第283章 ― ヴォルテルの街に響く声
市場の喧騒に、遠くから聞こえる寺院の鐘の音が重なっていた。
旅人たちはヴォルテルをただの交易都市としか思っていないようで、何も疑問に思わず歩いていた。
だが、リュウガたちにとって、この街の隅々には“秘密”が隠れているのだった。
「二人一組で動こう」
リュウガは落ち着いた声で言った。
「住民と少し話してくれ。必要以上に目立つな。合流は冒険者ギルドで。」
アンは意気揚々とアイオの手を引いて市場へ向かった。
二人は現代日本風の服を着ており、好奇の目を引いたが、「変わった旅人」として通っていた。
セレステはヴェルと、クローはリシアと組み、リュウガはミユキと一緒に歩いた。
彼女はいつものように、愛情と執着が入り混じった目で彼を見つめていた。
クローとリシアは、ある路地の角で商人たちの会話を耳にした。
「奴隷用の首輪、ヴォルテルの魔術師が改良したらしいぞ」
「おい、そんな大声で言うな。あれは祝福でもあり、呪いでもある…。ヴォルテルが作らなきゃ、他の誰かが作ってただろうよ。」
クローは拳を握りしめた。
リシアがそっとその腕を取る。
「感情に飲まれないで、クロー。今はまだ動く時じゃない。」
セレステとヴェルは静かな酒場に入った。
笑い声と酒の匂いの中、いくつかの声が耳に入る。
「聞いたか?“ヴァース”の連中が北から戻ったらしいぞ。皇帝さえ認める実力らしい」
「驚くことじゃない。全員最高ランクだし、リーダーは…異世界から来た英雄って噂もある。」
ヴェルは眉を上げ、セレステは無言でその情報を心に刻んだ。
一方、リュウガとミユキは、街の鍛冶屋に仕事を尋ねていた。
鍛冶屋の男は眉をひそめて彼らを見た。
「よそ者か。忠告しておくがな、この国じゃ英雄の悪口を言っちゃいけねぇ。神様みたいに崇められてるからな……。だが、真実を知ってる奴もいる。」
リュウガは真っすぐ目を見た。
「……真実?」
男は声を潜めた。
「すべての英雄が救世主ってわけじゃねぇよ。中には、笑顔で“処刑人”をやってる奴もいる。」
ミユキが慌てて彼の腕を引き、余計な注目を集める前にその場を離れた。
夕暮れ、全員が合流したのは、石と木でできた巨大な建物――ヴォルテル冒険者ギルドだった。
入り口には松明が灯され、傭兵、探索者、狩人が任務の登録を待っていた。
中に入った瞬間、空気が変わった。
数多くの視線が彼らに注がれ、細部まで値踏みされる。
壁には英雄たちの肖像や成果が飾られていた。
中でも、ひときわ目を引くのは「Verse」のエンブレム。最上位に位置していた。
「これが……この国の冒険者の心臓部か」
セレステが低く呟く。
緊張が走る。
ここからが本番だった。
ヴォルテルの英雄たちの影、そして“誰のために戦っているのか”という問いに、彼らはまもなく直面することになる。
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