応援よろしくお願いします